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🔴【第1話から読む】「あれ、ない……?」私の“タンス貯金”が消えた日
娘の浪費と消費欲求が加速する中、母はその背景にある“心の叫び”に気づき始める。
感情のぶつかり合いを経て、ようやく向き合う覚悟を決めた母。
すれ違いの夜は、対話への第一歩となった。
寄り添う覚悟
あの夜から、娘と私の間に会話はなくなってしまった。
他愛ないことを話して笑っていた夕飯が殺伐として、料理の味さえ薄く感じた。向かいの席の娘が、やけに遠く感じる。
視線を合わせない娘。声をかける勇気のない私━━。ただ時間だけが、静かに過ぎていく。
19時を少し過ぎた頃。ふと手に取ったスマホ。
「少し、相談があって……。今、電話とか大丈夫ですか?」
宛先はママ友の西野さん。しばらくすると「いいよ!」と返信が届いて、通話を始める。
これまでのことをぽつりぽつりと話す。信じがたい娘の行動への哀しみ、不甲斐なく感じる自分への憤り━━。複雑に入り組む感情に、気づくと涙を流していた。
話し終えると、西野さんは静かに言った。
「……もう、事実確認は十分だね。あとは娘ちゃんの気持ちに、どう寄り添っていけるか……。まあ、それが一番難しいんだけどね」
そう。残りの一手はそれしかない。だけど……。
娘との間にできた隔たり。その上で“気持ちに寄り添う”という、正解の見えない結末に不安は拭いきれなかった。通話が終わる頃、玄関から夫の声がした。頬に残る涙の跡を拭って誤魔化し、夕飯を温め直しにキッチンへ向かった。
次の日の夜。夫も揃っての夕飯だったけど、変わらず会話のない食卓。夫は何かを察しつつも場を和ませようとしてくれていた。
娘が部屋に入った深夜。「美羽と何かあった?」と夫が聞いてきた。流石にもう誤魔化す必要もないと思い、これまでの経緯を話した。全てを聞いた夫は申し訳ないと頭を下げると「明日、早く帰ってくるから3人で話そう?」と提案してくれた。娘を頭ごなしに叱ったり責めたりせず、娘の本音を聞こうと約束して、その日は眠りについた。
向き合うという勇気
翌晩。夕飯や入浴を終えて、自室に戻ろうとする娘を夫が呼び止める。娘は渋々といった様子でテーブルに着く。
重苦しい空気と沈黙。それを和らげるように、夫が柔らかい口調で話し始める。タンス貯金がなくなっていたこと、私たちが使った心当たりはなかったこと、そして記録にも残っていないこと━━。そこで一旦、娘に心当たりがないか、夫が尋ねる。
「……知らないよ。何?私のこと疑ってるの?」
苛立ちを含んだ娘の声。あえて返答しない夫。そこからは私が、最近調べていたお金の流れ、そして確認した娘の財布の中について話す。娘は顔を紅潮させ、涙を滲ませた目でこちらを睨んだけど、反論はせずに小さな体を震わせていた。
根拠となる情報を全て出し切る。娘は口をつぐんだまま。でも、それでいい。私たちがしたいのは追求じゃなくて、この先だから━━。
やっと届いた、心の声
私は、娘に語りかけるように話す。
「美羽……お母さんたちは、犯人探しをしたいわけじゃないの。もし美羽がお金をとっていたら、なんでそうしちゃったか、理由を知りたいの」
「責めたいわけじゃないの。もし……もし、困っていることがあるなら……教えて欲しいの……」
語りかけるうちに視界が滲み、自然と頬を伝うものがあった。娘はそんな私を見て、呆気に取られていた。でも、次第に娘の顔の赤みが引くと、滲んでいた涙がボロボロ溢れ始め、その涙が白い頬を濡らしていった。嗚咽しながらも、娘は口を開き始める。
「みんな……遊びに行ったら、メイクしてたから……私もしないと、置いてかれると思って……」
「みんな可愛いから……私も可愛くなりたくて……」
娘の本音を聞けた瞬間だった。あの日の夜、怒りに任せてぶつけられた言葉には、娘のSOSが混じっていた。大人と子ども、いつしか勝手に線引きをしていたけど、この子も毎日、葛藤しながら生きているんだ━━。
この夜、私は娘の本音を通じて改めて、そのことに気づかされた。
その夜以降、私たち家族の距離は少しずつ近づいていった。見えない境界線が、ようやく取り払われたような気がした。
私たちは娘と一緒に“お金の使い方”についても話し合った。これからは、お小遣いは欲しいものの理由を伝えてもらい、その都度一緒に考えていくことにした。金額だけじゃなく、「どうしてそれが必要か」「何を大切にしたいか」を話せるようになっていければいいと思った。
また、“仲間外れ”や“流行についていけない不安”についても真剣に考えた。
「流されすぎなくていい」「でも、好きなことや憧れは大事にしていいよ」と伝えた。娘の目に見える世界は、私たちよりずっと狭い。だからこそ、信じて見守ること、自分の軸を持てるように支えることが大切だと気づかされた。
以来、私は娘の好きなことに少しずつ関心を持つようにしている。
「なんか、もう少し明るいメイクにしたいな……。美羽〜、なんかおすすめのとかある?」
「明るいやつ?そしたらこれとか、どう?」
「え〜、ちょっと若すぎない?」
笑い合える時間が、戻ってきた。タンス貯金は、今では銀行口座に移し、家庭内でもオープンに管理するようにした。これからも、まだまだ悩みや迷いはあると思う。それでも、話し合って進めると信じられる今が、何より嬉しい。
もちろん完全な解決ではないけれど、私たちは確かに、前を向いて歩き始めている。少しずつ、私たちの関係が“満ちて”いくような、そんな穏やかさがそこにあった━━。
あとがき:本音に触れた瞬間から、変化が始まる
「どうしてそんな行動をしたのか」━━
その問いを“責め”ではなく“理解”の気持ちで向けたとき、娘は初めて心のうちを明かしてくれました。家族だからこそ、正しさよりも気持ちに目を向ける勇気が必要なのだと気づかされます。
本当の対話とは、言葉の先にある「想い」を受け取ること。このお話は、家族の“再出発”を描いた小さな奇跡の記録です。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています。










