科学的に「教育」分野に切り込む話題の本『「学力」の経済学』とは?
「子供が小さい頃にゲームをさせるのは悪影響?」
「教育にはいつ投資するのが正しいの?」
「子供にご褒美をあげるのって良いの?」
可愛い子供には、幸せになってほしいと思う世のママたち。
しかし実際、「教育」とは曖昧で難しいもの。
一体どんな教育が、我が子にとって「良い」のだろう…と悩むことも多いのではないでしょうか。
今回は、教育を科学的に解明した話題の本『「学力」の経済学』から、本当に効果のある教育とはどのようなものなのか、ママたちは何をすればいいのか、というママの悩みに答え、ポイントを厳選してご紹介していきます。
最も効果の高い教育投資は「幼児教育」?
文部科学省の調査によると、家計が大学卒業までに負担する平均的な教育費は、幼稚園から大学まで全てで、国公立の場合でも約1,000万円、私立の場合では、なんと約2,300万円にも上るようです。
また子供がいる家庭は、年収の約40%を教育費に使っているとも言われています。
子供に教育費をつぎ込む親の心理としては、もちろん、将来の投資対象として考える面もあるとは思いますが、純粋に
「子供に幸せになってほしい」
「子供が将来困らないでほしい」
という親心あってこそだと思います。
しかし現実的に、一人の子供の教育に湯水のごとくお金をかけられないということもまた本音。
では一体、子供の教育にお金をかけるとしたらいつが最も良いと科学的に証明されているのでしょうか。
科学的データに証明された「正しい」教育
人々は、「教育段階が高くなればなるほど教育の収益率は高くなる」、すなわち、幼稚園や小学校の影響よりも高校や大学の影響の方が大きいと考えることが多いようです。
このため、子供が小さい時はお金を貯めておき、そのお金を大学の入学金に充てる、といったエピソードがよく見受けられます。
しかし、科学的に実験を行った結果、ほとんどの経済学者はそれと正反対だと結論付けています。
「もっとも影響が大きいのは、子供が小学校に入学する前の就学前教育(幼児教育)である」。
上図は、ノーベル経済学賞を受賞したヘックマン教授の提唱した、人的資本投資の収益率を年齢別(またはライフステージ別)に表したもので、これによると、収益率は子供の年齢が小さいうちほど高いと証明されています。
就学前(小学校入学前)がもっとも高く、その後は低下し続けています。
すなわち、3歳までの子供への投資が、その子のその後の人生にプラスの効果をもっとも多くもたらすと言えるのです。
子供に何を「投資」すればいいの?
では、我が子が小さい今、ママは何をしてあげればいいのでしょうか?
「人的資本」とは、人間が持つ知識や技能を総称したものを差します。
つまり、小さいうちにやらなければいけないのは勉強だけではなく、しつけなどの人格形成や、体力づくりや健康なども含まれているのです。
「認知能力」と「非認知能力」
人間の能力には、「認知能力」と「非認知能力」の2種類が存在します。
「認知能力」とは、IQや学力テストで計測される能力のことで、一方「非認知能力」とは、学力とは違い、「耐久力がある」とか、「社会性がある」「意欲的である」といった、一般的に「生きる力」と言われるような能力のことを言います。
子供の将来の成功・幸せのためには、これら2つの能力を必要としますが、実は、このうち「非認知能力」は、幼少期の教育によって規定されるものであり、またその影響は、長期的な学歴・年収・雇用などの総合面で非常に重要であるということが証明されています。
そして、これまでの研究の中で、この能力は教育やトレーニングによって後天的に鍛えて伸ばせる、ということが明らかになっているのです。
非認知能力を鍛える方法
それでは、実際に子供の非認知能力を伸ばす方法はどのようなものでしょうか。
非認知能力の代表例の2つをクローズアップしてみましょう。
①「自制心」
「自制心」とは、自分の感情や欲望をコントロールする力のことです。
この自制心を鍛えるためには、「継続」と「反復」が重要です。
すなわち、何かを繰り返し、繰り返し継続的に行うことで向上します。
例えば、先生に「背筋を伸ばせ」と言われ続けて、それを忠実に実行した学生は成績の向上がみられたことを報告している研究があります。
