少年野球チームに所属する、桃太。そんな、桃太をほほえましく見守る、母親の春子。しかし、春子はチーム内のある保護者の存在によって、なやみを抱えていました。
息子にとっては、たのしい習いごとだけど…
「お母さん、今日のお弁当は何? 」
「桃太の大好物だよ!しっかり食べて、練習、がんばってね」
「やったー! 完食してくるよ。行ってきます!」
むじゃきにグラブを抱え、玄関を飛び出していく背中を見おくり、私は深くため息をついた。
桃太にとって、少年野球チーム「ライジング・スターズ」は、夢とあこがれが詰まった聖域だ。「プロ野球選手になる」という大きな夢をいだく彼にとって、泥にまみれる時間は、何物にも代えがたい宝物なのだろう。
けれど、私にとってその場所は、「おもくるしい社交場」と化していた。
一年前の春…。地域でも伝統ある、このチームの門をたたいた。入団して一か月もしないうちに、私はこのチームが、単なる「スポーツ少年団」ではないことに気づいた。
保護者たちの間に厳然と存在する、「階級制度」のことだ。
絶対的「女王」の存在
「あら、春子さん。今日もいちばんのりね、感心しちゃう」
保護者専用に設営された大型テントに足をふみ入れると、ひややかな声がとんできた。声の主は、「秋乃」さん。彼女は私と同じ40代で、その佇まいは対照的だ。
「ジムで鍛えた」という引きしまった体に、ブランド物の最新スポーツウエア。サングラスを頭にのせ、完璧なメイクをくずさない。平日は、大手企業でバリバリ働くOLでありながら、週末はチームの「次期保護者会会長」として君臨する、「女王さま」だった。
「秋乃さん。早くから準備ありがとうございます」
「聞いたわよー、先週の練習試合。桃太くん、スタメンだったんですって? 」
秋乃さんの周囲には、数人のママたちが、まるで「侍従」のように控えていた。
「5年生でレギュラー定着なんて…コーチに気に入られているみたいでうらやましいわー。うちの子なんて、まだ下位打線なのに」
秋乃さんの言葉には、いつもトゲが含まれている。
彼女の息子も同じ5年生だが、身体能力では桃太の方が勝っていた。それが彼女のプライドを逆なでしていることを、肌で感じていた。
女王さまのイヤミと息子の活躍
「でも、忘れないでね。このチームは、個人の実力だけじゃなくて、"親の貢献度"も同じくらい大事なんだから。子どもを伸ばしたいなら、まずは親がどううごくか……それが常識よ」
秋乃さんの言う「貢献度」とは、彼女への「忠誠心」を指す。
彼女のきげんを損ねず、彼女の言うことに「イエス」と答えつづける…。そうすれば、その子は試合で積極的に使われ、多少のミスをしても、コーチからきびしく叱責されることはない。
彼女に目を付けられれば、親はムシされ、陰口をたたかれ、精神的に追い詰められていく…。そして、その子の出場機会も目に見えてへっていくのだ。
30代の若手コーチも、保護者会の…とりわけ秋乃さんの圧力には抗えないようだった。
練習中、秋乃さんが「今の守備位置、少し前すぎない?」と口を出せば、コーチは苦笑いしながらも「たしかに…調整します」と従っていた。
技術指導の現場にまで、保護者の派閥が影響を及ぼしている現状に、私は言いようのない不安を覚えていた。
「お母さん! 今の、バックホーム見た!?」
汗と泥で顔をよごした桃太が、かがやくような笑顔でかけよってくる。
「見てたわよ!すごい肩ねー!びっくりしちゃった」
(桃太がたのしく野球をつづけられるなら…私が少しくらいイヤな思いをしてもいい)
そう、自分に言い聞かせた。けれど、この時の私はまだ、この「がまん」が、長くはつづかないことを理解していなかった。
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あとがき:主役は子どもたちなのに…
夢に向かって懸命にがんばっている息子を見ると、母親として保護者間のトラブルで「水を差したくない」…そんな春子の気持ちは、いたいほどわかりますよね。
主役は子どもたちですが、時として、こうした大人たちの欲望に巻き込まれ、いやな思いをする場面もあります。大人としてのふるまい方について、考えさせられますね。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










