ヤンキー同士ながらも熱烈に愛し合い結婚を果たした優子。可愛い息子まで生まれます。しかし夫は次第に仕事のストレスで荒れていってしまい…。
熱烈な恋とプロポーズ
夜の国道を流れる大型トラックの排気音。それが、私の日常のBGMでした。
私と浩介は、この地元の狭いコミュニティの中では少しだけ名の知れた「元ヤン」カップルです。上下関係が絶対の暴走族上がりの浩介は、2歳年上の頼れる先輩。特攻服を脱いで作業着に着替えた後も、その鋭い眼光と筋の通った物言いは変わりませんでした。
「優子、お前は俺の隣にいろ。一生守ってやるからよ」
そんな古臭いプロポーズを真に受けて、20代そこそこで結婚。周囲には散々迷惑をかけてきた自覚はあります。深夜のコンビニでのたむろ、爆音を響かせるバイク。けれど、私たちなりに「筋」を通して生きてきたつもりでした。
結婚して一年が過ぎた頃、新しい命を授かりました。名前は優太。浩介が私の「優」の響きがいいから、と決めてくれたとても誇らしい名前です。
優太が生まれてから、世界の色が変わりました。
浩介は不器用ながらも、大きな手で恐る恐るおむつを替え、私はもう亡き母親がそうしてくれたように、ミルクの温度を自分の手首で確かめる日々。
「俺、あいつのために真面目に働くわ」
そう言って浩介は、地元の運送会社で長距離トラックのハンドルを握るようになりました。数日家を空けることもザラでしたが、帰宅した時の彼はいつも、泥のように疲れ果てていながらも、優太の寝顔を見ては優しく微笑んでいました。
けれど、現実は甘くありません。
慣れない育児、孤独な夜、そして慢性的な睡眠不足。20代の私にとって、社会から切り離されたような感覚は少しずつ、毒のように心を蝕んでいきました。
浩介もまた、職場の厳しい上下関係や長時間の運転による過労で、かつての尖った神経をさらに研ぎ澄ませていました。
優太が1歳を迎えた、蒸し暑い夏の日のことです。
その日の私は、朝から優太の夜泣きで頭が割れるように痛く、台所に立つのも精一杯でした。夕飯の準備。冷蔵庫にあった野菜を適当に切り、サラダを作りました。
そこに、彩りとして真っ赤なトマトを添えたのです。
本当は、分かっていました。
トマト好きな私と違い、浩介がトマトを蛇蝎のごとく嫌っていることを。
けれど、朦朧とする意識の中で「健康にいいから」という建前と「一気に使いたいんだからこれくらい我慢してよ」という甘えが混ざり合い、私の判断を狂わせました。
喧嘩してもちゃんと仲直りできるから…
帰宅した浩介の顔は、一目で分かるほど疲弊していました。
「……おい。これ、なんだよ」
食卓についた浩介の声が、低く地を這いました。
「え? サラダだけど」
「トマト、入ってんじゃねえか。俺が嫌いなの知ってんだろ」
「あ……ごめん、うっかりしてて。でも体にいいし、ちょっとくらい……」
「ふざけんな!」
ガシャン、と派手な音が響きました。
浩介が立ち上がり、食卓を蹴り上げたのです。皿が割れ、赤いトマトが床に散らばりました。
「仕事でクタクタになって帰ってきて、なんでお前の嫌がらせに付き合わなきゃならねえんだよ!」
「嫌がらせじゃないわよ! ちょっとくらい我慢して食べればいいじゃない!」
私も応戦しました。売り言葉に買い言葉。かつての喧嘩っ早さが顔を出します。
掴み合いになり、突き飛ばされた私の頭が柱の角に激突しました。
温かい液体が視界を塞ぎました。血でした。
泣き叫ぶ優太の声。目の前で肩で息をする、鬼のような形相の夫。
(このままじゃ、殺されるかもしれない)
その恐怖が、私にスマホを握らせました。
「警察ですか、助けてください!」
駆けつけた警察官、救急車のサイレン。
私は病院で頭を3針縫いました。真っ白な包帯を巻かれた鏡の中の自分を見て、情けなくて涙が止まりませんでした。
浩介は警察で事情聴取を受け、こっぴどく絞られたようです。
翌朝、腫れぼったい目をした彼が帰宅しました。
「……悪かった、優子。俺、どうかしてた」
「私も、ごめん。あなたが嫌いなの分かってたのに」
お互いにボロボロになりながら、私たちは泣いて抱き合いました。
「もう2度としない」「次は絶対にない」
そう誓い合って、私たちはまた「普通」の家族に戻ったつもりでいました。
けれど、その時の私たちはまだ気づいていなかったのです。
一度ついた「火種」は、消えたように見えても、心の奥底で燻り続けているということに。
あとがき:親としてはまだ成長途中?
生まれ持った性格はなかなか直らないもの…という内容でしたね。しかし子どもが生まれた今、二人はこのままで大丈夫なのでしょうか?
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










