凍結胚移植とは
凍結胚移植とは、採卵した卵子と精子を受精させて凍結し、次の周期以降に合わせて受精卵を融解してから子宮に戻すという方法です。
採卵した周期は、誘発剤などの影響によって受精卵を移植させてもうまく着床しない場合が多く、次の周期に移植できるように凍結させます。
凍結することで、自分に合ったタイミングで胚移植をすることができます。また、1回でいくつか採卵ができた場合は、何度も採卵を行うことなく胚移植することができるため、体の負担を減らして体外受精を続けることが可能です。
ただし凍結、融解のときに胚の質が低下することがあるため、採卵した周期で胚の状態がよかった場合は、新鮮胚移植した方が妊娠の可能性が上がることもあります。
新鮮胚移植との違い
胚移植には、凍結胚移植と新鮮胚移植の2種類があります。新鮮胚移植は、採卵してから数日以内に受精させた新鮮胚を移植する方法です。
新鮮胚移植の場合、胚を凍結、融解する工程が省かれるため胚にかかる負担は少なくなります。しかし採卵した周期に子宮へ新鮮胚を移植するため、採卵時に使用した誘発剤の影響などにより着床しづらくなる可能性があります。
- 浅田義正、河合蘭(著)「不妊治療を考えたら読む本」P208~210(講談社,2016年)
- 高橋敬一(著)「専門医が答える不妊治療Q&A」P122~123(幻冬舎メディアコンサルティング,2017年)
- はらメディカルクリニック「移植」(https://www.haramedical.or.jp/content/vitro/000090-2,2018年6月22日最終閲覧)
- セントマザー産婦人科医院「不妊症の治療方法」(https://www.stmother.com/treatment/treatment7/,2018年6月22日最終閲覧)
- 六本木レディースクリニック「体外受精の凍結胚移植って何?」(https://www.sbc-ladies.com/column/taigaijyusei/208.html,2018年6月22日最終閲覧)
凍結胚移植による妊娠成功率
胚移植による1回あたりの妊娠率は約20~40%で、その中でも凍結胚移植では約33.5%、新鮮胚移植では約23%です。妊娠率は胚移植をする際の子宮の状態などにより多少の変動はありますが、移植する胚の数や移植を受ける女性の年齢が妊娠率に影響を与えるとされています。
また、移植する胚の数を増やすことによって妊娠率が上がりますが、その分多胎妊娠の可能性も増加する可能性も考えられます。そのため、移植を受ける女性の年齢や、胚のグレードなどによって移植する個数を制限する場合があります。
胚のグレードと妊娠率の関係
凍結の対象となる胚は、受精後3日以内のものです。その中でも、凍結の負荷に耐えられるものだけが凍結胚として保存されます。
胚の質はグレード1から5までの5段階で分けられ、きれいに細胞分裂ができているものがグレード1の胚として最も良質とされます。グレード2以降は、胚の中に細かな粒のように見える細胞の断片(フラグメント)の量が多くなり、きれいに細胞分裂せず不均等になります。
グレードによる妊娠率は、グレード1が最も高くグレード2、3となるにつれて徐々に妊娠率が下がっていきます。グレード4、5での妊娠はまれです。
- 高橋敬一(著)「専門医が答える不妊治療Q&A」P122、132(幻冬舎メディアコンサルティング,2017年)
- よつばウィメンズクリニック「不妊治療」(http://www.yotsuba-w.jp/service/sterility/vitro/transplantation.php,2018年6月22日最終閲覧)
- 絹谷産婦人科「体外受精Q&A」(http://www.kinutani.org/faq/faq2.php,2018年6月22日最終閲覧)
- 六本木レディースクリニック「体外受精の冷凍胚移植の妊娠率はどのくらい?」(https://www.sbc-ladies.com/column/taigaijyusei/1432.html,2018年6月22日最終閲覧)
- 日本生殖医学会「ガイドライン」(http://www.jsrm.or.jp/guideline-statem/guideline_2007_01.html,2018年7月13日最終閲覧)
凍結胚移植の方法
凍結胚移植をする場合、凍結胚があればいつでも移植してよいというわけではなく排卵日に合わせて移植をする必要があります。凍結胚移植には以下の2種類の方法があります。
