「秋乃おばちゃん、聞こえてる!? お母さんは昨日だって、みんなのためにルート確認して、夜おそくまで準備してたんだ。それを、お荷物だなんて……そんなこと言うおばちゃんの方が最低だ!」
「は…はあ?桃太くん?だれに向かってそんな口……」
「チームの仲間なのに…病気の人をいたわるのが、あたり前なんじゃないの? ぼくは野球が大好きだけど…お母さんをいじめるような人がいるチームなんてやめてやる! お母さんをくるしめるくらいなら、野球なんてやらなくていい!」
桃太は一方的に通話を切ると、私のスマホをフトンの上に投げ出した。そして、私にしがみついて言いました。
「お母さん…もういいよ。ぼく、気づいてたよ。お母さんが秋乃おばちゃんにムリやり、いろんなことをやらされてるの。ぼくのせいで、お母さんが病気になっちゃうのはイヤだよ。もう、ムリしなくていいから……」 ※1
小さなヒーローに救われた日
土曜日の朝、高熱で起き上がることができない春子。そこへ、秋乃から怒りの電話がかかってきたのです。体調不良だと訴えても「自己管理不足」「無能」と罵声を浴びせられたのです…。
息子は、その会話が聞こえていたのでしょう。電話を奪うと思いの丈を秋乃にぶつけ、母を守ったのです。
息子の真っ直ぐな言葉
桃太の小さな肩がふるえている。私は彼を力のかぎり抱きしめた。
「守るべき対象」だと思っていた息子が、いつの間にか、こんなに強く優しく成長していた。
情けなさと、誇らしさと…そして、積年のうらみが溶け出すような解放感で、私は桃太と一緒に声を上げて泣いた。
その後、桃太は私のスマホを使い、野球チームのグループLINEではなく、個人的に仲の良かったチームメート数人に、ボイスメッセージを録音しておくった。
「お母さんが高熱でたおれたのに、秋乃おばちゃんにひどいことを言われた。ぼくはもう、このチームにはいたくない。みんな、今まで一緒に野球ができてたのしかったよ。バイバイ」
その率直なメッセージは、瞬く間に保護者たちの間に転送され、広がっていった。
桃太の純粋な怒りは、秋乃さんの暴政に耐えていた他の保護者たちの心を、はげしくゆさぶったのだった。 ※2
小学生の男の子に、ここまで言わせてしまうほど、スポ少の保護者の体制は腐りきっていたようです。桃太くんの言葉で、ようやく大人たちは自分がしてきたことに気づき始めます。
そして、スポ少は次第に崩壊していったのです…。
かつての名門チームの終わり
それから一か月後。私たちは、正式に「ライジング・スターズ」を退団した。
おどろいたことに、あの日を境にチーム内では、かつてない「反乱」が起きたそうだ。
桃太のメッセージを聞いた保護者たちが、「子どもにあそこまで言わせるなんて」「秋乃さんは異常」「自分の子どもに、あんな風にだれかを傷つける大人になってほしくない」と、次々に声を上げ始めたという。
秋乃さんに媚を売っていたママたちも、世間の目と批判をおそれ、一斉に彼女からはなれていった。
孤立した秋乃さんは、「次期会長」の座を辞退せざるを得なくなり、コーチもまた「指導力不足」を問われ、チームの立て直しを迫られたそうだ。
退団者は今も増えつづけ、かつての「名門チーム」は風前の灯火だという。
けれど、今の私にとって、それはもうとおい世界のできごとだった。 ※3
本来であれば、スポ少は子どもの健全な育成を目的としているはずです。それなのに、保護者同士の関係がドロドロしていたら…。悪影響を及ぼすのは、当然ですね。
なぜ、秋乃のような女王気質の人が生まれ、スポ少を牛耳っていたのかは謎です。しかし、体制に問題があったことは間違いなさそうです。
その後、桃太くんは別のサッカークラブに入り、楽しくスポーツを続けているそうです。自分と子どもを守るために、合わないと感じたら、ときには辞める勇気を持つことも必要ですね。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










