帝王切開は生みの苦しみがない…?
「35週の妊婦健診で、赤ちゃんの頭が私の骨盤のサイズを超えているといわれて、急に予定帝王切開に決まったんです。手術を受けること自体が初めてでとても怖くて、それを打ち明けたつもりだったのに…」友人からある言葉をかけられた日のことを、佐藤さんは振り返ります。
「帝王切開って痛くないんでしょう。いいなあ。私もそれで生みたいな」友人は笑ってそう言ったといいます。この言葉は、佐藤さんにとって思いがけず、心がチクリと痛むものでした。
「彼女はまだ出産を経験していなかったので、その言葉にまったく悪気はなかったと思うんです。でも、私はラクをして赤ちゃんを生むと思われるのかな。傍から見るとそうなのかなって」
安全な出産のために帝王切開が必要だということは、医師の説明で理解したつもりだったという佐藤さん。しかし、不意に投げかけられた「いいなあ」という言葉が思いのほか胸につかえて、消化しきれない日々が続いたといいます。
大きくなる不安を、誰にも打ち明けられなかった
Ⓒママリ
心に負った小さなダメージはだんだんと不安に変わり、佐藤さんの中で大きくなっていきました。
「医師から帝王切開の説明を受けたときは『おなかを切るのが怖い』くらいの不安だったのに、友人の言葉を聞いてからは、自然分娩との差が気になりはじめて、インターネットで調べるようになりました。
おなかを痛めないと愛情がわかないかもしれないとか、出産に立ち会わない夫は父性が芽生えない(佐藤さんの場合帝王切開が理由で立会出差ができなかった)とか。いろいろな懸念を自分で探し出して不安になる、負のループに陥ってしまいました」
陣痛がないと「ちゃんとしたお産」とはいえないのではないか。そう思い始めると、自然分娩と比べて何か良くないことがあるような気がしてなりませんでした。手術への恐怖心も、出産日が近づくとともにふくらんでいきます。
ただ、その気持ちを面と向かって誰かに打ち明ければ、また思いもよらない傷を負うかもしれません。周囲に帝王切開を経験した人があまりいなかったこともあり、相談はできなかったといいます。