年末調整とは
年末調整とは、毎年12月に行われる所得税の精算手続きです。
会社員や公務員として働いていると、毎月の給与やボーナスから所得税が給与天引きされているかと思います。給与天引きで納める所得税のことを源泉所得税といいますが、この源泉所得税の金額は大まかな計算で決められています。そのため、場合によっては過不足が発生します。
したがって、その年の1月から12月までの給与額(=年収額)が確定した時点で、所得税額を再計算します。そして、
- 源泉所得税>本来納めるべき税額=還付金がもらえる
- 源泉所得税<本来納めるべき税額=追加で納税
となります。
勤務先によっても異なりますが、たいてい11月初旬に書類が配布されて、必要事項を記入した上で11月半ばころまでに提出します。還付金がある場合、一般的には12月もしくは1月の給料日に給与と一緒に振り込まれます。実は自分が払い過ぎた税金が戻ってくるだけなのですが、まるでプレゼントのように感じたことのある方も多いでしょう。
会社員や公務員は、この年末調整で所得税の精算手続きを終えているため、基本的には確定申告をする必要がないのです。
- 国税庁「No.2662 年末調整のしかた」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2662.htm,2018年10月22日最終閲覧)
- 国税庁「No.2675 年末調整の過不足額の精算」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2675.htm,2018年10月22日最終閲覧)
年末調整の対象になるのはどんな人?
会社員や公務員などの給与所得者であれば、必ずしも全員が年末調整を受けられるわけではありません。年末調整の対象者になるには、次の条件を満たしていることが大前提です。
- 勤務先に扶養控除申告書を提出した人
- 年末時点で勤務している人
1. 勤務先に扶養控除申告書を提出した人
扶養控除申告書は通称で、正しくは「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」。長くて堅苦しい名称ですが、年末調整の対象者となるには非常に大事な書類です。この扶養控除申告書を提出するという行為そのものが、「私はここの勤務先で年末調整の処理をしてもらいたい」という意思表示になるからです。
扶養控除申告書の意味
扶養控除申告書には、「所得控除」を受けるために必要な情報を記入します。所得控除とは、年収だけでなく個人の事情などを考慮して、税金の負担を軽くしてくれる制度のこと。所得税額を計算する際、所定の金額を差し引く(=控除)ことができます。
ここでいう個人の事情とは、たとえば次のようなものがあります。これらの所得控除を受けたいと勤務先に伝えるための書類が扶養控除申告書なのです。
- 扶養している配偶者がいる=配偶者控除
- 扶養している親族がいる=扶養控除
- 夫あるいは妻と死別した=寡婦控除(寡夫控除)
ちなみに配偶者控除の申告は、平成29年分までは扶養控除申告書を使っていました。しかし平成30年分からは「給与所得者の配偶者控除等申告書」という新しい書式を使いますのでご注意ください。
扶養控除申告書を提出する時期
昨年末も同じ勤務先にいたなら、前回の年末調整のときに平成30年分をあわせて出しているはずです。今年の途中から勤め始めたなら、今回の年末調整よりも前に出しているはずです。自分が提出したかどうか不安な場合は、勤務先の担当者の方に確認してみましょう。
なお、今回の年末調整では基本的に平成31年分、つまり来年分の扶養控除申告書が配布されます。勤務先に対して「来年1年間、この所得控除を考慮して源泉所得税を計算してください」と伝えるためのものだからです(勤務先によって異なる場合があります)。
2. 年末時点で勤務している人
年末時点、つまり12月31日時点で特定の勤務先に属しているなら年末調整の対象者になります。1月から12月まで1年を通じて勤務してきた人も、10月など1年の途中から就職・転職してきた人も、同じように年末調整の対象とされます。
ただし、転職した人は以前の勤務先から発行された「源泉徴収票」が必要です(画像を参照)。源泉徴収票とは、自分がその年に受け取った年収や給与天引きで支払った所得税の総額など、大事な情報が集約されている書類。現在の会社からすれば、年末調整の手続きには前職の年収なども把握する必要があるためです。
万が一紛失してしまったら、以前の勤務先に再発行の依頼をします。たまに勘違いする方もいるのですが、問い合わせ先は税務署でなく、あくまで以前の勤務先です。
年末時点で勤務していなくても年末調整の対象になる?
以下のいずれかに当てはまる場合は、1年の途中で退職、つまり年末時点で勤務していなくても年末調整の対象になります。通常の年末調整が12月に行われる一方、この場合の年末調整は退職した時点で行われます。
- 12月の給料日・ボーナス支給日の後に退職した
- パートタイマーなどの給与所得者が退職してその後就職せず、年収103万円以下で確定している
- 海外転勤などで非居住者(※)になった
- 心身に著しい障害を負って退職し、再就職する見込みがない
- 死亡により退職した
(※)非居住者とは、所得税法でいう「居住者」以外の人。居住者とは国内に生活の拠点がある、あるいは現在まで連続して1年以上、国内に住居を持つ人を指します。
- 国税庁「No.2665 年末調整の対象となる人」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2665.htm,2018年10月22日最終閲覧)
- 国税庁「No.2668 年末調整の対象となる給与」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2668.htm,2018年10月22日最終閲覧)
年末調整の対象から外れるのはどんな人?
