32歳の朱莉は、子煩悩で優しい夫・一成と娘に囲まれ幸せな日々を送る。しかし、出産から続くセックスレスに密かな虚しさを抱えていた。そんな折、親友の香苗から「好きな人ができた」と衝撃の告白を受けて―――。
幸せな家庭の裏側にある影
「ねえ、朱莉。最近どう? ご主人と」
カフェのテラス席。目の前でパスタを巻く親友の香苗(かなえ)が、ふとした様子で聞いてきた。 私は32歳。夫の一成(かずなり)と、3歳になる娘のかえでと3人で暮らしている。 性格はどちらかといえば慎重派。石橋を叩いて壊すほどではないけれど、平穏な日常を何よりも大切にしたいタイプだ。
「どうって……普通かな~。一成は子煩悩だし、家事も完璧じゃないけどまあまあ手伝ってくれるし…」
嘘ではない。一成は優しい。仕事から帰ればかえでを真っ先にお風呂に入れてくれるし、私に対しても「お疲れ様」と声をかけてくれる。 いってきますのキスも、寝る前のハグも、休日に手をつなぐこともある。
けれど――。
夫婦関係の有無がお互いの悩み
「……でも、男女としてはどうだろうな。“そういうの”はもう最後がいつだったか…」
ポロッとこぼれた本音に、香苗も反応したように見えた。 私たちはいわゆる「セックスレス」だ。かえでが生まれてから、一度も肌を重ねていない。 拒絶されているわけではないけれど、そういう雰囲気にならないのだ。
「やっぱり。朱莉のところもそうなんだ」
香苗がため息をつく。彼女は私と同じ32歳。結婚して5年、2人の子どもがいる。
「うちはキスもハグもなしだよ…朱莉のところは?」
「うーん、うちはキスとハグくらいはあるかな…手をつないだりとか、そのくらいだけど」
「そうなんだ、いいなあ…、うちはこの間なんて手を繋ごうとしたら『暑い』って振り払われたんだよ」
「それはショックだね…」
「うん…私、家政婦なのかなって思っちゃったよ」
冗談めいた言い方をしつつも、香苗の声は震えていた。彼女の夫は普通の会社員で一見すると優しそうだけれど、香苗のこういう思いには気づいていないのだろうか。
友人の突然の告白に驚きを隠せない
「それでね、私、もう限界だったの」
香苗はそう言って、冷めたコーヒーを一気に飲み干した。 その時の彼女の瞳に宿っていたのは、悲しみではなく、どこか開き直ったような、危うい光だった。
「……朱莉に聞いてほしいんだけど、私、好きな人ができたんだ」
窓の外では、幸せそうな家族連れが通り過ぎていく。 その明るい景色と、香苗が放った不穏な言葉のコントラストに、私は心臓が跳ねるのを感じた―――。
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あとがき:「愛の形」に潜む落とし穴
「優しくていいパパだけど、女性としては見られていない」。そんな贅沢な悩みと一蹴されそうな孤独は、実は多くの女性の心を蝕んでいます。朱莉と香苗、同じ32歳の二人が直面する「親になりすぎてしまった」という寂しさの正体は何なのか。
第1話では、平穏な日常のすぐ隣に空いた、深い穴の存在を描きました。触れ合うことはできても心が満たされない。その微かな違和感が、物語の大きな火種となっていきます。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










