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「その女を呼び出して。慰謝料請求するから!」
そう告げ、私は舞子を呼び出した。直接話すのは、初めてのこと。どんな女性なのか、どんな謝罪の言葉があるのか、ほんの少しの期待と、拭いきれない憎しみが胸の内で渦巻いていた。しかし、舞子は私の想像をはるかに超える冷静さだった。
「はい、基樹さんとはお付き合いしています。結婚されているのは知っていましたよ」
彼女は淡々と、まるで天気の話でもするように言い放った。
「彼との将来は『穂希ちゃんの子育てを全うしたら考える』という約束をしていましたので。今すぐ離婚してほしいだなんて思ってません。すぐに再婚したい気持ちは、私にもありませんから安心してくださいね」
その言葉に、私の頭は真っ白になった。まるで、私が知らない間に、私の人生が勝手に決められていたような、そんな理不尽さ。「安心して」と不倫相手に言われるなんて、私はどれだけバカにされているんだろう。 ※1
当事者のはずなのに…蚊帳の外
相手の女・舞子から、謝罪の言葉は一切ありません。既婚者で、子どもがいることも知っていました。さらに、離婚については、子どもが成長したら考えると言います。ゆうかの知らないところで、将来が勝手に決められていたのです…。
あまりにも図太い態度に、怒りがこみ上げてきます。
慰謝料請求も「ノーダメージ」
慰謝料の話になると、彼女はため息をつきながらこう言ったのだ。
「慰謝料ですか?別に構いませんよ。あなたの請求した額よりも上乗せして、離婚しようがしまいが一括で払いますから」
こちらが提示した額よりも多い金額を、一括で?その言葉は、まるで「私には痛くも痒くもない」と言われているようだった。私がどんなに怒り、どんなに苦しんでいるかなんて、まるで響いていない。彼女の冷酷なまでに落ち着いた態度に、私の腹の底から怒りが込み上げてくる。
そして何より夫の基樹が何も言わない様子が、無言でいながら舞子側の人間だというのが伝わってきてつらかった。
私は、一体何のために生きているんだろう。家に戻れば穂希がいるから、私はなんとか立っていられるけれど、この惨めさから抜け出す術が、どこにも見つからない――。私はその日、どうやって家に帰ったかも思い出せないほど、憔悴して帰宅した。 ※2
慰謝料の話になっても、不倫相手の女は動じません。さらに、夫・基樹の態度も信じられません。2人とも、罪悪感は抱かないのでしょうか?
不倫をされたうえに、ここまでバカにされた態度を取られたら…。誰だって傷つきますよね。ゆうかにとって、唯一の救いは娘・穂希(ほまれ)です。
やり切れない思いを抱えながら過ごしていたある日、偶然、夫の上司・日下部さんと会います。当初、夫の不倫のことを言うつもりはありませんでした。ですが、家庭の話を振られた途端、ゆうかは涙をこらえきれなくなったのです。異変を察知した日下部さんは、静かにゆうかの話に耳を傾けます。そして…。
意外な人物がサレ妻の味方に!
「それは…まったく知りませんでした。本当につらかったですね…。ゆうかさんと穂希ちゃんが心配です…」
彼は心からそう言ってくれた。そして、少し間を置いて、自身の過去を語り始めた。
「実は、僕の父も昔、不倫で離婚したんです。母がどれほど苦労したかを間近で見てきましたから…」
「基樹、本当になにやってんですかね。同じ男としても信じられない行動だと思います」
彼の言葉に、私は救われたような気がした。私と同じような経験を持つ日下部さんは、私のことを心から案じてくれているのだと感じた。
「僕はその舞子という女性とは直接関わりがないですが、SNSで話題のインフルエンサーが社内にいるというのは聞いたことがあります。その人がまさか基樹と…」
会社の中でも有名な人物だったなんて。それほどの女性だからこそ、あんなに余裕のある態度がとれたのだろう。
何も制裁できない事実は変わらず、つらい気持ちは癒えない。でもこの日、日下部さんの温かい言葉と、私を案じる気持ちが、私に少しだけ前を向く勇気をくれた気がした。 ※3
偶然だったものの、夫の上司が話を聞いてくれ、寄り添ってくれました。一人でも、共感して心配してくれる人がいると、救われるものです。
このあと、ゆうかは日下部さんのおかげで、一歩踏み出そうと決意。夫に離婚を切り出し、慰謝料と養育費を請求。インフルエンサーの不倫女は宣言どおり、多めの金額を支払います。
裏切者から解放され、娘・穂希ちゃんと、新たな一歩を踏み出した ゆうか。一時は、自尊心を傷つけられ、自分の存在価値すら見いだせない時期がありました。
娘のために立ち直り、幸せになるために再スタートを切ったゆうか。母として、女性として成長する主人公の姿から、勇気をもらえる作品です。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










