「あんた、金を盗んだだろう!」
―――電話越しに聞こえた祖母の言葉が理解できなくて、しばらく間を置いた。
「…え?」
「珍しく顔を出したかと思えば、お金目当てかい?情けないね」
「ま、待ってよ、おばあちゃん。何を言っているの?」
落ち着いて話をしようにも、スマホの向こうの祖母は興奮していた。最後には「このことは光彦(みつひこ)にも言うから!」と、父の名前を出して通話を切られてしまう。呆然とした私の背中に、夫が声をかけてくる。
「どうした美鈴(みすず)?」
「そ、それが…」
どう説明していいのかわからない。祖母宅から消えたというのは「現金3万円」。その犯人扱いをされて、ただ途方に暮れていたのだ。 ※1
突然、祖母から犯人扱いをされて…
祖母は、お年玉用に現金3万円をポチ袋とともに保管していたそうです。ところが突然、お金だけが消えたそう…。
美鈴には、まったく身に覚えがないことです。しかし、祖母は主張を曲げません。美鈴は、幼いころから物言いがキツイ祖母のことが苦手でした。
祖母は、「美鈴の父にも言う!」と宣言し、一方的に電話を切ります。そして、告げ口したのでしょう。今度は父からも電話がかかってきました。父は祖母の言葉を鵜呑みにし、美鈴を犯人扱いします…。
孫が考えた祖母の「とある可能性」
父親に、祖母が認知症になりかけている可能性について話したが、なかなか取り合ってもらえない。なんとか穏やかに聞いてほしくて、つとめて冷静に話をしてみる。
「おばあちゃんがそうって話じゃないけど、物盗られ妄想っていう症状があるんだよ。おばあちゃんも歳は歳だし、検査してみたらと思って…」
友人たちの間でも、自分の祖父母や曾祖父母が認知症になったという話題はよく出る。認知力の低下が引き起こすトラブル。テレビやニュースでもよく取り扱われる題材だ。しかし、この可能性は父にとってショックなのか、受け止めてもらえない。興奮した様子で否定された。
「お前、ばあちゃんの話を妄想だっていうのか?とんでもない孫だな!」
「そんなことないよ。私はただ…」
「いいからお前はさっさと謝って、3万円を返しなさい!正直に言えばいいんだから!」
そこで一方的に通話を切られてしまう。現実を見ず、私を疑うばかりの父に、心底がっかりした。 ※2
父にとって、自分の母親が認知症の可能性があるという現実は、なかなか受け止めることができないのでしょう。しかし、わが子を疑い、3万円を支払うよう一方的に命じる父にはがっかりですね。
その後、困った美鈴は母に相談。父は、昔から祖母の肩を持つ人で、母はそんな父と祖母を長年うまくいなしていました。
美鈴の話を聞いた母は、「困ったものね」とため息をつき、自分から父に話してみると言ってくれたのです。
母からのメッセージにモヤモヤが募る
後日、スマホに母から報告メッセージが届く。
「おばあちゃんもお父さんも強情だから、3万円は私が立て替えて渡しておいた。美鈴はもう気にしないで。認知症の件は今度、お父さんに内緒で専門窓口に相談しようと思うから」
文面を見て私の眉間にしわが入った。
「どうしてお母さんが立て替えちゃうの」
関係ない母が出すのなら、私が立て替えればよかった?でも、実際盗んでいない3万円も払うなんて、どう考えてもおかしい。それに息子である父が祖母の騒動をただ鵜呑みにしてみているだけなのは変だ。
(やっぱりお父さんと、もう1度話をしよう)
余計な波を立ててしまうかもしれなかったが、納得いかない私はそう決意した。 ※3
母がお金を立て替えるなんて…。納得できませんね。波乱の予感がしますが、それでも父ともう一度向き合い、冷静に話し合う覚悟をした美鈴。うまく進むといいのですが…。
このあと、衝撃的な事実が発覚します。実は、「お金を盗まれた」というのは祖母の演技だったのです。美鈴は偶然、祖母と父の会話を耳にし、事態が発覚したのです。
まさか、家族にだまされるなんて…。認知症の可能性を考え、本気で心配した孫の気持ちを踏みにじられてしまいました。そしてこのあと、祖母は本当に認知症を発症。因果応報、あるのですね。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています。