自然周期
自然周期での凍結胚移植は、ホルモン治療などを行わずに、自然の生理周期に合わせて移植する方法です。自然周期での凍結胚移植は、月経周期が安定しており排卵日を予測できることが条件です。
胚移植を行った後、子宮内膜が薄く黄体ホルモン(プロゲステロン)の値が低いようであれば、受精卵の着床を助けるためにホルモン剤を処方される場合もあります。
ホルモン補充周期
ホルモン補充周期での凍結胚移植は、卵胞ホルモンと黄体ホルモンをコントロールして子宮内膜を育てたのちに胚を移植する方法です。
月経周期が乱れやすく不安定な方は、子宮内膜が十分に育たない可能性があるため、ホルモン補充周期での凍結胚移植の方法を用いる場合が多いでしょう。
ホルモン補充周期は、2種類の薬を服用することによって乱れた月経周期を整えるカウフマン療法や、ピルを服用してホルモンのコントロールをするホルモン療法によって、胚移植のスケジュールも立てやすくなります。
- 高橋敬一(著)「専門医が答える不妊治療Q&A」P126~128(幻冬舎メディアコンサルティング,2017年)
- セントマザー産婦人科医院「不妊症の治療方法」(https://www.stmother.com/treatment/treatment7/,2018年6月22日最終閲覧)
- オーク会「不妊治療」(http://www.oakclinic-group.com/funin/ss_yukai.html,2018年7月6日最終閲覧)
凍結胚移植で使用する胚の凍結方法
胚の凍結には、受精卵のすべてを凍結する「全胚凍結」と胚移植をした後に余った胚を凍結する「余剰胚凍結」の2パターンがあります。
全胚凍結
全胚凍結は、採卵周期に移植しても子宮内膜に着床し妊娠が成立する可能性が低いと判断された場合に行われます。排卵誘発剤の使用によって卵胞が刺激され、卵巣が腫れてしまう卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を発症している場合も全胚凍結をすることになります。
その他、病院の治療方針によって採卵前から全胚凍結が決まっている場合もあります。
余剰胚凍結
余剰胚凍結は、移植予定の胚以外にも質のよい胚がいくつかあり、そのまま廃棄してしまうにはもったいないと判断された場合に行われます。
もし移植した分で妊娠、出産ができても、第二子の治療を始めるときに残っている余剰胚凍結の分から移植していくことが可能です。
- 六本木レディースクリニック「体外受精の冷凍胚移植の妊娠率はどのくらい?」(https://www.sbc-ladies.com/column/taigaijyusei/1432.html,2018年6月22日最終閲覧)
- セントマザー産婦人科医院「不妊症の治療方法」(https://www.stmother.com/treatment/treatment7/,2018年6月22日最終閲覧)
凍結胚移植にかかる費用
凍結胚移植を含めて、採卵から胚移植までにかかる費用は主に下記の通りです。あくまで目安ですので、実際の費用は通院している病院で確認しましょう。
- 体外受精(採卵~妊娠判定まで):約300,000円
- 全胚凍結:約200,000円
- 余剰胚凍結:約5,000~30,000円
- 凍結胚移植:約100,000~200,000円
採卵や胚移植を含む体外受精の他に、全胚凍結や余剰胚凍結など行う場合は別途料金が必要です。
- 日本産科婦人科学会「生殖補助医療(assisted reproductive technology:ART)の実際」(http://www.jsog.or.jp/to_medics/miryoku/miryoku04.html,2018年6月22日最終閲覧)
- リプロダクションクリニック東京「料金について」(https://www.d-w-c.jp/treatment/fee/fertilization.php,2018年6月28日最終閲覧)
- 銀座こうのとりレディースクリニック「費用について」(http://ginzakounotori.com/cost/,2018年6月28日最終閲覧)
凍結胚移植から妊娠判定日までのスケジュール
胚移植をしてから約2週間後に尿検査を受けて妊娠しているかどうかの判定を受けます。
尿検査で陽性となった場合は、血液検査をして妊娠を継続させるためのホルモン(hCGホルモン)値が高ければ妊娠と判断され、その後は自然妊娠したときと同じ経過をたどります。
