©ママリ
「あのね、祥太。今回のことでよくわかったの。家計から宝くじを買うと、当たっても、当たらなくても、私たちの関係にヒビが入るよ」
「……は? そんなに怒ること?実際、家計は潤ったんだし、家電も新しくなって全員ハッピーじゃん」
祥太の声に苛立ちが混じります。でも、私は退きませんでした。
「たしかに物は手に入ったよね。でも私は祥太に対して『ずるい』って不信感を持つようになった。宝くじってギャンブルみたいなものなのに、当たらない間の出費にはお礼も何もなくて、当たったときだけ祥太に感謝するのはおかしいよ。もし200万じゃなくて、1億だったらどうなってた? 祥太はもっと『俺の金だ』って主張したと思うよ」
「そんなの、仮定の話だろ?」
「そうかもしれないけど、私はそう思うの。だから、これからはあなた自身の純粋なお小遣いで買って。それなら、1億当たっても私は何も言わない。一円も家計に入れなくていい。その代わり、購入費は家計から出さない。それでいいでしょ?」
祥太は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしています。彼は、「俺のほうが大人になって譲ってやった」という自分勝手な物語に酔って、その裏で私がどれほど傷つき、冷めた目で彼を観察していたかに全く気づいていなかったのです。
「200万ぽっちでこんなに家族を見る目が変わるなんて思わなかった。こんなことになるなら、家計からの出費は絶対に嫌だよ」
私の真剣すぎる眼差しと、その言葉の重みに、祥太はようやく言葉を失いました。部屋を包む沈黙の中で、彼はようやく事の重大さに気づいたようでした。
「……わかった。次からは、俺の小遣いから買うよ」 ※1
やっと言えた、妻の本音
宝くじが当たったのがきっかけで、夫婦の価値観の違いがあぶり出されてしまいました。夫は態度が大きくなり、妻は強制的に感謝の言葉を述べなければいけない雰囲気。これでは、夫婦として対等とは言えません。
汐里は、ずっと冷めた心で祥太を見ていましたが、そのことにまったく気づいていませんでした。そればかりか、さらなる宝くじの購入を提案。
ですが、今回の話し合いがきっかけで、ようやく汐里の本音を伝えることができました。今までギクシャクしていた関係が、ようやく少しずつ修復へと向かいます。
夫の驚くべき変化
そんなある日の金曜日の夜。子どもたちが寝静まり、私がリビングで一人、明日からの週末の予定を立てていたときのことです。会社から帰宅した祥太が、照れくさそうに後ろ手に何かを隠しながら近づいてきました。
「……これ。遅くなったけど」
差し出されたのは、宝石店の小さな箱でした。
「え……何? これ」
「50万の中から買ったんだ。……汐里に、苦労かけてるからさ。俺、本当にバカだったなって、ずっと考えてて」
箱を開けると、そこには繊細なプラチナのチェーンの先に、一粒のダイヤモンドが小さく、力強く輝いているネックレスが入っていました。
「サプライズなんて……びっくり……」
「いや、なんかさ……。汐里にあの時言われてから、ちゃんと考えたんだ。俺、当たって浮かれて、一番大事なこと忘れてたなって。家計のお金は俺が稼いでるだけじゃなくて、汐里が守ってくれてるお金なんだよな。それで当たった当選金を自分ひとりの手柄みたいに言ったの、本当に後悔してる」 ※2
祥太は、改めて汐里から言われたことを考え反省し、謝罪の気持ちを行動で示してくれました。汐里にとって、これほどうれしいことはありません。
これでようやく、祥太に対する不信感が溶けます。
ダイヤから感じる本当の価値
祥太の言葉には、心からの謝罪と、私への敬意がこもっていました。私はそのネックレスを手に取り、指先でダイヤに触れました。視界が急にぼやけ、熱いものが頬を伝いました。
「……ありがとう。大切にするね、本当に」
200万円という大金は、一時は私たち夫婦の信頼関係をバラバラに壊しかけました。お金そのものには意志がありませんが、それを持つ人間の心の弱さをあぶり出す力があるのだと思い知らされました。
でも、この騒動があったからこそ、私たちは今まで避けてきた「家族のお金」の定義や、「お互いの役割への敬意」について、初めて本音でぶつかり合い、深く話し合うことができたのだと思います。
今、鏡を見るたびに、私の胸元ではダイヤが小さく光っています。これは宝くじの当選金の一部で買われたものですが、私にとっては単なる貴金属ではありません。「夫が自分の非を認め、私をパートナーとして尊重してくれた証」としての価値のほうが、200万円という数字よりもずっと大きく、重いのです。
お金で揉めるのはもうこりごりですが、もし次にまた彼が「夢」を追いかけ、自分の力で何かを掴み取ってきたときは。その時は今度こそ、疑念も不信感もなく、心から「すごいね、おめでとう!」と一緒に笑い合えるはずです。新しい冷蔵庫から冷えたお茶を取り出しながら、私はそう確信していました。 ※3
汐里にとって、祥太からの贈り物は、値段以上の価値を感じるものでした。
本作では、宝くじ200万円の当選がきっかけで、夫婦の絆が崩れてしまった様子が描かれています。ですが、この騒動があったからこそ、改めて夫婦でお金の価値観を話し合い、着地点を見つけることができました。夫婦でのお金の価値観のズレのこわさについて、考えさせられる作品です。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています
イラスト:糸野内たおる










