「あら、春子さん。今日もいちばんのりね、感心しちゃう」
保護者専用に設営された大型テントに足をふみ入れると、ひややかな声がとんできた。声の主は、「秋乃」さん。彼女は私と同じ40代で、その佇まいは対照的だ。
「ジムで鍛えた」という引きしまった体に、ブランド物の最新スポーツウエア。サングラスを頭にのせ、完璧なメイクをくずさない。平日は、大手企業でバリバリ働くOLでありながら、週末はチームの「次期保護者会会長」として君臨する、「女王さま」だった。
「秋乃さん。早くから準備ありがとうございます」
「聞いたわよー、先週の練習試合。桃太くん、スタメンだったんですって? 」
秋乃さんの周囲には、数人のママたちが、まるで「侍従」のように控えていた。
「5年生でレギュラー定着なんて…コーチに気に入られているみたいでうらやましいわー。うちの子なんて、まだ下位打線なのに」
秋乃さんの言葉には、いつもトゲが含まれている。
彼女の息子も同じ5年生だが、身体能力では桃太の方が勝っていた。それが彼女のプライドを逆なでしていることを、肌で感じていた。 ※1
当たりがキツイ保護者
スポーツ少年団の中で、なぜ同じ保護者からこのような態度を取られないといけないのでしょう?子どもの実力と、親同士のいざこざは、関係ありませんよね。ですが秋乃は、春子の息子のほうがチーム内で高い評価を得ていることが気に入らないようです。
6年生の卒業が近づいてきたある日。チーム内は「代替わり」の話題で持ち切り。秋乃は、「次期会長」の座がほぼ約束されている状況です。そんな中、秋乃から呼び出されます…。
あ然…専業主婦を軽視した発言
「来期から、5年生以下の遠征や練習試合の送迎、あなたが全員分担当して。私の車や他のママたちの車を使うのはなしね。自分で手配して、子どもたちをはこぶのよ」
思わず、耳をうたがう。
(全員分の送迎? 一学年だけで10人以上いるのに?)
「……え、私の車は軽自動車です。全員分を一人で…というのは、物理的に不可能です。ガソリン代や高速代だって…」
「専業主婦なんだから。時間はたっぷりあるでしょ? 何往復でもすればいいじゃない。他のママたちは共ばたらきで、週末だって家事や仕事でいそがしいのよ。社会に貢献していないあなたが、チームのために汗をかくのは当然の義務じゃないの?」
「専業主婦」へのあきらかな蔑視。私は奥歯をかみしめた。
「それは…送迎は協力し合うのが原則のはずですよね……」
秋乃さんは一歩近づき、私の顔をのぞき込みました。 ※2
まさか、たった一人で部員の送迎を請け負わなければいけないなんて…。物理的にムリですよね。さらに、秋乃の言い方には明らかに傷つけようとしている意思が含まれており、嫌悪感を抱きます。
春子も、負けじと言い返しますが、結局は秋乃の圧力に屈してしまいます…。
心身ともに追い詰められて
結局、私は「5年生以下・全送迎担当」として、保護者会の名簿に記載されてしまった。
週末が近づくたび、動悸がはげしくなった。金曜日の夜は、翌朝のムリなスケジュールをシミュレーションしては、ひや汗をかいて飛び起きる日々…。
「お母さん…最近、元気ないね」
桃太が心配そうに聞いてくるたび、私は「そんなことないよ、大丈夫」と、力なくほほえむのがせいいっぱいだった。
しかし、そんなムリは長つづきするはずもなく、ほどなくして体は悲鳴をあげた。
ある土曜日の朝。目覚めると、頭がわれるような痛みと、経験したことのないほどの悪寒におそわれた。体温計をワキにはさむと、表示されたのは「39.2度」という数字。 ※3
精神的にも体力的にも追い込まれてしまった春子は、とうとう倒れてしまいました…。ムリなことは、絶対に続かないものです。
他の保護者もコーチも、秋乃の報復がこわくて誰も逆らうことができません。ですがスポ少は、子どものための組織ですよね?保護者のいざこざには、巻き込まれたくないものです。子どものためとはいえ、親自身も大切にしなければいけませんね。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










