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「保護者に対する関わり方が変わった」育休後復職した保育士が語る仕事と葛藤

待機児童問題の中で、保育士の人材不足が深刻な問題として浮き彫りになってきました。多くの保育士が、保育園に就職後5年以内に離職するという現実の中、保育士の資格を持ちながら復職しない「潜在保育士」の存在が大きくなりつつあります。潜在保育士の中に多くいるといわれている育児中の保育士資格保持者。ママでありながら保育士として働くことには大きな壁があると考えられます。育児をしながら保育士として働く女性に、仕事と子育てについて聞きました。

PIXTA

求人しても応募がない。深刻な保育士不足の現状

現在日本で大きな問題となっている待機児童問題。その原因の中の一つに「保育士不足」が挙げられています。保育所を開所しても、そこで仕事をしてくれる保育士がいなくては保育が成り立ちません。

平成27年の厚生労働省の調査によると、平成27年9月時点の保育士の有効求人倍率は1.85。これは保育士185人の募集に対して100人しか応募されない状態ということです。例年1月ごろの求人倍率が高くなる傾向にあり、9月の段階ですでに1.85倍では、今後も保育士不足の状況が続く状態が予測できるといわれています。特に東京都では保育士不足が深刻化しており、有効求人倍率は5倍を超えています。

全国に76万人の「潜在保育士」

子育て 背中 PIXTA

保育士の資格を持っていながら、保育士としての仕事に就いていない「潜在保育士」は平成25年時点で約76万人。前年に比べて約5万人も増加しています。保育士の登録者数も年々増えているのですが、潜在保育士数も増え続けていることから、勤務している保育士の数は増えないという状況が続いているのです。

潜在保育士の中には、保育士を養成する学校を卒業し資格を取得したが保育所に就職しなかった人や、一度保育所に就職したものの、何らかの理由で離職した人も含まれます。保育士の離職率は平成25年度で約10.3%で、年間約3万人が離職しました。

また、保育士として勤続する年数の調査では、半数以上が勤続5年未満であることがわかりました。大学や専門学校を卒業後就職したと考えると、30歳になる頃には多くの保育士が離職していると考えられます。人によっては結婚、妊娠などによりライフスタイルが大きく変わることもあるこの時期。多くの家庭を持つ女性たちと同じように、「仕事と家庭の両立」という壁が保育士の前にも立ちはだかっているのかもしれません。

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保育士の「仕事と家庭の両立」はどれほど大変なのか

編集部撮影

保育士と家庭を両立させることはどれくらい大変なことなのでしょうか。4歳と2歳の子供を育てながら、保育士として小規模託児所に勤務しているマユミさんにお話を聞きました。

時間を固定するだけで罪悪感…保育士の仕事とは

マユミさんは現在小規模の託児所で勤務しており、開所時間は8時30分から18時30分。勤務時間は9時から17時の固定で働いているそうです。現在の園は開所時間が比較的短く、固定の勤務時間で働きやすいようです。

「以前もっと開所時間が長い園で働いていた時には、固定の時間で働くことで周囲に負担がかかることに罪悪感を抱いていました」とマユミさんは話します。

保育士の仕事は保育だけではありません。朝は部屋の片づけや準備、当日の制作物の準備や確認。昼食後はお昼寝中に日誌や連絡帳の記入をするため、休み時間が短くなってしまうことも多いようです。マユミさんの場合は子供たちのお迎えに合わせて夕方に保育から抜けて退勤しますが、自宅に制作物や書類を持ち帰ることが多いといいます。

自宅に持ち帰る仕事は、年間指導計画や月案、週案といった保育カリキュラムの書類、子供たちの誕生日カードや壁面装飾、手作りおもちゃ。個人情報の漏洩になりえるものは持ち帰らないよう気をつけているそうです。

出産後、保育の仕事に戻った理由

エプロン PIXTA

マユミさんは大学を卒業後、新卒で乳児院、児童養護施設で保育士として4年間働き、その後「一般企業の経験もしたい」と考え、保育とは関係のない一般企業で3年間勤務。その後結婚、出産を経て保育士として仕事に復帰しました。

保育士として保育園に勤め始めたきっかけは、知り合いから保育園の人が足りないと誘われ、手伝う気持ちで保育士として働き始めたこと。もともと福祉の仕事に復職したいと考えていたことから、勤務することを決めたといいます。

実際に復職をしてからはアルバイト扱いでありながら、正規職員と同じ仕事をこなしていたそう。どの保育園も人不足で、1人1人の保育士にかかる負担は重くなりやすいようです。

