生命保険料控除とは
生命保険料控除とは所得控除の一つで、適用されると税負担が軽くなる制度です。1年間に払い込んだ生命保険料のうち、生命保険料控除に当てはまる金額が所得から差し引かれることで課税対象から外れ、結果として所得税や住民税が安くなります。
なぜ生命保険料控除で税金の負担が軽くなるのでしょうか。その理由は、自分で生命保険や医療保険に入って医療費負担に備えているからです。社会保障に頼り切らず、保険料を負担して自助努力をしていることを考慮して、税金の負担を軽くしましょうという措置なのです。
ちなみに所得控除は全部で14種類。平成30年分の所得税から改正される配偶者控除のほか、ふるさと納税ですっかりおなじみの寄附金控除、医療費がたくさんかかったときに受けられる医療費控除なども同じ所得控除です。
生命保険料控除の対象
生命保険料控除には新旧2つの制度があり、対象となる保険契約の分類も新制度と旧制度とで異なります。平成24年1月から生命保険料控除が改正されたためです。
- 旧制度(旧契約ともいいます):平成23年12月31日以前に契約した生命保険が対象
- 新制度(新契約ともいいます):平成24年1月1日以後に契約した生命保険が対象
自分が入っている保険がどちらに当てはまるかわからなければ、保険証券に書いてある契約日を調べるといいでしょう。もしくは、保険会社から送られてくる控除証明書に「新契約」「旧契約」などと明記されているはずです。
生命保険料控除の対象になる人
生命保険料控除を受けられるのは、生命保険料控除の対象となる生命保険料を「実際に払っている人」です。
保険を契約する際は次の3つの名義を指定します。原則として、保険料を支払う義務は契約者本人にあります。
- 契約者:保険会社と契約を結んでいる人
- 被保険者:その保険によって保障される人
- 保険金受取人:保険金を受け取る人
契約者が妻の保険料を夫が払っている場合
ただし、契約者と保険料を支払う人が一致しないことがあります。たとえば妻の名義で契約している生命保険を夫が支払っているような場合です。
妻自身に収入があったとしても、保険料を負担しているのが夫なら、生命保険料控除が適用されるのは夫です。「誰が保険料を払ったのか」で決まるわけです。
厳密にいえば、保険金受取人が本人または本人の配偶者、6親等内以内の血族と3親等以内の姻族でなければいけません。
生命保険料控除の対象になる期間
その年の1月1日から12月31日までに支払った生命保険料が、生命保険料控除の対象になります。
10月になると保険会社から控除証明書のハガキが届くかと思いますが、そこには「証明額」と「申告額」という2つの金額が書かれています。ハガキが届く時点では今年分の保険料を支払い終えていないため、証明書の発行時点ですでに納付した保険料額(=証明額)と、12月末までに納付する見込みの保険料額(=申告額)があわせて表記されているのです。
生命保険料控除を申告する際は、12月末までに支払う見込みの申告額を使います。
生命保険料控除の対象になる保険の種類
生命保険料控除は、対象となる保険の種類によって次の3種類に分けられます。
- 一般の生命保険料控除:終身保険、定期保険、学資保険などのほか、旧制度の医療保険やがん保険
- 介護医療保険料控除:医療保険やがん保険など、医療保障のある保険
- 個人年金保険料控除:「個人年金保険料税制適格特約」が付いた個人年金保険
このうち「介護医療保険料控除」は平成24年1月の改正で新設されました。そのため、平成23年12月31日以前に契約した医療保険やがん保険は「一般の生命保険料控除」として扱われます。同じ保険の種類でも契約の時期によって分類が異なりますので注意してください。
また、生命保険と個人年金保険は新旧どちらの制度にもありますが、控除できる上限額には違いがあります(詳しくは後述)。
ただし、いずれの場合も保険期間が5年未満で貯蓄性のある保険は対象になりません。
生命保険料控除の計算方法
生命保険料控除額の計算方法および上限額は、所得税と住民税で異なります。またすでにご説明したように、平成23年12月31日以前の旧制度と平成24年1月1日以降の新制度でも変わります。
旧制度の生命保険料控除額
一般の生命保険料と個人年金保険料それぞれについて、年間の払込保険料に応じた下記の控除額が適用されます。なお、控除できる上限額は所得税で合計10万円、住民税で合計7万円です。
所得税
- 25,000円以下:払込保険料の全額
- 25,000円超50,000円以下:支払保険料×1/2+12,500円
- 50,000円超100,000円以下:支払保険料×1/4+25,000円
- 100,000円超:一律50,000円
住民税
- 15,000円以下:払込保険料の全額
- 15,000円超40,000円以下:払込保険料×1/2+7,500円
- 40,000円超70,000円以下:払込保険料×1/4+17,500円
- 70,000円超:一律35,000円
新制度の生命保険料控除額
