式から5日が経った頃、痺れを切らした私は弟に電話をかけた。
「あ、健太、ごめんね。急かすようで悪いんだけど、お金は……まだ返せそうにない?」
遠慮がちに私が訊ねると、弟は困った様子で重い口を開いた。
「いや、実はさ……愛梨が返すのに渋ってて……」
「えっ……?愛梨さんが?」
弟の口から聞かされた話は私にとって、衝撃的だった。私の中で、結婚挨拶の礼儀正しい印象が残っていた義妹の愛梨さん。けれど、そんな彼女が借りたお金の返済を渋るなんて……。
「そう……もちろん返済の催促はしてるんだけど……。もう少し話してみるからさ」
弟は頼りない声でそう話す。どこか歯切れの悪い話し方に引っ掛かりつつも、弟にさらに訊ねた。
「愛梨さんのことは……とりあえず分かった。でもお金は返してもらわないと困る。ご祝儀は足りたんでしょ?」
「実は……ご祝儀の管理は愛梨に任せてて。もう口座に預けて、引き出しは愛梨しかできないんだ……」
そう弟に告げられ、私は貸した大金が返ってこない可能性が極めて高いことを悟った。義妹の想定外の言動と頼りない弟の電話越しの情けない声に、今更私は大金を貸したことを後悔した。 ※1
泥沼の予感…返済を渋る義妹
美雪は、大金を貸すかどうか迷いますが、弟夫婦の門出を祝う気持ちと、「ご祝儀で返済する」という弟の言葉を信じました。ところが、まさか返済を渋っているなんて…。
美雪さんの弟・健太の頼りない様子に、一気に不安が広がります。なぜ、このような事態に陥ってしまったのでしょう。
【健太視点】ふくれあがる結婚式費用
結婚式の準備は式場探しから披露宴の余興の依頼、引き出物にまで2人のこだわりを詰め込んだ。費用は気になったが「一生に一度」という言葉で誤魔化して、思い思いの計画を立てた。そして式場側との最終打ち合わせ、様々な要望をしたから費用は大きいと覚悟はしていたものの「一部を後払い可能」と聞いていたため、そこまで不安視していなかった。
しかし、その考えの甘さを思い知らされることになる。前払い分の金額が自分たちの考えていた予算を大きく超えてしまったのだ。前払いとして全体の7〜8割の額が必要とのことだったのだが、その部分を夫婦で見過ごしてしまっていた。
ご祝儀払いができないか交渉したものの、特別扱いはできないということで、譲歩されることはなかった。なす術ない俺たち夫婦は一度見積もりを持ち帰り、親族から支援を得る道を模索することになった。
それからというもの、俺たちはそれぞれの親から支援を受けられないか、連絡を取った。愛梨の両親からは支援を受けられたのだが、俺の両親は最近手術などでお金がかかったばかりで支援は無理だった。俺はわらにもすがる思いで、姉に電話をかけた。
「その……結婚式の費用、貸してくれないかな?」
「え?」
電話越しに聞こえる姉の声には怒りや呆れを感じ、自分の情けなさや惨めさを痛感した。けれど、なりふり構ってられない状況にただ姉に頼るしかなかった。
最終的に、姉夫婦から必要な額の支援を受けることができ、何とか結婚式の前払い金を準備することができた。姉には感謝しかない。 ※2
弟夫婦は、自分たちの理想をすべて詰め込んだ結果、結婚式費用が大幅に予算オーバーしてしまったようです。しかも、すでに自分たちでは支払い不可能なほどに。お金に対して、考えが甘すぎますね。
その後、無事に結婚式を終えます。そして、ご祝儀を集計した結果、式場への支払い分と両家から借りたお金の返済ができることを確認し、ホッとします。ところが、妻・愛梨からとんでもない提案をされます…。
【健太視点】妻が返済を渋るワケ
姉に借りたお金を返せそうな状況にホッとしていると、愛梨がそれとなく話し出した。
愛梨「あのさ、うちの親からお金借りたじゃん?」
健太「うん。すぐにお返ししないとね」
愛梨「うちの親はさ、これはお祝い費用だから返さなくていいよって言うの。だから、お言葉に甘えてもいいのかなぁ、って」
それは耳を疑うような提案だった。いくら義両親の祝意があったとしても、返さないと気が引けるような大金を借りていたからだ。
「え……でも、なかなかの大金だし、流石に返した方がいいんじゃない?」
「でも~、新婚旅行もあるし、新生活の費用もかかるじゃん?いずれ子育ての資金にしてもいいわけだから、感謝していただいておこうかなって…」
そんな愛梨の意見に密かに揺らぐ、自分の心を俺は感じていた。そして愛梨は、思いがけないことを言い出した。
「お義姉さん夫婦からもお金借りたもんね。そっちは返さないとダメなの?ご両親から返してもらって、こっちの分はお祝いに…とかさ?」
愛梨からの提案にびっくりした。あまりにも厚かましいし、うちの両親から返させるというのも同意できない。
「ちょっと待って。姉ちゃんだって余裕があるわけじゃないから、返さないなんてできないよ」
「そう?でもさ、両家の支援額は同額の方が、あとあと面倒なことにはならないと思うんだけどな~」
愛梨からの提案がズレたものと感じつつ、愛梨の話に少し納得してしまっている自分を感じていた。そんな状況もあり、姉にすぐにお金を返すことができなかったのだ―――。 ※3
妻・愛梨からの提案は、厚かましいものでした。それなのに、心が揺らいでしまった健太。お金のトラブルは、のちのち家族付き合いに影響します。きちんとして欲しいものです…。
主人公・美雪は、健太から話を聞き、60万円が返ってこないことを覚悟し始めます。ですが、父に相談したのをきっかけに、事態は一転。あんなに返済を渋っていた弟夫婦が「返す」と言ってくれたのです。実は、美雪の父が返済がないことを愛梨の父に告げ、愛梨は「お金の無心をするなんて、みっともない」と叱責されたそうです。
弟夫婦は、若気の至りだったかもしれませんが、その分、強烈な報いを受けることとなりました。新婚旅行をキャンセルし、改めて2人でお金を貯めたのちに行くことにしたそうです。同じ過ちを二度と繰り返さず、幸せな家庭を築いて欲しいですね。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










