医療費をたくさん払うと医療費控除を受けられる
医療費控除とは、1月から12月までの1年間に支払った医療費の自己負担額が10万円(※)を超えたとき、超過分をその年の所得から差し引ける制度です。
所得税の計算の元となる「課税所得」が減るため、結果として所得税額が安くなります。「病気やケガなどで医療費がたくさんかかった方は税金の負担を軽くします」という配慮ともいえます。
(※)所得金額200万円未満の場合は「所得金額の5%」が基準。会社員やパートタイマーなどの給与所得者なら年収311万6000未満の場合、医療費の自己負担額が年間10万円以下でも医療費控除を受けられます。
平成29年1月からは、医療費控除の特例として「セルフメディケーション税制」が新設に。対象となるOTC医薬品を買った額が年間合計12,000円超などの条件を満たした場合、所得控除を受けられるという制度です。従来の医療費控除との併用はできませんが、新たな優遇制度として注目を集めています。
- 国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm,2018年10月19日最終閲覧)
- 厚生労働省「セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)について」(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000124853.html,2018年10月19日最終閲覧)
- 日本一般用医薬品連合会「知ってトクする セルフメディケーション税制」(http://www.jfsmi.jp/lp/tax/,2018年10月19日最終閲覧)
医療費控除の対象になる医療費とは
医療費というと、病気やケガをしたときに病院や薬局で支払った費用とイメージする方が多いでしょう。ただ、すべての医療費が医療費控除の対象になるわけではありません。医療費控除の対象になるのは「治療を目的とした医療費」であり、「病気やケガの予防」や「美容目的」の場合は対象外です。
たとえば風邪を引いてドラッグストアで風邪薬を買った場合、その購入代金は医療費控除の対象にできます。ただし、風邪を予防するためにビタミン剤を買った場合は、治療のために支払った費用ではないため、医療費控除の対象外です。
なお、病院や薬局で支払った医療費だけでなく、通院で電車やバスなどを使ったときの交通費も対象になります。公共交通機関の交通費は領収書がとれないため、家計簿や手帳などに「いつ」「どこからどこまで」「いくらかかったか」をメモしておくとよいでしょう。
妊娠・出産費用で医療費控除の対象になるもの
妊娠や出産にかかわる医療費についても、医師や助産師、看護師が行った治療目的のものであれば、医療費控除の対象になります。具体例は以下のとおりです。
妊活・不妊治療
- 不妊治療の費用
- 人工授精の費用
- 交通費(電車・バスなどの公共交通機関)
妊娠中
- 妊婦定期健診の費用
- 交通費(電車・バスなどの公共交通機関)
- 妊娠悪阻や切迫早産などの入院費
出産・入院・産後
- 分娩費(帝王切開や無痛分娩の手術費も含む)
- 入院費(入院中の食事代も含む)
- 赤ちゃんの入院費
- 産後1ヶ月健診の費用
- 母乳マッサージの費用(乳腺炎などの治療目的)
ただし、医療費として認められないものもあります。妊娠検査薬のほか、里帰り出産のためにかかった交通費(新幹線代や飛行機代)、自分で希望した場合の差額ベッド代、パジャマや洗面具など出産準備品の購入代金、赤ちゃんの紙おむつ代、予防接種代などです。
医療費控除の対象になるかならないか迷ったら、「治療目的の費用なのか」という判断基準を思い出してください。病院や薬局の窓口で質問したり、税務署に問い合わせてみたりしてもいいでしょう。
- 国税庁「No.1122 医療費控除の対象となる医療費」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1122.htm,2018年10月19日最終閲覧)
- 国税庁「No.1124 医療費控除の対象となる出産費用の具体例」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1124.htm,2018年10月19日最終閲覧)
- 国税庁「No.1126 医療費控除の対象となる入院費用の具体例」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1126.htm,2018年10月19日最終閲覧)
- 国税庁「不妊症の治療費・人工授精の費用」(https://www.keisan.nta.go.jp/survey/publish/45988/faq/46015/faq_46063.php,2018年10月19日最終閲覧)
医療費控除の計算方法
医療費控除を受けていくら所得税が安くなるか(いくら還付金がもらえるか)は、次の手順で計算します。医療費は自分のために支払った分だけでなく、同一生計の家族のために支払った分も合算が可能です。
- 医療費控除額=(医療費控除の対象になる医療費-保険金などで補てんされた金額※1)-10万円(※2)
- 還付金額=医療費控除額×所得税率
窓口で支払った医療費の全額が医療費控除の対象になるわけではありません。自己負担額、たとえば健康保険から支給される高額医療費や出産育児一時金、生命保険から支払われる保険金などは差し引いて考えます(※1)。
なお、医療費控除額の上限は200万円です。
(※1)差し引くのは、保険金給付の目的となった医療費の金額が上限。差し引き切れない金額があっても、他の医療費からは差し引かない
(※2)所得金額200万円未満の場合は、所得金額の5%
医療費控除の還付金額はいくら?
