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🔴【第1話から読む】気のせいにした小さな違和感|封筒貯金が消えた話
見守りカメラの映像から封筒貯金を抜き取っていた犯人が夫・健太だと判明した。
深夜に二人が向き合い、健太が行為を認める。
恵は感情的にならず、今後の夫婦としての在り方を選び取っていく。
冷静に証拠を突きつけた夜
娘の莉子を寝かしつけたあと、家の中は深夜特有の静けさに包まれていた。
寝室のドアをそっと閉め、恵はリビングのダイニングテーブルに向かう。
時計の針は、深夜一時を回っている。
「……健太、少し話そう」
その声に、夫は何かを察したように動きを止めた。
テレビを消し、無言で椅子に腰掛ける。
向かい合って座る二人の間には、重たい空気が流れていた。
恵は深く息を吸い、スマートフォンをテーブルの上に置く。
「これ、見て」
画面を操作し、保存していた動画を再生する。
無音の映像の中で、健太が封筒貯金の引き出しを開け、迷いなく紙幣を抜き取る姿が映し出された。
数秒。健太の顔色が、みるみる変わっていく。
「……え、これは……」
恵は、目を逸らさなかった。
「見守りカメラ。封筒貯金が減る理由、確かめたくて設置したの」
健太は、言葉を失ったまま画面を見つめている。
焦り、動揺、そして──逃げ場を失った表情。
「……違う、これは……」
「言い訳しなくていい」
恵の声は、驚くほど落ち着いていた。怒鳴る気にも、泣く気にもなれなかった。
ここまで来ると、感情よりも「事実」を整理する方が先だった。
出来心という名の裏切り
「何回?」
短く、核心だけを問う。健太は、俯いたまま黙り込む。
沈黙が、答えだった。
「……ごめん」
か細い声で、夫が口を開いた。
「最初は、本当に一回だけのつもりだったんだ」
恵は、黙って聞く。
「小遣いが足りなくて……仕事の付き合いとか、昼飯とか……足りないって言えなくて」
言葉は、途切れ途切れだった。
「封筒に手を出したら、意外と簡単で……少額なら、バレないと思った」
出来心。その言葉が、頭の中で反響する。
「気づいた時には、もう何度もやってた。やめなきゃって思ってたのに……」
健太は、頭を抱えた。
「恵が気づいてるって分かった時、正直……怖かった」
恵は、静かに問いかける。
「警察の話をした時、どうしてあんな電話をしてきたの?」
健太は、苦しそうに答えた。
「……誤魔化したかった。もし本気で調べられたら、終わるって思って」
恵は、目を閉じた。
(やっぱり)
疑っていたことが、すべて繋がる。
封筒貯金が減ったこと以上に、胸に残ったのは──裏切られたという事実だった。
信頼できない現実と向き合う
「ねえ、健太」
ゆっくりと、言葉を選ぶ。
「あなたが困ってたなら、相談してほしかった。お金のことだって、一緒に考えられた」
健太は、何も言えない。
「でも、黙って盗む選択をしたのは、あなた」
その言葉に、健太の肩が小さく震えた。
しばらくの沈黙のあと、恵は続ける。
「今回のことで、離婚とか、どうこうするつもりはない」
健太が、驚いたように顔を上げる。
「……でも、信頼は確実に傷ついた」
恵は、はっきりと言った。
「だから、これからは対策を取る」
その夜、二人は具体的な話をした。
健太の小遣いを、ほんの少しだけ増やすこと。
使途不明にならないよう、家計の見える化を進めること。
封筒貯金の場所を変え、恵のみが把握・管理すること。
「信用は……もう、ないってことだよな……」
健太が呟く。恵は、否定も肯定もしなかった。
「信用は、壊れたら戻すのに時間がかかるものだから」
それだけを、伝えた。
翌日から、生活は表面上、元に戻ったように見えた。
莉子は変わらず笑い、健太も普段通り仕事へ向かう。
けれど、恵の中では、確実に何かが変わっていた。
──万が一に備える。
それは、疑うことではなく、守ること。
自分と、娘の生活を守るための選択だった。
封筒貯金は、場所を変えた。
帳簿は、つけ続けている。
そして何より、「曖昧にしない」という姿勢を、恵は手放さなかった。
夜、眠る莉子の寝顔を見つめながら、恵は思う。
家族だからこそ、信じるだけでは足りない時もある。
見ないふりをしないこと。向き合うこと。
それが、家族を続けるために必要な覚悟なのだと。
封筒貯金が消えた出来事は、恵にその現実を、静かに突きつけていた。
あとがき:信じることと、守ることは違う
恵が選んだのは「許す」でも「なかったことにする」でもなく、
信頼が壊れた事実を受け入れた上で、生活を守る道でした。
家族だからこそ、信じるだけでは足りない時がある。
向き合い、曖昧にしないこと。この物語は、封筒貯金の話でありながら、
多くの家庭に潜む“見ないふり”への問いでもあります。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています
イラスト:まい子はん










