15年ぶりに再会した親友・美紀。子どもの悩みで意気投合するが、仕事の話になると彼女は「事務みたいな感じ」と不自然に言葉を濁す。かつての隠し事のない絆に生じた小さな違和感が、秋穂の胸に冷たい澱を残す。
15年ぶりに親友と再会
「秋穂! こっちこっち!」
地元の駅ビルにある、少しお洒落なカフェ。自動ドアが開いた瞬間、聞き覚えのある高い声が響きました。窓際の席で大きく手を振っていたのは、中学時代の親友、美紀。15年という月日は、彼女を「女の子」から「女性」へと変えていましたが、その屈託のない笑顔だけは当時の面影を色濃く残していました。
私は結婚を機に隣県へ嫁ぎましたが、今回は実家の母の法事も兼ねた、久しぶりの帰省。SNSで「子どもが同い年」だと分かってから、メッセージのやり取りは続いていましたが、対面するのは卒業以来です。
「美紀! 全然変わらないね、肌なんてツヤツヤじゃない」
「何言ってるのよ、もう必死で隠してるだけ。秋穂こそ、都会の風に吹かれて洗練された感じ!」
私たちは再会を祝して乾杯する間も惜しんで、一気に15年の空白を埋めるように話し始めました。
弾む会話のなかで一瞬空気が変わった
話題は自然と子どものことになります。
「ゆりのがもう5歳でしょ? ちょうど中間反抗期っていうか、口答えがすごくて。本当に毎日が戦いだよ。美紀のところはどう? 陸くん、やんちゃ盛りじゃない?」
「うちはもう、わんぱくすぎてお手上げ! 毎日、家の中が台風が通った後みたいだよ。昨日も壁に落書きされてさ……」
共通の悩みがあることで、私たちの距離は一気に縮まったように感じました。学生時代、放課後の教室で恋バナをしていたあの頃と同じ、無邪気な時間が流れます。
しかし、コーヒーをお代わりし、会話がふと落ち着いた時でした。私は何気なく、大人の再会では定番の質問を投げかけました。
「そういえば、美紀って今お仕事は何してるの? 私はずっと地元の工務店で一般事務なんだけど、美紀も何かパートとかしてるのかなと思って」
その瞬間、美紀のグラスを持つ手がわずかに止まりました。氷がカランと乾いた音を立てます。
「あ……うちは、まあ、なんていうか。適当にやってるよ。事務みたいな感じ……かな」
「事務みたいな感じ?」
聞き返した私の目に映ったのは、明らかに泳いでいる美紀の視線でした。彼女は視線を窓の外へ逸らし、ストローを指先でいじり始めました。
「そう、事務。まあ、書類とかいじったり、子どもの相手……じゃなくて、電話の対応したりとか。それよりさ! 中学の時の担任の先生、覚えてる? あの、いつもジャージだった佐藤先生!」
強引にハンドルを切られた会話。美紀の顔には、先ほどまでのリラックスした表情はなく、どこか「防衛」の気配が漂っていました。事務なら事務と言えばいい。なぜ「みたいな感じ」と濁すのか。なぜ、具体的な会社名や職務内容を聞こうとすると、必死に昔話へ逃げるのか。
モヤモヤが残ってしまった久々の再会
実家に帰り、母にその話をすると、母は台所で手を止めずに言いました。
「人には言いたくない事情もあるのかもね。借金があるとか、すごく厳しい職場だとか……。でも秋穂、せっかくの再会なんだから、野次馬みたいな真似はよしなさいよ」
母に宥められましたが、私の胸には冷たい澱のようなモヤモヤが残りました。隠し事をするような仲だったっけ? 私たちは何でも話し合える、一番の親友だったはず。
私はその違和感に無理やり蓋をして、スマホの画面に「今日は楽しかったよ」と、嘘のない、けれど半分だけの本音を打ち込みました。
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あとがき:友情の賞味期限と「大人の顔」
久しぶりの再会が、期待していた通りの「あのころ」に戻れるとは限らない切なさが漂う初回です。15年という歳月は、単なる思い出の蓄積ではなく、人に見せたくない「事情」や「武装」を育んでしまうもの。秋穂の抱くモヤモヤは、相手を大切に思うからこそ生まれる、誰もが一度は経験する感情ではないでしょうか。純粋な友情と、大人の社交辞令の境界線で揺れ動く心理描写が、この物語の序章となっています。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










