政府も妊産婦の自殺対策に対して新しい取り組みに着手
日本でも深刻な問題となっている、妊産婦の自殺。
妊娠してから産後1年までの間に自殺した女性は、2014年までの10年間で、東京23区内のみでも63人いたということが、東京都監察医務院と順天堂大の調査により明らかになっています。また、このうちの40人は産後であり、5割の人が産後うつなどの診断を受けていました。
これを受けて、厚生労働省では、2017年より、産後うつなどによる自殺者も、妊産婦死亡に関する統計に加えることとしました。
また、政府では、2017年夏にまとめる自殺総合対策大綱に、妊産婦を母子保健事業と連携してサポートすることの重要性を記載するなど、新しい取り組みが始まっています。
なぜ今産後うつが問題になっているのか
妊産婦の自殺の原因としてあげられている「産後うつ」。
核家族化が進み、夫婦二人で育児をしなければならず、夫の仕事が忙しい場合は一人で産後を過ごさなければならないケースも多くなってきました。
そのため、周りの助けを得られない産後のママは、産後の鬱々とした気持ちを一人で抱え込みながら、育児をしなければなりません。
特に産後1ヶ月は、外出もできず、周囲の人に会う機会もなかなか作れないため、この気持ちを抱え込んでしまいます。
- 東京都監察医務院・順天堂大「うつ病等の精神疾患合併妊産婦の診療と支援について」うつ病等の精神疾患合併妊産婦の 診療と支援について(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000134647.pdf)
ママを追い詰めているものの正体…それは「孤独」
私も、実は、産後うつになりかけたことがあります。
実家や義実家を頼ることはできず、夫も激務で、産後の退院後は一人で家事育児をこなさなければなりませんでした。いわゆる「ワンオペ育児」です。
幸い、産後1ヶ月をピークに気持ちが和らいでいき、「産後うつ」と言えるほど精神状態が悪化することはありませんでしたが、私と同じような状況で産後を迎えるママは、現代では少なくないと思います。
私の場合は、産後1ヶ月経って外出できるようになってから、可能な範囲で大人と話す機会を持ち、似たような境遇で子育てをしている友達にも出会い、それによって、先の見えない育児や、うまく表現できない悶々とした気持ちをだいぶ解消することができました。
しかし、もし、周りに「ママ」がいないような地域で生活していたら…。自分であえて外の世界に飛び込まなかったら…。私も産後うつになっていたかもしれません。
夫の長時間労働
私の夫は、仕事が忙しく、朝は早く、夜も日付が変わるか変わらないかの時間に帰宅します。休みも、週に1回あるかないか程度です。それは、産前も、産後も、今も変わりません。
核家族化で、夫婦二人で子育てをしなければならない状況の家庭が多い現代、ママの産後にパパが育児や家事に参加できない長時間労働が今も続いていることは、大きな問題だと感じます。
産後、満身創痍になった身体で、慣れない赤ちゃんの世話をするだけでも大変です。しかも、産後1ヶ月は赤ちゃんを連れて外に出かけることもできないため、周りに頼れる人がいない場合、1日中誰とも会話せずに過ごすことになります。
赤ちゃんはとても可愛いけれど、生後すぐの赤ちゃんは、まだママと上手にコミュニケーションを取ることができません。泣いて何かを訴えるのが精一杯です。また、ママはママで、慣れない育児、数時間おきにする授乳をしながらも、ぐっすりと寝ることもできません。そのため、ママが必要としているのは、身近な「大人」とのコミュニケーションです。
一緒に育児をしていくべき「パパ」にこそ、ママとしっかりコミュニケーションを取り、産後のママを支えてあげてほしい、そしてそれが堂々とできる社会になってほしいと願います。
地域コミュニケーションの希薄化
現在、特に都心では、近隣に住んでいる人とコミュニケーションを取る機会も、昔に比べて激減しているように感じます。
自分が子供のころは、町内会や、回覧板などがあり、同じ地域に住んでいる人のことや家族構成など、なんとなく把握していたというママも多いのではないでしょうか。
また、困った時には声をかけてくれる人がいたり、おすそ分けをする間柄の人が家の周りに住んでいたりしたという経験をしたこともありましたが、今はほとんど無いに等しいです。
私も、近所のおばさんや同じマンションの先輩ママからの何気ない声かけに、救われたことがあります。話題は、否定的なことでなければ何でも良いんです。大人と会話する、ただそれだけで気持ちが救われることもあります。
子供は、親だけでなく、地域、社会、みんなで育てていくもの…その意識を皆が持つようになれば良いなと願っています。
「私のころはこうだった」気持ちに寄り添わない意見の押し付け
育児の事情は、年々変化しています。
ママとその母親では育児の常識が違うのはもちろんのこと、同じママの子供でも、第一子の時と第二子の時で事情がだいぶ違っていた…という話もよく耳にします。
里帰りをしたり、近くにお母様がいたりするママからよく聞くのは、「私のころはこうだった」「私はこうしたんだからこうするべき」という意見の押し付けです。自分のやっていることを否定されたり、誰かと比較されたりすると、必死で育児に取り組んでいるママは突き放されたような気持ちになってしまいますよね。
子育てをしているママの気持ちに寄り添っていく、その意識が社会全体に芽生えていくと、ママの孤独な気持ちも少し和らぐのではないでしょうか。
産後うつを減らすカギは、「孤独」を減らすこと?
