1か月後…。いそがしい出勤日に、それは起きた。
「西川さん、ちょっと来て!」
50代のベテランパートの山内さんに、診察室から呼ばれる。
受付業務で手いっぱいになっていた私が向かうと、彼女は思いがけない指示を出した。
「診察が立て込んでるから、検査室への案内と説明をして!そこの器具洗浄もお願いね!」
契約外の仕事のわり振りに困惑する。しかも、今まで経験したことのない内容で、まちがえると責任を問われそうなものだ…。
「え…でも、それは…」
「いいから!モタモタしてないで!」
彼女の声に圧倒され、見よう見まねで何とかこなした。
途中、患者から、わからない質問をされてこまる場面も出る。神経をすりへらし、気づけば退勤の時間を10分超過していた。
「あなた…もうちょっと学んでおいてね」
帰り際、山内さんに声をかけられる。
言い返す気力もないまま「はい…」とだけ答えて、タイムカードを押した。 ※1
困惑…契約外の仕事を押しつけられる
医療の現場では、ミスが命取りになってしまうことも。医療事務なのに、器具の洗浄や検察室への案内を押しつけられても困ってしまいます。しかし、人手不足なのでしょう。ベテランパートの指示に従うしかありませんでした。
その後も、契約外の仕事を命じられることが増えます。美奈は悩み、一度院長に直談判をしました。ですが「空気を読んで働いて」と、横柄な態度を取られてしまったのです。
契約外の仕事を時給アップでごまかす院長
「クリニックを辞めようか」と考えたが、扶養内で希望の時間にはたらける場所はここしかない。
コンビニやスーパーなどもあるにはあるが、未経験の仕事だし、医療事務の業務は好きなのでつづけたいと思う。
結局、違和感を持ちつつも、はたらき始めてから、ずるずると一年近く過ぎた。
あいかわらず、契約外の仕事を振られるが、繁忙期以外はかわすようにしていた。すると、私に対するヘイトの声が、一部のパートから上がるようになったのだ。
ある日、院長から「相談があるんだけど」と呼び出され、こんなことを言われた。
「こまるよ。皆がしている業務を…君もしてくれなきゃ」
カチンときた。私は契約以外の仕事をするのがイヤだと訴えたが、彼は「他と足並みをそろえろ」と言うばかりだ…。
ついには、変な交渉まで持ち出してきた。
「わかった、わかった!時給を上げればいいんでしょ」
どうしてそうなるのか…。何でもお金で解決しようとする魂胆に、いや気がさす。
だが、一瞬考えた。時給を上げてもらえば、時間をへらしても、今までどおり稼げる。
空いた時間で転職活動をすればいいのだと思いついた。 ※2
問題をすり替えようとする院長の魂胆が見え見えで、嫌気が差します。ですが、働くママにとって転職活動は容易ではありません。とはいえ、今回の時給アップがきっかけで、転職活動をする時間が確保できそうです。
その後、何軒かの病院やクリニックをまわり、内定をもらった美奈。さっそく辞めることを院長に告げます。すると…。
魅力的な条件か、働きやすい環境か…
追い詰められた院長は、ある提案をした。
「わかった!君にも車通勤を認めよう。それならどうだ?」
「車通勤…ですか?」
「ああ。駐車場も1台空いたし…交通費もきちんと払う!」
この条件は魅力的だった。
今は、自転車通勤しか認められていない。駐車場代に金がかかるのがいやな院長は、一部のパートにしか、車通勤を許可しないのだ。
(車で通勤できたら、お迎えもすぐに行ける…)
今はいったん家に帰ってから、車でバタバタと園へ向かっている。
引きとめ材料にとまどっていると、院長は「成功した」と思ったらしい。
「その反応はOKてことだね!じゃあ、これからもよろしく!」
「…え?待ってください」
こちらの話も聞かず、院長はいそがしそうに診察室へ消える。しかたなく、いったん保留にして、しばらく考えることにした。 ※3
「車通勤」という魅力的な条件に、美奈の決心は揺らいでしまいました。子育て中のママにとって、5分でも10分でも、時間を短縮できるのは魅力です。
ですが結局、美奈は転職を決意。いくら、いい条件を提示されても、ごう慢でクセが強い院長と、お局パートが支配する、ギスギスした職場では働きづらいものです。美奈は、条件は劣るものの、気持ちよく働ける職場を見つけ、今は生き生きと働いています。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










