🔴【第1話から読む】隣人の異変。9歳の息子と若いシングルマザーの「危うい日常」
瑠美が会っていた男は、「彼氏」ではなく「愛人」だった。愛人と会うため、ライくんを放置しているのだと思ったサチ。忠告しようとするが、瑠美の真意は別のところにあると知る。彼女の打ち明ける、母親としての覚悟とは…?
「母親」としての真意とは
「彼氏?あー、そう伝えてましたね。…ただの愛人です」
そう言った彼女の表情は、なんとも胸がいたくなるものだった。
私の知っている瑠美さんは、明るくてチャーミングな…どちらかというと、「パワフルな若者」という印象だった。でも、今、目の前にいる瑠美さんは、どこか自分の人生をあきらめているような…くたびれた、三十路手前の女だった。
「ここの部屋…あの人が用意してくれてるんで…。ごきげんとっておかないと」
「ライくんは…」
「知ってますよ…。ここが"あの人の家"ってことは。さすがに愛人だとは言ってないですけどね。はは…だから、私があの人のとこに行っても、もんく言わないんですよ」
「だからって…」
「心配してくれてるのは伝わりますけど、これは私たちのことなので。鹿目さんはだまっててくれると助かります。特に、近所の人たちには。あることないこと言われるの、めんどうくさいので」
「ここから先には立ち入れさせません」という、壁を下ろされた感覚だった。
シンママの覚悟
「まあ…不倫関係なんて…あたり前にそう長くつづくとも思ってないんで。だから今のうちにはたらいて、お金を貯めておかないと…。ライは大学までいかせてあげたいんですよねえ。私は…あいつなんかいなくても、ちゃんとライを育てられる…」
「あいつ」というのは、元夫のことだろうか。
私よりもずっと年下の彼女が、そこまで背負っていたなんて。何も知らないとはいえ、「子どもを放って、夜な夜な男とあそびまくっている母親」だという目で見ていた自分を、少しだけ恥ずかしく思った。
「じゃあ、支度しないといけないので。…心配かけてすみません」
「あ…でもじゃあ、私がライくんにごはんをつくってあげるのはいいですか?」
「え?…あぁ…私は何もお返しできませんが、それでもいいなら」
私は「もちろん」というふうに、せいいっぱいの笑顔を返し、会釈をして立ち去ろうとした。
「鹿目さん」
すると、瑠美さんが私を呼び止めた。
「…もう一個だけ、いいですか」
「もうちょっとだけラクになりたくて」と、彼女は今にも泣きそうな表情で言った。
手放したくない
瑠美さんはうつむき、今にも泣き出しそうに肩をふるわせた。しかし、またパッと顔を上げると、彼女はゆっくりと話し始めた。
「さっき…すごい生意気なこと言ったと思うんです。"一人でもライを育てられる"って。でも本当は、離婚した後すぐは、ライのことを児童施設にあずけようかって思ってたんですよね…」
「え…?」
「たよれる親もいない…高校中退して、夜の仕事しかしてこなかった私が、一人で子ども育てるなんて…絶対ムリだって、自暴自棄になってたんです」
当時で言うと、瑠美さんは20歳。不安になるのは当然だ。私だって、同じ状況だったら不安でしかないだろう。
「でも、施設探しとか手つづきとかしてるうちに、なんか、"イヤだっ"て感情があふれてきて…。この子を手放したくないなって、急に覚悟が決まったんです」
「そうだったんですね…」
「そんな時、彼氏に出会って…家と少しの生活費は助けてあげるからって約束で、今の関係になったんです。こんなの良くないって分ってます。でも、当時の私には、ライを守る道がそれしか思いうかばなくて…」
おせっかいの未来
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「話してくれて、ありがとう。でも、ライくんとの時間は大切にしてほしい。そのために、私にもできることがあったら言ってください」
「…はい」
瑠美さんは弱々しくも、うれしそうな微笑を向けてくれた。
「そういえば…夫の職場で人が足りてないって話をしてたから…相談してみます。福利厚生もいいから、住宅も安く住めますよ。あと、ひとり親家庭を支援してくれる制度もあるので、一度、一緒に役所に相談しに行きましょう」
「え…本当ですか」
彼女は彼女なりの覚悟で、ライくんを思っていた。そのことが知れただけでも、私は氷川家におせっかいをして良かったと思う。
その後、瑠美さんは私の夫の職場で就職が決まった。愛人とはきっぱりと関係を切り、まじめに、コツコツとがんばっている。彼女の覚悟が本物だったことがよくわかった。
ライくんが中学生に上がった現在…いそがしいことに変わりはないが、瑠美さんも確実に家にいる時間がふえたようだ。
実は、瑠美さんが夫の会社に就職した時に引っ越したので、もう、「おトナリさん」ではない。でも、時々、わが家に顔を見せにきてくれる氷川親子は、今、とてもしあわせそうに笑っている。
🔴【第1話から読む】隣人の異変。9歳の息子と若いシングルマザーの「危うい日常」
あとがき:見返りなんて求めずとも
こまっている人を目の前に手を差し伸べることは、時には「おせっかい」になる場合もあります。また、「見返り」を求めたり、自分を満たすためにする行為は、相手にとって迷惑なだけになってしまう場合も…。
サチは絶妙な距離感と、心から「助けたい」という思いで、自分のできる範囲を理解した上で、氷川親子に手を差し伸べました。それは瑠美の自立を助け、ライくんの笑顔を守る結果へとつながったのではないでしょうか。
今回のように、他人の家庭にどこまで介入するかむずかしいケースもあります。「自分にできること」と「相手が求めていること」にしっかり線を引いて接するサチの行動が、とても参考になりましたね。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