産後うつを助長する原因が「孤独」にあるのであれば、産後うつを減らす鍵は「ママを孤独に追いやらない」ことにあるのではないかと私は考えています。
夫の長時間労働を減らしたり、地域のコミュニティを活性化させたりするのは、残念ながら、ママ一人が声をあげても、すぐに改善することではありません。
それでも、何かできることはないか、私なりに考えてみました。
赤ちゃんを連れているママに出会ったら…
赤ちゃんを連れているママを見かけたら、赤ちゃんに関することでも、ママに対してでも何でも良いので、声掛けをしてみてください。
私自身、産後、近所のスーパーに出かけたときに、声をかけてくれた人のおかげで、少し人と話すことができ、気持ちが軽くなったことを覚えています。
そして、できるだけ、「赤ちゃん可愛いですね」「ママ大変ですよね」など、ポジティブな言葉や、ママの気持ちに寄り添うような言葉をかけてあげてください。
これだけで、張りつめていた気持ちの糸がゆるむことがあります。
「困ったときはお互いさま」近所での助け合い
近所に出産したばかりのママや、妊婦さんが住んでいた場合も、声掛けをしてみることをおすすめします。
全くの他人にいきなり声をかけるのは抵抗がありますが、お互い子供がいる立場なら、話しかけやすいということもあります。これからママになる人や、ママになったばかりの人にとって、近所に何でも聞ける先輩ママがいることは、とても心強いんですよ。
ただ、注意してほしいのは、あまり深入りしすぎないようにすること。また、アドバイスをするのは良いですが、押し付けたり、上から目線になったりしないようにすることです。
「困ったら何でも言ってくださいね」というスタンスで声掛けをしてみましょう。
リアルなコミュニケーションだけではない!ネット上のエールに救われることも
これまでは、現実でママに出会った場合の声掛けについてご紹介してきましたが、初対面の人に声をかけるのは緊張してしまう…という方も多いのではないでしょうか。
でも、私たちが助けられるのは、実際に出会ったママたちだけではありません。産後の悩みについてブログを書いている人にコメントしたり、Q&Aサイトやアプリで悩んでいるママに対してエールを送ったりするだけでも、誰かの気持ちを楽にしてあげられることがあります。
ママリQにも、「産後うつがひどくて死にたい」と投稿していたママに対して、あたたかいメッセージが寄せられていましたので、少しご紹介しますね。ママリQとは、妊娠・出産・育児の質問や悩みを、全国の先輩ママに無料で相談することが出来るQ&Aアプリです。
ママリQより:産後うつのママへのエール
産後鬱は真面目で頑張り屋さんなお母さんがなりやすいっと聞きました!
だれか周りに助けを求められる人は居ませんか?
実母さんや嫌で無ければ義母さんなど、短時間でも良いので預かって貰ってゆっくり寝るなりストレス発散に何処か行くなり出来ませんか?
旦那さまやお母様方が理解してくれるかたなら良いのですが…
みくさん、頑張り過ぎなくて大丈夫だと思いますよ!
お母さんは生まれた瞬間、お腹に出来た瞬間からお母さんな訳では無く、赤ちゃんと一緒に成長してお母さんになっていくものですよ!
完璧なお母さんなんて居ません!!
私も産後病院で大泣きしました!
意味も無く、半日泣き続けた日もありました(>_<)
たくさん泣いてください。
たくさん泣いた後は少しだけ、前に進んでいると思います。
またここで
辛い気持ちをお話しされてください!
たくさんの人が聞いてくださると思います(^^)
今、泣けませんか?
泣く事を頑張ってみませんか?
病院に行かなくても、文字打たなくてもできます!
たくさん泣かれたかもしれませんが、もっとです。もっと泣いてください。
とてもあたたかいエールですね。私も読んでいて涙が出てきそうになりました。
産後うつで、最初は、死にたい、誰かに何かを言うのもつらいと言っていた質問者の方ですが、「もっと泣いてください」と熱く励まされるうちに、涙が出て、少し気持ちを落ち着かせることができたようです。
そして、旦那さんにお話ししたり、病院に行こうと決心したりすることができました。
あなたも、追い詰められているママを、ちょっとした一言で救うことができるかもしれません。
頑張りすぎないで!困ったときは声をあげよう、泣いてみよう
子育ては、一人でするものではない。私は、そう思っています。
本当は、家族みんなで、いや、地域で、社会で、みんなで見守っていくべきもの…。でも、ママ一人で育児をしなければならない状況も多々あります。
少しでも、しんどい、子供が可愛く思えない…など、子育てすることや生きていることがつらくなったら、誰でも良いので、助けを求めてください。身近にすぐ声をかけられる人がいない場合は、地域の支援センターや、電話相談、ネットのQ&Aアプリでも構いません。そして、思いっきり泣いて、感情を吐露してください。
産後うつは、真面目な人や、「ちゃんと子育てをしなきゃ」と完璧を求める人ほど、陥りやすいと言います。つらくても、「周りに迷惑をかけてしまう」などと遠慮して、何も言えない人もいます。
でも、誰も迷惑だなんて思っていません。子供は、家族だけでなく、社会全体でしていくものなのですから。産後うつを乗り越えることができたら、今度はあなたが、困っている誰かに手を差し伸べてあげれば良いのです。