「ケンジたちのことなんだけど。正直、このままでは俺たちも将来の同居を考えられないんだ」
義両親は、黙って夫の言葉を聞いています。
「長男だし、父さんや母さんには子どもたちが生まれてからも良くしてもらっているから、これからもちゃんと支えたいとは思ってる。でも、今のケンジたちへの金銭的な援助の仕方では、俺たちが同居した分の生活費の一部の、ケンジの家への援助に回ってしまうと思うんだ」
夫は、一つ一つ、冷静に、しかし毅然とした態度で伝えました。義両親の顔が、少しずつ曇っていくのがわかりました。
「俺たちも子ども3人をなんとか育ててきて、今のままならもちろん父さん、母さんに迷惑をかけずに生活できる。でも、同居を考えた時、これ以上ケンジたちへの援助が続くようであれば……」
夫は、一度言葉を切りました。その場の空気が、張り詰めます。私も、夫の言葉を固唾を飲んで見守りました。 ※1
「いっそ、弟家族にこの家に入ってもらえばいいと思う。今後の父さんや母さんのことや、家の管理もケンジたちにやってほしいと思う」
夫の言葉に、義両親の顔色は一変しました。まさか、そんな提案をされるとは思っていなかったのでしょう。特に義母は、ショックを受けたように言葉を失っていました。
「そんなこと……」
義父が何か言おうとしましたが、言葉になりません。夫は続けました。
「俺たちだって、父さんと母さんといい関係のままでいたいんだ。でも、今の状況では俺たちもケンジたちと金銭トラブルを起こしてしまうと思う。」
夫の言葉は、義両親の心に深く響いたようでした。私たちは、義両親がこの問題に真剣に向き合ってくれることを願うばかりでした。
「ありがとう、考えてみるわね」
義母は夫にそう伝えましたが、それ以上の言葉はありません。私たちは義両親の決断を待つことになりました ※2
冷静に、夫婦の思いを伝えた
牧野さん夫婦は、数年後に夫の両親と同居をする予定。ですが、これからも弟一家に金銭的な援助を続けるようであれば、「同居はできない」と、はっきりと告げます。
すると、夫の両親はハッとしたのでしょう。何も言ってきませんでした。そして、この日は結論が出ず、持ち越しに。日を改め、再び夫の両親と向き合います。
夫の両親が出した答えに、安堵
義両親との話し合いから数日後、義両親から連絡があり、もう一度話し合いの場が設けられました。今回は、義父が中心になって話を進めてくれました。
「先日の話、夫婦でよく話し合った。お前たちの言っていることは、もっともだと思ったよ」
義父の言葉に、夫も私もホッとしました。
「確かに、あのままでは、ユウイチ(夫)と花さんに負担をかけすぎることになる。それに、ケンジとメグミさんの金銭感覚を改めさせないと、この先も同じことの繰り返しになると思う」
義父は、弟夫婦の現状についても、私たち以上に深く理解していたようでした。そして、義父は静かに、しかし明確に伝えました。
「今後、ケンジ一家への金銭援助は打ち切る。生活の立て直しは、自分たちでやるように、強く言い聞かせるよ」
義母も、少し寂しそうな表情をしながらも、義父の言葉にうなずいていました。きっと、心を鬼にするような決断だったのでしょう。
「そして同居の件は、ユウイチたちにお願いしたい。これは父さん、母さん両方からのお願いだ」
義父は、そう言ってくれました。私達の訴えが、しっかりと義両親に届いたのだと、心から安堵しました。実際、私たち夫婦が同居し、義両親を支えたいという思いには変わりありませんでした。 ※3
夫の父は「弟一家への金銭援助はしない」と、きっぱりと宣言してくれました。ホッとしましたね。
義弟の妻は、元シングルマザーで2人の連れ子がいる状態での再婚でした。さらに、現在は妊娠中。これから生まれる子どものためにも、弟夫婦は力を合わせて、生活していってほしいですね。
久しぶりに会った義弟の妻。その後の変化は?
この話し合いから約1か月後、ご近所からいただいた野菜をおすそ分けしようと義実家に出向くと、弟嫁と鉢合わせしました。メグミさんに会うのは久しぶりです。妊娠中で体が重そうでしたが、義実家の掃除を手伝っているようでした。外で洗濯物をしていた義母に声をかけると、弟嫁の変化についてこっそり教えてくれました。
「あれからまた、お金を貸してと言われたんだけどね…『もうお金は貸せないよ、あなたの家庭とは別世帯だからね』とはっきり言ったの。ドキドキしたわ…。でも、そうしたら『わかりました』って。これまで、私が顔色をうかがいすぎていたのかもしれないわね」
義母は義弟が結婚したことがうれしくて、弟嫁に強く出られなかったのかもしれません。
「ケンジにもね、お父さんがきつく言ってくれたのよ。ケンジもわが子が生まれるのは楽しみみたいで、今は仕事を増やしているんですって。そのための子どもの預かりくらいは助けようと思ってるのよ」
義母は笑顔でそう言いました。帰り際、野菜を少しメグミさんに分けに行きました。するとメグミさんが質問してきました。
「すみません、私あまり作り置きとかしたことなくて…おすすめのレシピとかありますか?」
少し話してみたら、今は食費を浮かせるために作り置きを始めたんだそう。
「今さら主婦らしいことをしようとしても、世間知らずで恥ずかしいです…。赤ちゃんも生まれるし、これからはちゃんとしようと思います」
ケンジさんと改めて話し合って、今後のことを考えているというメグミさん。まだまだ長い目で見て大丈夫か不安ではありますが、応援したいと思う姿でした。 ※4
義実家から、「お金の援助はしない」と告げられ、義弟夫婦はようやく気づいたのでしょう。新しい一歩を踏み出したようで、一安心しました。
本作では、金遣いが荒く、子育てにも無関心な妻と結婚した義弟と、そのまわりの家族の様子が描かれています。夫の実家のこととはいえ、将来同居を考えている間柄だったため、お金のことを言わざるを得ませんでした。
家族といっても、お金の話はしづらいもの。ですが、牧野さんの夫は妻である花さんの意見を尊重し、自分の両親に冷静に・きっぱりと、厳しい現実をつきつけます。その結果、いい方向へ進みそうで、本当によかったですね。きちんと話し合うこと、本当に大切ですね。
※このお話はママリに寄せられた体験談をもとに、個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています。










