喧嘩と仲直りを繰り返しながらも、幸せな生活を送っていた優子と浩介。しかし二人の喧嘩は、やがて優太の前でも行われるように…。
すくすく育つ息子、荒れる夫
月日は流れ、優太は四歳になりました。
わんぱくで、浩介に似て少し気が強いけれど、笑顔の絶えない優しい子に育っていました。
「パパ、おかえり! トラックかっこいいね!」
玄関まで走っていく優太の姿は、私たちの癒やしそのものでした。
しかし、浩介の職場環境は悪化の一途を辿っていました。
運送業界の荒波の中で、元ヤンキーという経歴は、時に「都合のいい攻撃材料」になります。
「おい、元ヤンなら根性あんだろう? このシフトも代われよ」
「そんな顔して、裏じゃ悪いことしてんじゃねえのか?」
陰湿な嫌がらせや、理不尽な仕事の押し付け。
かつての浩介なら、その場で殴り飛ばしていたかもしれません。けれど、彼には守るべき家庭があります。彼は必死に耐えていました。そのストレスが、少しずつ、少しずつ、家の中の空気を重くしていることに、私は薄々気づいていました。
事件が起きたのは、雨の降る火曜日の夜でした。
浩介が、これまで見たこともないような荒れ方で帰宅したのです。服は汚れ、拳は赤く腫れていました。
「全部あいつらが悪いんだ!」
聞けば、ついに堪忍袋の緒が切れた浩介が、自分を馬鹿にした先輩数人を相手に大立ち回りを演じたというのです。
「数人に怪我をさせた」という言葉を聞いた瞬間、私の血の気が引きました。
「なんてことしたのよ、浩介! 仕事どうすんの、クビになるわよ!? 警察に捕まったらどうするのよ!」
「うるせえ! 俺がどれだけ我慢してきたか、お前に分かんのかよ!」
「分かってるわよ! でも、暴力はダメでしょ! 優太だっているのに!」
「分かったような口叩くな!」
浩介の手が、近くにあった花瓶をなぎ倒しました。
優太が震えながら、部屋の隅で耳を塞いで泣き始めました。
「パパ、やめて……ママ、怖いよぉ……」
その声すら、今の浩介の耳には届きません。
そこからは、泥沼でした。
叩かれれば叩き返し、罵られれば罵り返す。
元ヤンキー同士の喧嘩は、加減を知りません。壁に穴が開き、家具が倒れる大きな音。そして私たちの怒号。
密閉されたアパートの部屋に、暴力の嵐が吹き荒れました。
夫婦喧嘩の代償
しばらくして、激しいノックの音が響きました。
「警察です! 開けてください!」
通報したのは、隣の部屋の住人でした。以前から私たちの諍いを不審に思っていたのでしょう。
なだれ込んできた警察官たちに、私と浩介は引き離されました。
優太は、震えが止まらないまま、女性警官に抱きかかえられていました。
その光景を見て、私はようやく、自分が何をしでかしたのかを理解しました。
警察の事情聴取は深夜まで及びました。
そして、そこに現れたのが、児童相談所の職員でした。
四十代くらいの、冷徹とも取れるほど落ち着いた眼差しを持った女性。彼女は、私と浩介を真っ直ぐに見据えて言いました。
「……子どもの前で激しい夫婦喧嘩をすること。それは『面前DV』と言って、立派な児童虐待にあたります」
「ぎゃ、虐待……? 私たちは、ただの夫婦喧嘩で……」
私の声が震えました。
「お子さんの心の傷は、身体的な暴力と同じか、それ以上に深いものです。今のあなたたちに、お子さんを健やかに育てる環境があるとは思えません。……優太くんは、本日より児童相談所で一時保護します」
「おい、待てよ!」
浩介が叫びましたが、警察官に抑え込まれました。
「ママ……パパ……!」
泣きじゃくる優太が、職員に連れられて夜の闇に消えていく。
その背中を見送ることしかできなかった私は、その場に崩れ落ちました。
幸せだったはずの日常が、一瞬にして崩壊した瞬間でした。
私たちは、親として失格の烙印を押されたのです。
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あとがき:悲しいけれど当然の展開
まるで子どもと引き離された悲劇…のようにも見えますが、原因を改めて考える必要がありそうですね。二人はそのことに気づけるのでしょうか?
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










