シングルマザーとして働く香苗は、同僚・加藤からの個人的な誘いを丁寧に断る。子育てと仕事で手一杯の彼女に、恋愛の余裕はなかった。しかし、加藤が去る際の冷たい背中に、香苗はこの決断が思わぬ事態を招くことを予感して―――。
愛しいわが子たちのために頑張る母
「ママ、みて!きゅうきゅうしゃだよ!」
小さな手でミニカーを握りしめているのは、長男・りゅうや、4歳。その隣で、まだヨチヨチ歩きの次男・みづき(2)が、私の足元に頬を擦りつけてくる。この子たちの笑顔が生きがいだ。
「うん、すごいね、りゅうや。みづきも、ママのそばがいいのね」
昨年、私はシングルマザーになった。夫の不倫が原因で、別々の道を歩むことを選んだ。それからはとにかく必死で働き先を探し、今の職場を見つけて働いている。
今の仕事は、時間の融通が利きやすく、子育てしやすい。だけどその分、仕事の密度は濃いし、職場の人間関係は独特な気もする。
同僚から突然のアプローチ
「宮田さん、悪いんだけど、これ来週までにやっといてくれない?」
声をかけてきたのは、同僚・加藤さん(30歳)。少しチャラいようだが明るいタイプの人だと思う。最初はただの親切な同僚だと思っていた。
「加藤さん、ありがとうございます。来週の火曜には完了させます」
「ありがと!ていうかさ、宮田さん、いつも頑張ってるけど、たまには息抜きしてね~」
「ありがとうございます。でも、週末は子どもたちと過ごす時間で手一杯で…」
正直に言うと、子どもたちが寝た後のわずかな時間で、翌日の保育園の準備や家事をこなすのが精一杯。自分の時間なんて、夢のまた夢。そんなある日、仕事が終わって着替えをしていると、加藤さんがロッカールームの入り口で待っていた。
「宮田さん、ちょっといい?」
「はい、なんでしょうか」
少し改まった彼の雰囲気に、何かがいつもと違うと感じた。
「あのさ、俺、宮田さんのこと、いいなって思ってて。よかったら、今度の土曜に食事でもどう?お子さんに寂しい思いさせないように、短時間でもいいからさ」
丁寧にお断りをしたことが始まり
突然の誘いだった。思わず、胸が詰まる。加藤さんは決して悪い人ではないけれど…。私には今、恋愛をする余裕なんてない。
「ごめんなさい、加藤さん。お気持ちはうれしいんです。でも、今は恋愛する余裕がなくて。子どもを一番に考えたいので…」
努めて冷静に、丁寧に断った。彼を傷つけたくなかったし、これからも職場の同僚として良好な関係を続けたかったからだ。加藤さんは、一瞬、顔から表情を消した。その無表情さが、私には少し怖かった。
「……そっか。じゃあしょうがないね」
そう言って、彼はサッと立ち去った。その背中が、なんだかいつもより冷たく、そして少し、怒っているように見えた。でも私は、精一杯配慮して断ったつもりだから、大丈夫だと自分に言い聞かせていた。
この「精一杯の大人の対応」が、地獄の始まりになるとは、想像もしていなかったのだ―――。
🔴【続きを読む】土曜の21時に「どうするつもりなん?」→同僚男の粘着質な業務LINE|職場にいた逆恨み男の末路
あとがき:優しい拒否が招いた影
シングルマザーとして、香苗はまず「子どもたちの生活を守る」ことを最優先にしています。加藤さんの誘いを断ったのは、彼女にとって当然の選択でした。しかし、この物語は「優しさ」や「配慮」が、時に悪意を持つ人間に通じず、むしろ逆上を招く現実を描き出します。
彼の突然の無表情は、拒絶された男性のプライドが傷つき、態度が一変する予兆なのでしょうか。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