たとえば、医療費控除の対象になる医療費が計40万円、保険金などで補てんされる金額が特になく、課税される所得が360万円(所得税率20%)という方がいたとします。
この方が医療費控除を受けたとき、もらえる還付金額={(40万円ー0円)ー10万円}×20%=6万円となります。
- 国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm,2018年10月19日最終閲覧)
- NTT健康保険組合「医療費控除について」(http://www.nttkenpo.jp/member/benefit/system02.html,2018年10月19日最終閲覧)
医療費控除は年末調整で申請できない
会社員やパートタイマーの方は、10月から11月にかけて勤務先で年末調整の書類が配られると思います。年末調整では、扶養する夫や妻、親族がいることで受けられる「配偶者控除」「配偶者控除」「扶養控除」のほか、自分で生命保険や地震保険に入って保険料を払っていることで受けられる「保険料控除」などの手続きを行います。
これらの控除を「所得控除」といい、医療費控除も同じ所得控除の仲間です。そのため、医療費控除も年末調整で手続きしてもらえるのではと考える方もいるでしょう。勤務先とのやりとりで処理が済むならラクですが、残念ながら、医療費控除は年末調整の対象外。会社員やパートタイマーなどの給与所得者であっても確定申告が必要です。
- 国税庁「No.1100 所得控除のあらまし」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1100.htm,2018年10月19日最終閲覧)
- 国税庁「給与所得者と還付申告」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/shoto302.htm,2018年10月19日最終閲覧)
- 国税庁「No.2030 還付申告」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2030.htm,2018年10月19日最終閲覧)
医療費控除の確定申告方法
確定申告というとフリーランスや自営業の方がするものとイメージされるかもしれません。書類の準備や計算の手間はかかりますが、還付金をもらうためには必要な手続きなので、チャレンジしてみましょう。
医療費控除の確定申告をするには、まず次の書類を用意します。
- 確定申告書(会社員やパートタイマーなどの給与所得者ならA様式)
- 医療費の明細書(手書きでもExcelで作成後プリントアウトしたものでも可)
- 医療費の領収書
- 勤務先で年末調整後にもらう源泉徴収票
必要な書類がそろったら、次の段取りで作成して税務署に提出します。
- 自分と家族が1~12月までに支払った医療費の領収書を集める
- 領収書を病院や薬局ごとに分け、それぞれの小計を出す
- 2をもとに医療費の明細書を作る
- 源泉徴収票をもとに確定申告書を作成する
- 書類一式を税務署へ提出(直接持ち込みでも郵送でも可)
- 後日、還付金が指定の口座に振り込まれる
- 国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm,2018年10月19日最終閲覧)
平成29年分の確定申告から領収書の提出が不要に
実は平成29年中にかかった医療費控除の確定申告から、申告書類の提出時に領収書を添付しなくてもよいことになりました。
領収書を添付しない代わりに「医療費の明細書」を作成する、あるいは健康保険組合等から発行された「医療費のお知らせ」を添付すればOKです。
ただ提出が不要になったからといって処分してよいわけではなく、自宅で5年間保管しなければいけません。税務署から問い合わせを受けたとき、提出するか提示しなければならないためです。
なお、平成29年分から平成31年分までなら、従来のとおり医療費の領収書を添付する申告方法でも受け付けてもらえます。
- 国税庁「医療費控除は領収書が提出不要となりました」(http://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/iryoukoujyo_meisai.pdf,2018年10月19日最終閲覧)
- 小田原市「医療費控除の申告のしかたを教えてください。」(http://www.city.odawara.kanagawa.jp/faq/p06980.html,2018年10月19日最終閲覧)
- 税理士法人山田&パートナーズ「医療費控除等に関する添付書類の見直し」(https://www.yamada-partners.gr.jp/wp-content/uploads/2017/05/1-4.pdf,2018年10月19日最終閲覧)
医療費控除を家計の節約に役立てましょう
妊娠や出産でたくさんお金がかかったときに受けられる医療費控除は、所得税の負担を軽くしてくれる家計の味方といえます。1~12月にかかった家族の医療費も含め、病院や薬局で医療費を支払ったときの領収書は紛失しないよう保管しておきましょう。
医療費控除は勤務先の年末調整で手続きができず、自分で確定申告をする必要があります。医療費の明細書や確定申告書など、書類の作成や計算は面倒ですが、きちんと手続きをすれば還付金がもらえますので、ぜひチャレンジしてください。