お話を伺ったのは、写真家の中川正子さん。
中川さんは、広告や雑誌をはじめ、俳優・ミュージシャンのポートレイトや写真集など、幅広い現場で活躍されており、また、小学校一年生の男の子のお母さんとしても、日々、育児に励まれています。Instagramでは、母の目線から見た、元気いっぱいな息子さんの日常が写真で紹介されており、世の中のたくさんのお母さん達から人気を得ている女性フォトグラファーです。
写真家として、そしてこどもに対する愛情たっぷりのまなざしを持つ中川さんは、こども達にどのようにカメラを向けているのでしょうか?
写真は、待つことが大事。
この日、中川さんはキッザニア東京での撮影を待ちに待った様子で現れました。
「キッザニアに来るの、初めてなんです!」
小学生のお子さまを持つ中川さんは、一度は来てみたいと思っていた場所のひとつがキッザニアだったそうです。胸が高まる気持ちを抑えて、まずは施設内を一周。初めて目にする街の光景や、さまざまな仕事に取り組むこども達の姿をニコニコと眺めながら、まず教えてくれたのはこんなポイントでした。
「特別なシチュエーションにこどもがいる時って、つい、親も興奮して、バーッと写真を撮ってしまいがちですよね。でも、そんな時こそ、待つことが大事です!」
中川さん曰く、ただやみくもにシャッターを押すのではなく、腰を据えて、こどもの目を見つめて待つのが大切なのだとか。
「こどもが真剣に何かを取り組んでいる時って、目でわかりますよね。笑顔になる瞬間も、目を見ていればわかる。それを逃さないように、じっと目を見て待つんです」
普段のお仕事の中で、ミュージシャンのライブを撮影することも多いという中川さん。一対一で向き合い、ポートレイトを撮ることを前提としたシチュエーションとは違い、ライブの現場は、そこで行われていることをひっそり撮るスタイル。この日の撮影もライブと似ているそうで、こどもがいい顔になる瞬間を、ただひたすら待つという気持ちでカメラを構えていたそうです。
「こういう場所に来ると、こどもが何かをしている“行為”を撮ることがメインになってしまいますが、合間、合間に見せる、何てことのない表情のほうが、印象的な写真になることが多いんですよ」
中川さんが参考に見せてくれたのは、新生児室での写真でした。
「ここでは右の女の子を狙ってました。目を見てください。隣のお姉さんの様子をジーッと見てますよね?何をすればいいかを、見て、習おうとしていたんでしょう」
「そして撮れたのがこの写真でした。赤ちゃんを絶対に落としちゃいけないぞっという気持ちが感じられて、必死さが伝わりますよね。私、この一枚が大好きで……(笑)。すごくかわいかったです!」
ライブの時と同じように、「こっち向いて!」「笑って!」とお願いするのが難しい状況では、こどもを撮る時も忍耐力が必要になると中川さん。予想される表情があれば、それを待つのも手とのことでした。
「笑顔の写真だけが良い写真とは限りません。 “緊張している顔”も成長の過程ですよね。ここではこんなに緊張してたね、っていうシーンも押さえてあげると、思い出として残りますよ」
写真を撮ることを、英語ではshootと言います。まさに、キジを打つかのように、遠くからこども達の姿をこっそり狙う中川さんの姿が印象的でした。
目線の高さを、こどもに合わせる。
待つと言っても、ただ棒立ちしながらこどもの目を見つめていればいいのでしょうか?
「身長160cmくらいの大人から、100cm程のこどもを見下ろすと、どうしても頭の部分がたくさん写ってしまいます。ですので、撮る時は、目線の高さをこどもに合わせたり、さらに下から狙ったりすると、表情をしっかりと捉えられますし、アングルにも幅が出てきます」
さらに中川さんは、こどもは下を見ている時よりも、上を向いている顔のほうが、真剣な表情やイキイキとした顔になることが多いのだと教えてくれました。カメラを低い位置で構えていると、こどもがパッと目を上げる瞬間が狙いやすくなるので、シャッターチャンスの可能性が、ぐんと広がりそうです。
真剣なまなざしや笑顔に迫るために、中川さんがおすすめするのは望遠レンズ。下から覗くように捉えた顔を写真いっぱいに配置でき、背景もシンプルになるので、こどもの顔が引き立つ一枚になります。
「望遠レンズと言っても、ママでも手軽に使える一眼レフの望遠でもいいですし、スマホのカメラで、意識的にズームにするのもいいでしょう」
こどもが、“集合”する時を待つ。
キッザニアの街を巡る先々で、中川さんはこんなフレーズをよく口にしていました。
「私、こども達の集合に“萌え”るんです(笑)」
わかります!運動会や、お遊戯会など、同じ服を着たこども達が集まるシチュエーションの中にいるわが子の姿に、キュンとくる気持ち。こどもを持つ親なら誰もが経験したことのある感情ではないでしょうか。
下のピザショップの光景は、その”キュン”を写真の上で表現した一枚です。
「こどもが大勢いる中でも、親って、自分の子しか見ていませんよね(笑)。撮る時も、その子の目にしっかりピントを合わせてあげると、写真の上でも、親のまなざしのような雰囲気を感じる一枚が撮れますよ」
こどもの目を見て待つという、“うちの子専属カメラマン”達が持つべき心構えを教えてくれた中川さん。まず、そこを意識するだけでも、写真の中にいる自分のこどもを、これまで以上にイキイキとした姿で残すことができそうです。
中川正子
1973年横浜生まれ。津田塾大学在学中、カリフォルニアに留学。写真と出合う。自然な表情をとらえたポートレート、光る日々のスライス、美しいランドスケープを得意とする。写真展を定期的に行い、雑誌、広告 、アーティスと写真、書籍など多ジャンルで活動中。2011年3月に岡山に拠点を移す。全国及び海外を旅する日々。2017年には最新写真集『ダレオド』(BOOK MARUTE / Pilgrim)を上梓。台湾を皮切りに、全国でフェアを展開する。写真集に「新世界」(PLANCTON刊)『IMMIGRANTS』(Octavus刊)などがある。masakonakagawa.com