一般の生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料それぞれの払込保険料(年間)に応じて、下記の控除額が適用されます。なお、控除できる上限額は所得税で合計12万円、住民税で合計7万円です。
所得税
- 20,000円以下:払込保険料の全額
- 20,000円超40,000円以下:払込保険料×1/2+10,000円
- 40,000円超80,000円以下:払込保険料×1/4+20,000円
- 80,000円超:一律40,000円
住民税
- 12,000円以下:払込保険料の全額
- 12,000円超32,000円以下:払込保険料×1/2+6,000円
- 32,000円超56,000円以下:払込保険料×1/4+14,000円
- 56,000円超:一律28,000円
旧制度と新制度の保険契約が混在している場合
一般の生命保険料控除と個人年金保険料控除は新旧どちらの制度にも存在します。そのため、旧制度が適用される保険と新制度が適用される保険の両方に入っている方もいるでしょう。
この場合、次の3つから生命保険料控除の適用方法を選ぶことができます。ちょっと面倒ではありますが、実際に計算してみて最も控除額の多いパターンを選ぶのが賢明です。
- 旧制度の生命保険料控除だけを適用
- 新制度の生命保険料控除だけを適用
- 新旧両方の生命保険料控除を組み合わせて適用
なお、新旧あわせて適用できる上限額は所得税で12万円、住民税で7万円です。
控除額の計算を助けてくれる便利なツール
生命保険料控除額の計算は複雑なので、初めてだと特にわかりにくいかもしれません。そんなとき役立つのが、一部の保険会社が用意しているサポートツールです。控除証明書のハガキを見ながら保険料額などを入力していくだけで、申請すべき控除額が算出できます。
控除証明書のフォーマットは保険会社によって若干異なるので、ご自身が契約している保険会社で用意しているツールだとよりわかりやすいでしょう。
生命保険料控除を受ける手続き
生命保険料控除は、対象となる生命保険に入っていれば自動的に適用されるわけではありません。自分で手続きをする必要があります。
生命保険料控除を受ける方法は、会社員やパートタイマーなどの場合と自営業者とで異なります。会社員やパートタイマーなどは勤務先の年末調整で処理してもらえますが、自営業者は確定申告のときに一緒に申請することになります。
いずれの場合も保険会社から発行される控除証明書を添付しなければいけません。万が一紛失してしまったときは再発行が可能なので、保険会社に問い合わせてみましょう。控除証明書を受け取ったら忘れないうちに勤務先へ持って行っておく、あるいは冷蔵庫など目立つ場所に貼っておくと紛失防止になるでしょう。
会社員やパートタイマーの場合
年末時点で勤務しているなどの条件に当てはまれば、年末調整の対象となり、生命保険料控除の手続きができます。会社員や公務員だけでなく、パートタイマーやアルバイトであっても同様です。
10~11月にかけて保険料控除申告書(正式名称は「給与所得者の保険料控除等申告書」)が配布されますので、控除証明書から必要事項を転記して提出しましょう。
勤務先の年末調整で申請をし忘れても、年明けに自分で確定申告をすれば税金を取り戻せます。
自営業者の場合
自営業者は年末調整が受けられないので、確定申告で手続きを行います。
自営業者は通常、1年間の収入や経費などをとりまとめて、翌年2月16日から3月15日までの間に確定申告書を提出します。このとき控除証明書を添付して生命保険料控除の申請をします。
生命保険料控除を忘れずに申請して節税を図りましょう
自分で生命保険に入って保険料を払っている人は節税のチャンスです。生命保険料控除を受けて所得税や住民税を少しでも安くしましょう。
10月頃に保険会社から送られてくる控除証明書はきちんと保管しておき、会社員やパートタイマーなら勤務先の年末調整で、自営業者なら確定申告で申請することを忘れずに。
- 国税庁「No.1140 生命保険料控除」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1140.htm,2018年10月19日最終閲覧)
- 国税庁「No.1141 生命保険料控除の対象となる保険契約等」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1141.htm,2018年10月19日最終閲覧)
- 第一生命「 生命保険料控除証明書 よくあるご質問(FAQ)」(http://www.qa.dai-ichi-life.co.jp/category/show/29,2018年10月19日最終閲覧)
- 日本生命「生命保険料控除に関するご案内」(https://www.nissay.co.jp/keiyaku/oshirase/hokenryokojo/,2018年10月19日最終閲覧)
- 生命保険文化センター「税金の負担が軽くなる「生命保険料控除」」(http://www.jili.or.jp/knows_learns/basic/tax/premium.html,2018年10月19日最終閲覧)