以下のいずれかに当てはまる場合、年末時点でどこかしらの勤め先に属していても年末調整の対象にはなりません。源泉所得税の精算手続きをしたいなら自分で確定申告をする必要があります。
- 年収が2000万円超
- 扶養控除申告書を勤務先に提出していない
- 2つ以上の勤務先から給与を受け取っている
- 1年の途中で退職し、そのまま就職していない
- 海外で勤務し、1年間を通して海外に住んでいる(非居住者)
- 被災したことで源泉所得税の徴収猶予や還付を受けた
- 国税庁「No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1900.htm,2018年10月25日最終閲覧)
- 国税庁「No.2665 年末調整の対象となる人」(https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/2665.htm,2018年10月25日最終閲覧)
- 国税庁「給与所得者と税」(https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/02_1.htm,2018年10月25日最終閲覧)
パートタイマーも年末調整の対象になる?
年末調整の対象者となるのは、会社員や公務員だけではありません。パートタイマーやアルバイトの方も含まれます。
正社員、契約社員、パート、アルバイトなどの雇用形態にかかわらず、特定の勤務先から給与をもらっている人のことを「給与所得者」といいます。給与所得者なら原則、勤務先で年末調整をしてもらえます。すでにご説明したように、扶養控除申告書を提出かつ年末時点で勤務しているなら、年末調整の対象者になるので安心してください。
年収103万円以下でも年末調整される?
本人がパートなどの給与所得者で年収103万円以下(※)なら、原則として所得税はかかりません。ただし、毎月の給与から所得税が天引きされていれば、その分が年末調整で還付されるはずです。
なぜ年収ベースでは所得税がかからないのに、毎月の源泉所得税は差し引かれているのでしょうか。その理由は、源泉所得税は月給ベースで計算されるからです。
源泉所得税が発生するのは月給が8万8,000円以上の場合です。一方、年収103万円を単純に月給換算すると8万5,633円。つまり、年収ベースでは所得税がかからないはずなのに、月給ベースでみると源泉所得税がとられることになるのです。
(※)厳密には、年収が「給与所得控除65万円+基礎控除38万円=103万円」の範囲内に収まっていることを指します。
複数のパートを掛け持ちしている場合
年末時点で2カ所以上の勤務先に属している場合、どこで年末調整を受けるか前もって選択しなければいけません。年末調整を受けられるのは1社のみと決められているからです。
一般的には、勤務時間や給与がより多いほうの勤務先をメインとして扶養控除申告書を提出し、年末調整をしてもらいます。
ただし、年末調整済みなら確定申告が不要というわけではありません。パート年収の合計が103万円以下なら所得税はかかりませんが、103万円超なら確定申告によって所得税の精算をする必要があります。
たとえば、A社とB社を掛け持ちしてパート勤務している方がいたとします。
- A社からの給与:年間70万円
- B社からの給与:年間50万円
A社とB社はいずれも単体で見れば年収103万円以下ですが、所得税を正しく計算するには両者を合わせて考えなければいけません。この方の年収は120万円となり、その旨を確定申告する必要があります。
確定申告で正しい所得税額を算出して、一年間払ってきた源泉所得税額のほうが多ければ還付、少なければ追加で納税するのはいままで挙げてきた例と同じです。
なお、2ヶ所以上の給与の合計が年間103万円以下でも、すでに支払った源泉所得税があれば確定申告をすることで還付されます。また、そもそもメインの勤務先以外から受け取った給与が20万円を超えるなら確定申告が必要です。
- 国税庁「No.2520 2か所以上から給与をもらっている人の源泉徴収」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2520.htm,2018年10月25日最終閲覧)
- 国税庁「No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1900.htm,2018年10月25日最終閲覧)
結婚や出産を機に退職したら?
1年の途中で結婚や妊娠、出産をきっかけに退職し、その後どこにも就職していない方もいるでしょう。この場合も年末時点でどこにも勤務していないため、12月の年末調整の対象にはなりません。
月給をもらっていたときに源泉所得税を払っていたら、年収ベースでみたときに払い過ぎな可能性大です。退職した時点の年収が103万円以下にもかかわらず、退職時に元の勤務先からもらった源泉徴収票の「源泉徴収税額」欄に金額が書いてあったら要注意。払わなくてよい所得税を払っていることになるので、確定申告をして取り戻しましょう。
- 国税庁「No.2674 中途就職者の年末調整」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2674.htm,2018年10月25日最終閲覧)
- 国税庁「No.2671 年末調整の後に扶養親族等の人数が異動したとき」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2671.htm,2018年10月25日最終閲覧)
- 国税庁「No.1910 中途退職で年末調整を受けていないとき」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1910.htm,2018年10月25日最終閲覧)
年末調整の手続きは漏れなく行いましょう
年末調整は会社員やパートタイマーなどの給与所得者にとって大事な手続きです。年末調整があるおかげで、自分でわざわざ確定申告をしなくても、源泉所得税の精算手続きが完了するからです。
とはいえ誰でも年末調整の対象者になるわけではなく、前もって扶養控除申告書を提出し、年末時点で勤務しているなどの条件があります。複数のパートを掛け持ちしている場合は、どこか1カ所で年末調整を受けたしても確定申告は必要ですので注意してください。
また、1年の途中で退職してそのまま専業主婦になった場合、確定申告で還付金がもらえる可能性がありますので是非チャレンジしてみましょう。