胚移植後に一時的に基礎体温が下がることがありますが、体温が0.3度以上下がった場合は病院に連絡するように指示されます。
- 六本木レディースクリニック「体外受精の着床後の妊娠判定はどのような方法?」(https://www.sbc-ladies.com/column/taigaijyusei/803.html,2018年6月28日最終閲覧)
- 六本木レディースクリニック「体外受精の移植後の過ごし方は?」(https://www.sbc-ladies.com/column/taigaijyusei/751.html,2018年6月28日最終閲覧)
- 浅田義正、河合蘭(著)「不妊治療を考えたら読む本」P236(講談社,2016年)
- 塩谷雅英(監)「ふたりで取り組む赤ちゃんが欲しい人の本」P182(西東社,2012年)
- 神谷レディースクリニック「治療周期」(https://kamiyaclinic.com/flow/art/term3/,2018年6月28日最終閲覧)
凍結胚移植をするメリットとデメリット
凍結胚移植は、一度の採卵で取れた卵子を凍結することで胚移植を複数回行うことができるため、採卵による体の負担を軽減することが可能です。しかし、胚凍結には高額な費用がかかるなどデメリットがあることも忘れてはいけません。
凍結胚移植を行う場合は、メリットとデメリットをよく理解しておく必要があるでしょう。
メリット
- 余った胚を凍結させて次回以降の周期でも移植できる
- 1回の採卵で移植できる回数が増えるため採卵回数を抑えることができる
- 移植する胚の数をコントロールできるので多胎妊娠を防げる
- 新鮮胚移植よりも妊娠率が高い
凍結胚移植は、胚(受精卵)を凍結保存しておくことができるため、子宮に戻した胚が着床せず妊娠が成立しなかったとしても、次の周期に胚移植から行うことが可能です。
また、子宮内膜の状態が万全ではないときでも移植を中断し治療を優先することができます。
デメリット
- 凍結・融解する胚の数だけ費用がかかる
- 胚を凍結、融解するときに負担がかかりダメージを与えてしまう可能性がある
- 採卵から移植まで1~2ヶ月待つ必要がある
体外受精だけでも費用はかかるので、凍結胚移植となればさらに費用はかさみます。また、胚を凍結、融解する際に胚の質が低下することがあるため、採卵した周期で胚の状態がよかった場合は新鮮胚移植した方がよいこともあります。
メリット・デメリットをよく考慮した上で凍結胚移植を決断しましょう。
- 塩谷雅英(監)「ふたりで取り組む赤ちゃんが欲しい人の本」P177(西東社,2012年)
- セントマザー産婦人科医院「不妊症の治療方法」(https://www.stmother.com/treatment/treatment7/,2018年6月22日最終閲覧)
凍結胚移植を行った方の体験談
凍結胚移植を行ったあと、妊娠判定を行うまでは不安になる方もいるでしょう。凍結胚移植を行ったママの中には何度か移植をチャレンジしたという方もいます。何度行っても妊娠判定日はドキドキしてしまいますよね。凍結胚移植を行ったママたちの体験談をご紹介します。
何度か凍結胚移植を試みて妊娠
ほんと最初は1〜2回で出来ると思っていたので不安でした💦
私がお世話になった病院では2回失敗したら子宮頸管ポリープの検査を勧められるのですが、私は3回失敗してから検査をしてポリープが見つかりその場で除去、
4回目は着床後すぐ流れ、流産手術後5回目の移植でようやく妊娠でき来週には安定期に入ります。
諦めずに頑張ってください!
妊娠するまでには採卵や移植を繰り返し行うことがあります。不安に思うことはあると思いますが、諦めずに治療をしている方が多くいます。
移植後基礎体温が下がったけれど妊娠した
凍結胚移植を行った後に基礎体温が下がってしまうことがあっても妊娠している可能性はあるようです。基礎体温が0.3度以上下がってしまうような場合は、病院に連絡するようにしましょう。
凍結胚移植は体への負担が少ない不妊治療です
凍結胚移植は、胚(受精卵)を一度凍結して融解させた後で子宮内に移植する不妊治療の方法です。新鮮胚移植よりも妊娠率が高く、体への負担も少なくて済みます。
凍結胚移植は、胚を凍結していくことで二人目の妊活の際も胚移植をすることが可能です。ただし、体外受精の費用だけでなく採卵や胚を凍結する費用も必要で治療費が高額になるため、計画的に治療を進めましょう。