多嚢胞性卵巣症候群とは
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは、卵巣で男性ホルモンがたくさん作られてしまうことで起こるもので、卵胞が発育するのに時間がかかり排卵しにくくなってしまう疾患です。
多嚢胞性卵巣症候群は、女性の20人~30人に1人の割合で発症します。無排卵や生理がほとんど来ない生理不順や男性ホルモン値が高まることによる多毛などの症状が特徴で、不妊の原因にもなります。
生殖年齢といわれている20~30代の女性に発症しやすい疾患ですが、体質や遺伝的な因子も発症因子になると考えられているため、10代でも発症する場合があります。
多嚢胞性卵巣症候群の原因
多嚢胞性卵巣症候群は複数の因子が影響しますが、その中でも内分泌異常、糖代謝異常が原因で起こる場合が多いと考えられています。
通常排卵は脳の下垂体から分泌される黄体化ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌によって起こります。しかし、二つのホルモンバランスが崩れて黄体化ホルモンばかりが分泌されると卵胞がうまく発育せず排卵できません。
また、血糖値を下げる働きのあるインスリンが大量分泌され卵巣に強く作用することで、卵巣内の男性ホルモン値が上昇します。黄体化ホルモンや男性ホルモンが多く分泌されることで、卵巣の外側の膜が厚くなりさらに排卵しにくい状態となるため排卵障害につながります。
- 神谷レディースクリニック「不妊治療のよくある質問」(https://kamiyaclinic.com/faq-type/section6/,2019年3月8日最終閲覧)
- へその緒通信「済生会新潟第二病院」(http://ngt.saiseikai.or.jp/data/pr/hesonoo/pdf/hesonoo120.pdf,2019年3月8日最終閲覧)
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- 日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2017」P201-204(日本産科婦人科学会,2017年)
- 塩谷雅英(監)「ふたりで取り組む赤ちゃんが欲しい人の本」P127(西東社,2012年)
多嚢胞性卵巣症候群の診断方法
多嚢胞性卵巣症候群は、2007年に日本産科婦人科学会の生殖、内分泌委員会が発表した「多嚢胞性卵巣症候群の新診断基準」によって以下の項目全てを満たす場合に診断されます。
- 月経異常
- 多嚢胞卵巣
- 血中男性ホルモン高値または黄体化ホルモン(LH)基礎値高値かつ卵胞刺激ホルモン(FSH)基礎値正常
月経異常は、生理が90日以上来ない無月経、生理がたまにしか来ない希発月経、生理で出血はあっても排卵を伴わない無排卵周期症のいずれかに該当する場合を指します。
多嚢胞性卵巣は、超音波検査において両側の卵巣で小さな卵胞が多数みられ、片方の卵巣で2~9mm程度の卵胞が少なくとも10個以上確認できる状態のことです。つながった卵胞は大きくならず、一列に並んでいることからネックレスサインと呼ばれています。
多嚢胞性卵巣自体は問題ありませんが、排卵障害などの症状が出てきた場合は多嚢胞性卵巣症候群となり治療が必要です。
また、男性ホルモン値の測定も行います。テストステロン、遊離テストステロン、アンドロステンジオンのいずれかのホルモン値を測定することで、多嚢胞性卵巣症候群の可能性があるかを調べます。
- 日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2017」P201-204(日本産科婦人科学会,2017年)
- さくら女性クリニック「「無排卵周期症」と診断されたら?」(http://sakuracl-chitose.com/column/file17.html,2019年3月8日最終閲覧)
- 茶屋町レディースクリニック心斎橋「生理不順(月経不順)」(https://shinsaibashilc.com/guide/mense,2019年3月8日最終閲覧)
- ASKAレディースクリニック「多嚢胞性卵巣」(https://aska-cl.com/pco/,2019年3月8日最終閲覧)
- 井上裕美(監)「病気がみえる婦人科・乳腺外科vol.9」P58(メディックメディア,2015年)
多嚢胞性卵巣症候群の治療方法
多嚢胞性卵巣症候群の治療方法は、薬物療法と手術療法がありますが、妊娠希望の有無によって行う治療は異なります。
また、妊娠希望の有無にかかわらず肥満がある場合は、減量によって排卵誘発の成功率が上昇したり生活習慣病を抑制できたりする可能性もあるため、治療と平行して減量や生活指導を行うことがあります。
妊娠を希望する場合の治療方法
妊娠を希望する場合は、主に以下のような治療方法があります。
排卵誘発剤を投与する
排卵誘発剤を服用することで、排卵障害がある方の約50%に排卵が起こります。排卵誘発剤を使用した治療では、まず経口薬のクロミフェンを服用しますが、クロミフェンで排卵が起こらない場合は注射薬のゴナドトロピンを用いて排卵誘発を試みます。
ゴナドトロピンはクロミフェンよりも効き目が強い薬剤で、卵巣にたまっている多数の卵胞が一度に発育することで、卵巣が腫れて腹部や胸部に水がたまる卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を起こす可能性があります。また、複数の排卵による多胎のリスクも考えられます。
基本的に注射による排卵誘発は、毎日少量ずつ薬剤を注射することで必要以上に排卵させることなく、薬剤による副作用や多胎妊娠を防ぐことができます。毎日注射のための通院が厳しい場合は、医師の指導を受けた上で自己注射を行うことも可能です。
ただし、注射を続けることで必ず排卵するとは限らず、さらに薬剤も高価なことから途中で治療をキャンセルするケースもあります。そのため、治療の状況によっては手術療法や体外受精を検討することがあります。
血糖を下げる作用のある薬を投与する
