「もう、何も言わないことにした」
私はリビングでため息をつきながら、母に告げた。
あれから、かなでは何度か純一と会っているようだった。貴重な20代。その1分1秒がどれほど価値のあるものか、26歳の私には痛いほどわかる。そんな嘘つきの30歳男に費やす時間は、ドブに現金を捨てているようなものだ。
「浮気と嘘は一生治らない」――これは人生の真理だと言ってもいい。
でも、かなでは頑なだった。周りが何を言っても、今の彼女には届かない。恋愛は本人の自由。強制的に引き離したところで、彼女の心が納得していなければ、また同じような男に引っかかるだけかもしれない。
「サツキ、本当にそれでいいの?」
母が心配そうに私を見る。
「お母さん、今のかなでには何を言っても逆効果だよ。自分でも『やめたほうがいい男』だってことは分かってるんだから。それでも好きっていうのは、もう本人が痛い目を見て、心から嫌いになるまで待つしかないんだよ」
私は、自分自身に言い聞かせるように言葉を続けた。
「ちょっとだけ、見守ってみよう。かなでが本当にボロボロになって帰ってきたとき、私たちが全力で受け止められるように準備しておこうよ」
母は寂しそうに「そうね……」と頷いた。 ※1
母と姉の「見守る」勇気
泥沼の恋愛にハマってしまった妹・かなで。一時は、彼に別れを告げ、破局を迎えた2人でしたが、情が残っていたようでズルズルと関係が続いてしまったのです。
妹のために、言いたいことは山ほどありますが、サツキはグッとこらえることを選びます。
ついに訪れた、本当の終わり
季節が変わり始めたある日の夕方。 玄関の扉が勢いよく開き、かなでが飛び込んできた。その顔は涙でぐちゃぐちゃで、声にならない悲鳴を上げながら床に泣き崩れた。
「……終わった。全部、終わった……」
母と二人で、震えるかなでを抱きしめる。 落ち着いてから語られた事実は、予想の斜め上を行くものだった。
なんと、純一には数年前から同棲している「本命の彼女」がいたのだ。だから、デートはいつも外だし、家にはなかなかあげてくれなかったようだ。
かなでが、彼のアカウントを執念で探っているうちに、ある女性の投稿にたどり着いた。そこには、「3年記念日」を祝う二人の写真が載っていた。 かなでは、最初から「本命」ではなく、単なる「遊び相手」の一人に過ぎなかったのだ。
「私……ずっと浮気相手だったんだね。嘘つかれて、年齢も騙されて、その上……」
かなでは、声を上げて泣いた。 今度は「好き」なんて言葉は一言も出なかった。ただただ、自分の愚かさと、相手への猛烈な嫌悪感が彼女を支配していた。
母が優しく言った。
「かなで、いい勉強になったわね。何事も経験よ。これからはもっといい人がいるから。見る目を養いなさい」
かなでは、泣き腫らした目で私を見た。
「お姉ちゃん、ごめんなさい。あの時、お姉ちゃんたちが言ったこと、全然聞かなくて……。私のために怒ってくれたのに……」
「いいよ、かなで。自分で気づけたことが一番大事なんだから」
私は妹の頭を撫でた。 あんな最低男のために流す涙は、これが最後だ。 ※2
「痛い目を見て、自分で気づくしかない」と思い、見守りを徹底してきた姉と母。ついに、そのときはやってきました。自分が「本命ではなかった」という残酷な事実を突きつけられ、かなでは吹っ切ることができたのです。
人生には、時には傷つくことも必要ですね。
最低な男と別れた妹の変化
それからのかなでは、見違えるように明るくなった。
純一の連絡先は、今度こそ完全にブロックして削除。隠しアカウントもすべて通報したという。
「これからは、好きな人ができたら真っ先にお姉ちゃんに相談するね!」
そう言って笑う妹の顔には、もう迷いはなかった。 20歳の失敗なんて、長い人生で見ればかすり傷だ。むしろ、若いうちにこういう「劇薬」を摂取したことで、彼女の男を見る目は確実に研ぎ澄まされただろう。
「次は、誠実さが服着て歩いてるような人を選びなよ?」
「わかってるって!もう、顔だけで選ぶのは卒業!」
私たちは顔を見合わせて笑った。妹がいつか、心から信頼できる誰かと素敵な恋愛ができるように。
私はこれからも、一番近くで彼女のサポートを続けていくつもりだ。 もう二度と、あんな土下座男に彼女の時間を一秒たりとも渡さないと心に誓って。 ※3
「劇薬を摂取した」という表現、印象的ですね。ツラい経験をしたからこそ、顔ではなく中身で選ぶことの大切さを痛感した妹・かなで。これからはきっと、素敵な出会いが待っていることでしょう。
本作では、大切な家族が最低な男との恋愛にハマってしまった様子が描かれています。家族を守るため、アレコレ口出ししてしまいそうですが、姉は「見守る」ことを徹底します。
ときには、自ら痛い目を見ないとわかならいことも。特に、恋愛はそうですね。口出しすることだけが、家族の愛ではありませんね。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










