©ママリ
タンス貯金からお金が減っていた━━。
抱いてしまった娘への疑念のせいで、よく眠れなかった。ただ今朝になって冷静に考える。昨晩は最近覚えていた娘への違和感から、娘が貯金からお金を取ったように疑ってしまったけど、確固たる証拠はない。それに何より、今、目の前で朝食を食べる我が子の姿は普段と何ら変わりない。たった一晩で、娘の目をまっすぐ見られない母親になってしまった自分が、情けなくて仕方なかった。
「お母さん。今日の放課後、友達ん家で遊んでくるね」
「……え、あ、うん。失礼ないようにね」
お金のことが喉元まで上がってきたけど、声に出すまでには至らなかった。普段通りの他愛ない会話。娘から動揺や隠し事の色は感じない。今回の件、きっと私の勘違い、物忘れなだけ。きっとそのはず……。 ※1
消えた2万円…母の拭いきれない疑念
小学3年生の美羽は、友だちの影響からメイクを始めます。最初は、メイクに夢中な娘の様子を、ほほえましく見守っていた母。ところが、美和の行動は次第にエスカレートしていきます。
新しい化粧品を買い漁ることが増え、しかもそれは、与えているお小遣い以上の総額に…。違和感を抱きつつも、見過ごしていたある日。タンス預金から2万円が消えていることに気づきます。まさかとは思いつつも、娘に対する疑念ばかりがふくらみます。
そして、娘に問いただすことができず、時間ばかりが過ぎます。とはいえ、このままでは何も進展しません。娘のお金の遣い方について、注意深く観察し始めます。
がく然とした…娘の財布の中身
夫と娘が先に家を出て、静かな自宅に私ひとり。今がチャンスだと思った。私は娘の部屋に入り、財布を探す。
勉強机どなりの棚には、今まで買い集めた化粧品が、収納ボックスに入り切らずに積まれてあった。まだ封が切られていないリップ、同じような色味のアイシャドウがいくつも並ぶ。どれも中途半端に使われていて、目的より衝動で買われたことが透けて見えた。メイクに熱心なことは知っていたけど、積み上げられた使い切られていない大量の化粧品を前に、娘への心配と不安が心を曇らせていくのを感じた。
財布はすぐに見つかった。よく使っているお気に入りのショルダーバックの中に入っていた。財布を手に取る。明らかな重さと小銭が鳴るのを感じる。この状態ですら、もはや疑惑は確信に変わったようなもので、財布を開けることが躊躇われた。娘を信じようとしたこの心は、財布を開けた瞬間に、音を立てて崩れてしまう気がした。
財布のチャックを指先でつまみ、深呼吸する。ここで止めるなら、まだ信じられる気がした。でも、開けた瞬間に戻れなくなる。わかっているのに、手が止まらない。気の乗らない中、ひと息に財布を開ける。すると、与えたはずのない5千円札と千円札数枚、パンパンに膨れた小銭入れが見て取れた。
カードケースにはレシートが入っていて、目を通す。ドラッグストアでの化粧品やお菓子、ジュースの明細が記載されていて、ある時は1回の買い物で総額4千円ほどになっていた。確認できたレシートの総額は、もちろん月のお小遣いに度々ねだられる臨時のお小遣いを足しても及ばない金額だ。 ※2
美羽の財布のお金とレシートを確認し、母の疑惑は確信へと変わりました。やはり、お小遣い以上のお金を所持していたようです。
ただ、母は娘と向き合う勇気が持てず、モヤモヤとした気持ちをひとりで抱えていました。
抱えていたモヤモヤが爆発…母の後悔
「ねえ、お母さん。今度ドラッグストアに行ったら、これ買って。友達がめっちゃイイって言ってたの!」
トーン、言葉遣い、表情。何ひとついつもと変わらない。だけど、募り切った不安や自分への憤りが、口をついて溢れた。
「あれだけたくさん化粧品あるんだから、何を買っても一緒でしょ?」
直後、換気扇とガス、料理を煮込む音しか聞こえないことに違和感を感じた。いつもなら食い下がる、娘の声が聞こえない。鍋に落としていた視線を頭ごと横に向ける。そこには、眉をしかめ、顔を真っ赤にし、目が潤んだ娘の姿が。その瞬間、深い後悔が脳内で滲むのを感じた。
「……お母さん、何も知らないくせに!」
「友達は……みんな買ってもらってるの!お揃いじゃないとダメなの!!仲間外れにされたらどうするの?」
涙を頬に溢しながら、荒い呼吸になりながら、訴えるように叫ぶ娘に思わず私は圧倒される。
「美羽、ごめんね。お母さん……」
「可愛くならないとダメなの!何も知らないのに言ってこないでよ!!」
そう言うと娘は、自分の部屋に戻っていき、ドアを強く閉めた。
やってしまった……。感情に任せて言葉を吐いてしまった。今までちゃんと、向き合えていたはずなのに。いや、向き合えていたんじゃない。向き合い方に自信が持てずに、違和感を我慢して、無理して受け容れていただけだったんだ――。 ※3
美羽と向き合う勇気が持てず、違和感をズルズルと放置してしまった結果、最悪な状況で母娘はぶつかってしまいました…。違和感を無理に受け入れていたことに、後悔します。
本作では、タンス預金が消えたのをきっかけに、娘が抱えていた問題に向き合ったときの様子が描かれています。子どもは、狭い世界で生きているものですね。今、付き合っている友だちの言動が「すべて」だと思ってしまい、必要以上に化粧品を買い漁ってしまっていまいた。「仲間はずれになりたくない」という、子どものSOSが詰まっていました。
このあと、親子で話し合いをし、お金を盗ってしまった「理由」を知りたいと寄り添い、やっと娘の本音を聞きだします。親子でも、本気で向き合うことはこわいと感じるものですが、お互いに歩み寄ったことで、関係が改善します。子どもの話を聞くことは、本当に大切ですね。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています。