多嚢胞性卵巣症候群は肥満との関係も深い疾患で、肥満がある場合は血液検査でインスリン抵抗性がみられることがあります。
インスリン抵抗性とは、インスリンが持つ血糖を下げる働きが弱くなっている状態のことです。インスリンの抵抗性があると、インスリンの過剰分泌によって男性ホルモンのテストステロンが増加し、卵胞の発育の抑制や卵質の低下につながることもあります。
インスリン抵抗性がみられるときは、血糖を下げる作用のあるメトホルミンを服用します。メトホルミンの服用によってインスリンの過剰な分泌を抑制できるため、男性ホルモンの増加を抑えられて無排卵など排卵障害の改善が期待できます。
メトホルミンは単独使用も可能ですが、クロミフェンとの併用により排卵率を高められるため、クロミフェンの投与で排卵が得られなかった場合に併せて使用される薬です。
腹腔鏡下卵巣多孔術(ふくくうきょうからんそうたこうじゅつ)を行う
腹腔鏡下卵巣多孔術は、腹腔鏡下で卵巣の表面に穴を開けて排卵しやすくするための手術です。卵巣過剰刺激症候群(OHSS)や多胎のリスクが少なく、手術を行うことで自然に排卵するようになったり、排卵誘発剤であるクロミフェンに対する反応性がよくなったりするメリットがあります。
ただし手術の効果は半年~1年ほどで、また元の状態に戻ってしまうことがデメリットです。そのため、手術後は医師と相談しながら早めに人工授精や体外受精などを進めていけるとよいでしょう。
妊娠を希望しない場合の治療方法
将来的に妊娠を希望しない場合は、ホルモン剤を投与して治療します。多嚢胞性卵巣症候群で無排卵や無月経など生理不順の状態が続くと、プロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌が伴わず常にエストロゲン(卵胞ホルモン)に刺激されることになるため、子宮体がんになるリスクが上昇します。
そのため、プロゲスチン(黄体ホルモン類似作用物質)を投与するホルムストロム療法によって生理を起こします。プロゲスチン製剤を生理周期の14日目頃に注射するか、もしくは14日目頃から10日間経口薬を服用します。
注射であれば打ってから約10~12日後、服用であれば服用終了から約3~4日で生理がきます。
- 糖尿病情報センター「糖尿病ってなに?」(http://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/010/010/01.html,2019年3月8日最終閲覧)
- 日本動脈硬化学会「動脈硬化の病気を防ぐガイドブック」(http://www.j-athero.org/guide/kiken/02.html,2019年3月8日最終閲覧)
- 群馬大学大学院医学系研究科産科婦人科学 岩瀬 明「多嚢胞性卵巣症候群/高プロラクチン結晶の診断と治療」(http://jsog.umin.ac.jp/70/jsog70/5-2_Dr.Iwase.pdf,2019年3月8日最終閲覧)
- 済生会新潟第二病院「へその緒通信」(http://ngt.saiseikai.or.jp/data/pr/hesonoo/pdf/hesonoo120.pdf,2019年3月8日最終閲覧)
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- 日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2017」P201-204(日本産科婦人科学会,2017年)
- 笠岡レディースクリニック「インスリン抵抗性とは?」(https://kasaoka-clinic.jp/putie_seminar/過去一覧/lecture15/,2019年3月14日最終閲覧)
- エフ.クリニック「周期的ホルモン補充療法について」(http://efclinic.com/pdf/cyclic hrt.pdf,2019年3月14日最終閲覧)
多嚢胞性卵巣症候群でも妊娠は可能?
多嚢胞性卵巣症候群は治療を行うことで妊娠することは可能です。生理不順、無排卵といった症状を改善し、月に一度の排卵が正常に起こるようになれば妊娠の確率が上昇します。
多嚢胞性卵巣症候群は年齢とともに排卵障害が強まるため、徐々に生理周期の間隔が開いてきます。20代であれば自然妊娠することも考えられますが、排卵しにくいため年齢が若くても妊娠を希望する場合は早めに体外受精を勧められることもあります。
治療を経て妊娠するまでには少し時間がかかるかもしれませんが、まずは根気よく治療を行うことが大切です。
- 聖マリアンナ医科大学病院生殖医療センター「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」(https://www.marianna-u.ac.jp/hospital/reproduction/feature/case/case03.html,2019年3月8日最終閲覧)
- 英ウィメンズクリニック「多嚢胞性卵胞症候群(PCOS)の病態と治療について その2」(https://www.hanabusaclinic.com/weblog/2018/07/27/多嚢胞性卵胞症候群pcosの病態と治療について そ-2/,2019年3月8日最終閲覧)
- 済生会新潟第二病院「へその緒通信」(http://ngt.saiseikai.or.jp/data/pr/hesonoo/pdf/hesonoo120.pdf,2019年3月8日最終閲覧)
自分の症状に合わせた治療方法を!
多嚢胞性卵巣症候群は、卵巣内に男性ホルモンが増えることで排卵障害を起こし不妊の原因にもなる疾患です。治療は排卵誘発剤を服用する方法から手術療法まであり、妊娠希望の有無によって治療方法が異なります。
また、遺伝や環境因子が発症の引き金となることがあります。特に肥満が原因となっている場合は、減量によって症状の改善が期待できる可能性もあるため、まずは減量や生活習慣の指導を受けることもあります。
治療後は妊娠することも可能なため、医師に相談しながら自分に合った治療を進めていけるとよいですね。
※この記事の情報は2019年3月27日現在のものとなります。最新の情報は医療機関へ受診の上、医師の診断に従ってください。