Ⓒママリ
🔴【第1話から読む】「あれ、ない……?」私の“タンス貯金”が消えた日
娘の部屋で見つけた財布の中の大金と大量のレシート。疑惑は“確信”に変わり、娘への信頼が揺らぎ始めた。問いかけに重ねられる嘘に、母は苦悩する。
「買いたい」が止まらない娘、あふれ出す違和感
あの日以来、私はますますお金の流れに敏感になっていった。
財布を見た朝のことが、何度も頭を過ぎり、タンス貯金の確認は以前にも増して徹底するようになっていた。
すると、最初は動きのなかった金額が、最近になって数千円減ったのを確認した。
「気のせいかもしれない」と自分に言い聞かそうとする度に、あの朝の光景が頭をよぎった。追求こそできていない私も、これまでの証拠集めから娘への疑いが濃厚であることを認めざるを得なかった。
そんな私の心配をよそに、娘はどこ吹く風といった様子で、お金が手元にあるはずなのに、ことあるごとに化粧品や服をねだってきた。
「ねえ、お母さん。そろそろ夏服ほしいんだけど」
「この前のリップ、限定色でもうすぐ売り切れるんだって」
当初問題視していたお金の問題も、今となっては娘の過剰なほどの物欲や消費欲求の方が目につくようになっていた。
大量の化粧品、服、お菓子……。一体、どこまで欲しがれば気が済むんだろう。
今の娘は「買ったもので豊かになること」よりも、「買うこと」そのものに目的を見出しているようで、手当たり次第に興味のあるものを買い漁っては、すぐ別のものを買い求めることを繰り返していた。
暴走していく娘の危うさに危機感を抱く中で、この過剰なほどの消費行動にはどこか、娘の恐れや焦燥感を感じていた。まるで、必死に何かに縋り付いているような、そんな息切れた背景が透けて見えるような気がした。
娘の変化に気づいているのに、どうすればいいのかわからない。――それが、母親としてたまらなく情けなかった。
我慢の糸が切れた夜、母の言葉に涙する娘
自分への憤りが積もりに積もった、ある日の夕飯時。調理中に上がってくる熱気が、やけに私の神経を逆撫でていた。リビングで動画を観ながらくつろぐ娘の姿に、やけに苛立っていた。漏れ聞こえてくる音声から、メイクや化粧品関連の動画だとわかった。今抱えている問題を連想させて、余計に神経が敏感になる。
動画にピンとくる商品を発見したのか、娘は立ち上がりキッチンに向かってくる。一時停止した画面を私に突き出しては、いつものようにねだった。
「ねえ、お母さん。今度ドラッグストアに行ったら、これ買って。友達がめっちゃイイって言ってたの!」
トーン、言葉遣い、表情。何ひとついつもと変わらない。だけど、募り切った不安や自分への憤りが、口をついて溢れた。
「あれだけたくさん化粧品あるんだから、何を買っても一緒でしょ?」
直後、換気扇とガス、料理を煮込む音しか聞こえないことに違和感を感じた。いつもなら食い下がる、娘の声が聞こえない。鍋に落としていた視線を頭ごと横に向ける。そこには、眉をしかめ、顔を真っ赤にし、目が潤んだ娘の姿が。その瞬間、深い後悔が脳内で滲むのを感じた。
「……お母さん、何も知らないくせに!」
「友達は……みんな買ってもらってるの!お揃いじゃないとダメなの!!仲間外れにされたらどうするの?」
涙を頬に溢しながら、荒い呼吸になりながら、訴えるように叫ぶ娘に思わず私は圧倒される。
「美羽、ごめんね。お母さん……」
「可愛くならないとダメなの!何も知らないのに言ってこないでよ!!」
そう言うと娘は、自分の部屋に戻っていき、ドアを強く閉めた。
やってしまった……。感情に任せて言葉を吐いてしまった。今までちゃんと、向き合えていたはずなのに。いや、向き合えていたんじゃない。向き合い方に自信が持てずに、違和感を我慢して、無理して受け容れていただけだったんだ――。
今まで目を逸らしてきたことに、図らずも直視することになった夜。娘が乳児期だった頃に感じて以来の深い孤独に、ポツリと置かれた気分に陥った。
向き合う覚悟━━娘の叫びに光を見た
立ち尽くす私の脳内には、さっきの娘の表情、言葉が反芻している。
その時、ふと気づく。娘の叫びの中にヒントがあるのではないか、と言うことを。迷いの中に一筋の光が差したように思えた。
私はかけていた火と換気扇を止めた。沈黙が広がるリビングとキッチンは、不安ではなく、娘や今回の問題と向き合うための静けさのように思えた。今度こそ、あの子の本音と、ちゃんと向き合わなくてはならない━━そんな覚悟が、胸にじんわりと広がった。
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あとがき:「知ること」から始まる、親子の対話
娘の消費行動の裏に潜む心の叫びに、母はようやく気づき始めました。物を欲しがるその背景には、年頃ならではの不安や孤独、そして「仲間はずれへの恐怖」があったのかもしれません。
母として、ただ叱るのではなく「なぜそうなったのか」を知ること━━。そこから本当の対話が始まるのだと、この一件が教えてくれたように思います。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています。