子供を生んだことで、保護者の気持ちに寄り添えるようになった

保育 PIXTA

マユミさんに、ママ保育士になって変化したことを聞くと「保護者の気持ちに寄り添えるようになった」と話してくれました。

乳児院や児童養護施設で働き、子供の日常の世話をすることには慣れていましたが、それが24時間続く状態や、寝不足でどうしようもないという気持ちになるのは、出産後が初めてだったといいます。こうした経験をすることにより、保育士として復職した後には保護者の思いに寄り添う気持ちが強くなったそうです。

保育士は子育てのスペシャリスト。出産経験はなくても子供とのかかわり方の専門家です。しかし保護者の気持ちをどれほど理解できるかは、出産経験が大きく左右するよう。マユミさんも、自身が子育てを経験することが、保育士としての保護者との関わり方を変えたのですね。

自分の子供を優先できない葛藤

取材先提供

ママになって保育士として復帰したことで良い面があった一方、やはり子育てと仕事の両立には苦労しているといいます。まずは復職しようとしても、わが子を預ける保育園がなかなか見つからないこと。

世の中では保育士が不足している、復帰してほしいという声がありますが、保育士だからといって保育園への入園が優先されるわけではありません。また、世の中の働き方が多様化し、長時間保育をする園が増えてきているにも関わらず、そこで働く保育士が子供を預ける先があるわけではないのが現実です。

復職してからも苦労はあり、「子供が好きだから保育士になったと反面、保育士として勤務する時間が長く、わが子と関わる時間が短くなってしまうことに葛藤する気持ちがあります」とマユミさん。わが子が通う保育園と勤務先の運動会が同じ日になってしまったときには、勤務先を優先せざるを得なかったこともあったといいます。

さらに、多くのママと同じように、帰宅してからも家事が山積みで休めないことも苦労するポイント。持ち帰りの仕事をしようと思っていても、寝かし付けで一緒に眠ってしまい、翌朝後悔することもあるのだとか。保育士とはいっても働くママの1人。ワーキングマザーとしての悩みはどの職種でも共通のようです。

仕事を続けるためには、家族の協力が欠かせない

パパ 子供 PIXTA

現在、休憩時間を除いて7時間勤務しているマユミさん。時間を短くして働く選択肢もあるといいますが、それを選ばない理由についてマユミさんは「給料が低くて、長時間働かないと子供を保育園に入園させて働く意味がなくなってしまうんです。」と話します。

保育士は専門職であるにも関わらず、その他の業種に比べて給料が低いといわれており「割に合わない」という理由で辞めてしまう同僚もいたといいます。

7時間働いてもなお、夕方残れずに他の人に迷惑をかけることに罪悪感を抱き、パパに保育園の送りをお願いして早めに出勤したり、会議があるときは夕方も残ったりしていたというマユミさん。以前の勤務先では「月10時間以上残業をつけられない」という暗黙のルールがあり、多くの保育士が無償で残業をしていたそう。

保育士の仕事はやりがいだけではやっていけないほど大変だということがわかります。それをこなしていくためには、家族の協力が欠かせないのが現状なのですね。

それでも保護者や子供のために働きたい

取材先提供

最後にマユミさんに、これからも子育てをしながら保育士を続けたいと思うか聞いてみました。

マユミさんは、今後も保育園での仕事に限らず、保育士として保護者や子供のためになる仕事をしていきたいのだそう。「大変な部分はありますが、子供の命を預かる専門職として、やっていきたいことはたくさんあります。保育士はやりがいがあって、楽しさも感じているので、もっと世の中に認められていくとよいと思う」と答えてくれました。

お話を聞いた私は1人の母として、保育士という専門知識を持ちながら子育ても経験したマユミさんのような保育士が、保育の現場に戻ってくれたこと、そしてこれからも保育士を続けたいと考えていることを心強く思いました。保護者としても子育て経験のある保育士がわが子を見てくれるのは、とても安心感があるものですよね。

頼れる先輩ママ保育士を、保育の現場に

保育士 PIXTA

「子育てを経験して保育士に戻ることで、保護者に寄り添えるようになった」。マユミさんの言葉はとても印象深いものでした。保護者としても、子育て経験者の先生いることはとても心強く、頼りがいがあると感じるものです。

子供が大好きな保育士さんが子供を産み、子育てを経験して保育士に復帰する。

これは確実に保育の質を上げることにつながり、保護者にとって安心できる保育園に近づくことであるはずです。また、潜在保育士を減らし、保育士の資格を持つ人たちが保育の現場で働けるようになることは待機児童の解消にもつながるでしょう。

しかし、勤務時間や労働環境に難しさがあり、現状ではママである保育士が復職しにくい環境になっていることは、もったいないことではないでしょうか。頼れる先輩ママである保育士が、保育の現場に戻りやすいしくみが整うことを願うばかりです。

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