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🔴【第1話から読む】気のせいにした小さな違和感|封筒貯金が消えた話
恵は確実に入れたはずの封筒貯金が再び減っていることに気づき、不安を深めた。夫・健太に相談するも否定され、外部犯行の可能性も一蹴されてしまう。納得できない恵は、事実を確かめるため、貯金の記録を帳簿につけ始めることにした。
「警察はやめろ」拒まれた相談
翌朝。
朝食の準備をしながら、恵の頭の中には昨夜読んだ記事の内容がぐるぐると回っていた。
少額ずつ盗む泥棒
気づかれないように、生活圏を知っている人物──
(考えすぎ、なのかな……)
そう思おうとしても、不安は拭えない。
健太がリビングに来たタイミングを見計らい、恵は口を開いた。
「ねえ、昨日の話なんだけど」
「ん?」
「ちょっと調べたらね……少額だけ盗む泥棒の話、結構あったの」
健太は、コーヒーを飲みながら眉をひそめる。
「それで?」
「一度、警察に相談だけでもしてみた方がいいんじゃないかなって……」
その瞬間、健太の表情がはっきりと曇った。
「やめた方がいいよ」
即答だった。
「え……?」
「確証があるわけでもないし。勘違いだったらどうするんだよ」
恵は言葉を詰まらせる。
「でも、続いてるし……」
「だからって、警察に行くほどの話じゃないだろ」
健太はそう言って、話を切り上げるように立ち上がった。
「そんなことで大事にしたら、恵が疲れるだけだよ」
その背中を見つめながら、恵の胸に小さな棘が刺さる。
(……疲れさせてるのは、どっち?)
危機感のなさ。真剣に受け止めようとしない態度。
怒鳴られたわけでも、責められたわけでもない。それなのに、心の奥がじわりと冷えていく。
(もし、本当に何かあったら……?)
その問いに、健太は向き合おうともしなかった。
私は記録をつけることにした
その日から、恵は行動を変えた。
封筒貯金をするたびに、ノートを開く。
日付、金額、封筒に入れた紙幣の枚数。
几帳面とは言えない自分が、ここまでやることに、恵自身が少し驚いていた。
(でも、はっきりさせたい)
誰かを疑いたいわけじゃない。
ただ、事実を知りたかった。
引き出しに封筒をしまう時も、以前より慎重になる。
位置を覚え、触った感触を記憶に残す。
それは安心のためであり、同時に、貯金が消えている現実を再確認させられ、自分を追い詰める行為でもあった。
そして、帳簿をつけ始めて迎えた最初の月。
恵は、深呼吸をしてから引き出しを開けた。
(……大丈夫)
自分に言い聞かせながら、封筒を取り出す。
中身を数えた瞬間、視界がぐらりと揺れた。
「……また」
減っている。帳簿と、封筒の中身。
数字は、明確に食い違っていた。
今回は、言い逃れできない。
勘違いでも、思い込みでもない。
疑われたのは、私だった
恵はその夜、帳簿と封筒を持って健太の前に座った。
「見て」
健太は、不思議そうにノートに目を落とす。
「これ、今月分の記録。入れた日も、金額も、全部書いてある」
封筒を開き、中身を見せる。
「……減ってるでしょ?」
健太は黙り込んだ。
数秒、いや、それ以上だったかもしれない。
「……ふーん」
その反応に、恵の胸がざわつく。
「ふーん、って……」
「いや、でもさ」
健太は視線を逸らしたまま言う。
「帳簿なんて、後からでも書けるだろ?」
その一言で、空気が一気に変わった。
「……どういう意味?」
「いや、だから。恵が間違えてる可能性も、ゼロじゃないって話。ほら、記録漏れとか、あるかもしれないだろ?」
恵は、喉の奥がひりつくのを感じた。
(信じて、ない……)
泥棒の存在よりも、夫が自分の言葉や行動を疑っていることの方が、ずっと苦しかった。
「私が、嘘ついてるって言いたいの?」
「そんな言い方してないだろ」
健太は、軽く肩をすくめる。
「でも、決めつけるのはよくない」
決めつけているのは、どちらなのか。恵はそれ以上、何も言えなかった。
その夜、布団に入ってからも眠れず、天井を見つめ続けた。
(泥棒かもしれない)
(でも……)
健太の曖昧な態度。警察を嫌がる理由。
帳簿を見ても動揺しなかった反応。
疑いたくない。疑う自分が、嫌だ。
それでも、心は静かに結論へ近づいていく。
(外の誰かより……)
恵の疑いの矛先は、少しずつ、
しかし確実に、夫へと向き始めていた。
🔴【続きを読む】“確かめたい”だけだった…見守りカメラが映した決定的な瞬間|封筒貯金が消えた話
あとがき:疑いは、誰を守るためのものか
恵が帳簿をつけたのは、犯人探しのためではなく、自分の感覚を守るためでした。
それでもなお疑われたとき、夫婦の信頼関係は大きく揺らぎます。
外部犯行よりも、身近な存在への疑念が芽生える瞬間は、とても静かで、だからこそ残酷です。
恵の視線はさらに日常の細部へ向かい、疑いは「確信」に近づいていきます。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています
イラスト:まい子はん