これは、「背筋を伸ばす」というような意識しないとしづらいことを継続的に行ったことで、学生の自制心が鍛えられ、成績にもよい影響を及ぼした一例と言えます。
②「やり抜く力」
著名な心理学者のダックワース准教授によると、この力は「非常に遠い先にあるゴールに向けて、興味を失わず、努力し続けることができる気質」と定義づけられています。
「やり抜く力」を鍛えるためには、シンプルに「心の持ちよう」が大切であると言われます。
つまり、自分のもともとの能力は生まれつきのものではなくて、努力によって後天的に伸ばすことができるのだ、と子供自身に信じさせることが重要なのです。
子供を褒める時に気をつけるべきポイントとは
子育て中のママの大きな悩みの一つ。
「子供にご褒美をあげてもいいの?」
「子供は褒めて育てるべきなの?」
一度は悩んだこともあるのではないでしょうか。
本書では、ここにも科学的なデータを元に斬り込んでいます。
今回は、そのうち「褒めること」の是非を取り上げていきます。
「褒め育て」を経済学的に分析
「褒め育て」は子供たちの自尊心を高めるような教育法として、多くの人に支持されることが多いようです。
一般的な育児書にも、「子供を褒めて育てると、自分に自信を持ち、さまざまなことにチャレンジできる子供に育つ」と書かれていることが多いですよね。
たしかに、自分に自信を持つこと、すなわち自尊心を高めることは、子供にとってとても大切なことです。
心理学の研究では、自尊心が高い生徒は、教員との関係が良好で、学習意欲が高く、実力に見合った進路を選択している傾向があることが指摘されています。
ところが、ある研究では、学生の自尊心を高めるような介入が、必ずしも学生たちの成績をよくすることがないと示されたのです。
すなわち、「あなたはやればできるのよ」などと言って、むやみやたらに子供を褒めると、実の伴わないナルシストを育てることになりかねないのです。
それでは、どのように褒めればいいのでしょうか。
本書では、その「褒め方」を紹介しています。
「頭がいいのね」より「よく頑張ったわね」
コロンビア大学のミューラー教授らは、IQテストを使った「褒め方」に関する実験を行いました。
これによって、「子供のもともとの能力(=頭の良さ)を褒めると、子供たちは意欲を失い、成績が低下する」という驚きの結果が明らかになったのです。
実験では、子供たちをランダムに2つのグループに分けIQテストを実施し、一方のグループには「あなたは頭がいいのね」と、子供たちのもともとの能力を称賛するメッセージを伝え、もう一方のグループには「あなたはよく頑張ったわね」と、努力を称賛するメッセージを伝えました。
IQテストをそれぞれのグループで3回実施した結果、前者のグループでは成績が下がり、後者のグループでは成績が上がる、という結果になりました。
「よく頑張ったわね」と努力した内容を褒められた子供たちは、たとえ悪い成績をとったとしても、それは能力ではなく努力の問題だと考え、さらに粘り強く挑戦するようになりました。
このように、子供を褒める時には、「あなたはやればできるのよ」ではなく、「今日は1時間も勉強できたんだね」「今日は遅刻や欠席が一度もなかったね」と具体的に子供が達成した内容を挙げることが重要です。
それによって、さらなる努力を引き出し、難しいことでも挑戦しようとする子供に育つというのです。
科学に基づいた正しい教育を!
私たちが無意識に「常識」だと思っていた様々な教育方法が、実は科学的に正反対の結果をもたらすこともあるのですね。
子供を幸せにしたいママたちが悩み続ける子育て。
子供の将来にもっとも影響を与える幼少期には、たくさんの愛情と一緒に大切なことを教えてあげましょう。
『「学力」の経済学』
先輩ママからの「子供が小さいうちに知っていたかった」という声が続出した本書、子育てを迎えるママもぜひ読んでみてください。
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「ゲームが子どもに与える影響」から「少人数学級の効果」まで、今まで「思い込み」で語られてきた教育の効果を、科学的根拠から解き明かした画期的な一冊です。
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