児童館で館長の森下から、息子・悠真が他の子に強い言い方をしていたと告げられた真帆。さらに無視する様子も見られたと聞き、動揺を隠せない。帰宅後、悠真に事実を確認すると、あっさりと認めたうえで、ある“理由”を口にする。
「気になる様子があって…」突然の呼び止め
「高瀬さん、少しよろしいですか?」
児童館の玄関で悠真を迎えた帰り際、館長の森下さんに声をかけられた。
「はい……?」
少しだけ柔らかい口調だったけれど、その表情にはどこか気遣うような色が浮かんでいて、胸の奥がざわつく。
悠真はすでに靴を履き終えていて、外に出たそうにそわそわしている。
「悠真、ちょっとだけ待っててね」
そう声をかけてから、私は森下さんの方へ向き直った。
「今日、少し気になる様子があって……」
その一言で、嫌な予感がはっきりと形になる。
「悠真くんが、他の子に少し強い言い方をしていて」
「強い言い方……ですか?」
思わず聞き返す。
森下さんは、慎重に言葉を選びながら続けた。
「遊びの中でのやり取りではあるのですが……少しきつい口調で注意したり、言い方が強くなってしまっている場面がありました」
頭の中で、言葉がうまく整理できない。
あの悠真が?
誰かに、そんなふうに?
「家では、そういう様子は……」
そこまで言いかけて森下さんは言葉を止め、私の返答を待った。
けれど私は、家で見ている悠真しか知らない。
耳を疑うような今回の話に、私は動揺を隠せずにいた。
「それだけではなくて……」
森下さんは少しだけ声のトーンを落とし、また話し始めた。
「他の子を無視するような場面も見られていて……」
「……無視、ですか?」
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
関わっていたのは、あの子だった
「はい。特定のお子さんに対して、というわけではないのですが……ただ、その中で一緒に行動しているお子さんがいて」
一拍置いてから、名前が出た。
「翔くんなんですけど……」
「……翔くん……?」
思わず、目を瞬かせる。
その名前には、聞き覚えがあった。
悠真と同じクラスの子。以前、少しトラブルがあったと聞いたこともある。
「2人で一緒にいる時間が多くて、その中で強い言い方が重なってしまっているように見えて……」
森下さんはあくまで穏やかに伝えてくれている。
責めているわけではない。
それでも、その内容は軽く受け止められるものではなかった。
「……そう、だったんですね」
なんとかそれだけ返す。
頭の中が、ぐるぐると回っている。
どうして?
いつから?
どうして私は、それに気づけなかったんだろう。
帰り道、悠真はいつもと変わらず話しかけてくる。
「ねえママ、今日ね...」
楽しそうに話すその声を聞きながら、さっきの話が頭から離れない。
(この子が、本当に……?)
信じたくない気持ちと、向き合わなければいけない現実が、せめぎ合う。
「だって、翔くんもやってたし」
家に着いて、荷物を置いた。
少しだけ間を置いてから、私は悠真に声をかけた。
「ねえ、悠真」
「なに〜?」
振り向いた顔は、いつもと同じ。
だからこそ、余計に言葉を選ぶ。
「今日……児童館で、お友だちに強い言い方しちゃったの?」
できるだけ穏やかに、問いかける。
すると悠真は、少しも迷うことなく答えた。
「うん、言った」
あまりにもあっさりした返事に、言葉を失う。
「……そっか。どんなこと言ったの?」
「えーとね、『それ違うし』とか、『ちゃんとやってよ』とか」
悪びれる様子もなく、思い出しながら話している。
その様子に、胸の奥がざわつく。
「それで……どうして、そういう言い方になっちゃったの?」
そう聞くと、悠真は少しだけ首を傾げてから
「だって、翔くんもやってたし」
そう答えた。
「……え?」
思わず、聞き返してしまう。
「翔くんもさ、同じこと言ってたよ? だから言った」
当たり前のことのように、悠馬はそう答える。
その言葉に、息が詰まる。
翔くんの名前が出てきたこと。
そして、その行動を“基準”にしていること。
「みんな、そういうふうに言ってるし」
続けて出てきた言葉に、何も言えなくなる。
それは、本当に“みんな”なのだろうか。
「……そっか」
なんとか、それだけ返すのが精一杯だった。
頭の中が真っ白になる。
どうしていいのか、わからない。
ただひとつだけ、はっきりと感じていた。
(このままじゃ、いけない。)
でも、何をどう伝えればいいのか。
その答えは、まだ見つからなかった。
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あとがき:気づいたとき、親はどう向き合うのか
子どもが誰かに影響を受けて変わっていくことは、決して珍しいことではありません。しかし、それが「誰かを傷つける方向」に向いてしまったとき、親としてどう向き合うべきかはとても難しい問題です。
本作では、“いじめる側になってしまう背景”にある子どもの心理や葛藤にも目を向けながら、単純な善悪では片付けられない現実を描いていきます。
真帆と悠真が、この問題にどう向き合っていくのか、ぜひ見守っていただければ幸いです。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています。










