障がいがある子供たちの暮らしを豊かにする「子供用車いす」
ケガをした時や病気の時に役立つ車いす。病院や介護施設などで目にすることが多いのではないでしょうか。一方であまり認知されていない車いすも存在します。それは子供用の車いす。生まれつきの障がいや病気、ケガで歩くことが難しい子が利用しているものです。
子供用の車いすは福祉機器の1つであり、歩けない子供たちが外出したり、学校や家庭で過ごしたりするために必要です。特に座ったままの姿勢を保持しにくい子は、車いすに姿勢保持用の工夫を施し、座って移動できるようにしています。こうした工夫のおかげで、車いすがなければ寝たきりになってしまう子も、好きな場所に移動し、さまざまな体験ができるのです。
車いすにはよくある「車いす」のほかに「バギー車」と呼ばれるものがあります。
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●サイズ/幅55.5×長さ95×高さ87.5cm●フレームカラー:イエロー、レッド●車輪サイズ/前輪:5インチ、後輪:20インチ●重量/12.2kg●背折れ仕様●面ファスナー仕様 ・もっと楽しく移動できるように。お...
こちらは病院などでも馴染みがある見た目の車いす。手動タイプで、自分で動かすこともできます。「自走式車いす」と呼ばれます。重量が12㎏程度あり、おでかけ先で持ち上げたりするのは大変です。
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●標準装備 ・3点ベルト付 ・バックサポート角度調整式(90°95°100°) ・ワイドキャスタ付 ●オプション ・日除け ・バッグ ・まくら ■シート幅/ 30cm ■後座高/ 40cm ■バックサポート/ 5...
こちらは「介助型車いす」と呼ばれる車いす。自分で動かすことはできませんが、重量が6㎏程度と軽く、おでかけに便利です。姿勢をより保持しやすいよう、座面の角度や長さを調整する機能がついています。
子供用の介助型車いすは、肢体不自由などの障がい児のほか、てんかん発作や多動・パニック障害などがある子供も利用しています。
頭を支えるのが難しい場合には、オプションでヘッドレストを取り付けることも可能です。見た目はベビーカーのようですが、機能が大きく違うのですね。
- 横浜市総合リハビリテーションセンター 企画研究課 研究開発室研究開発室長 飯島 浩 「子ども向け福祉機器とその選び方」国際福祉機器展(https://www.hcr.or.jp/children/welfare_equipment.pdf,2017年5月23日最終閲覧)
- 横浜市総合リハビリテーションセンター「福祉機器Q&A」横浜市総合リハビリテーションセンター(https://www.hcr.or.jp/children/images/chil_qa_products.pdf,2017年5月23日最終閲覧)
- 国際福祉機器展「プレスリリース」国際福祉機器展(https://www.hcrjapan.org/pdf/press/2015_no3.pdf,2017年5月23日最終閲覧)
- 富山県リハビリテーション病院・こども支援センター「シーティングクリニック」富山県リハビリテーション病院・こども支援センター(http://www.toyama-reha.or.jp/senmon/,2017年5月23日最終閲覧)
- 日本車椅子シーティング協会「シーティングとはどのようなもの?」日本車椅子シーティング協会(http://www.j-aws.jp/?page_id=105#top,2017年5月23日最終閲覧)
- 日本車椅子シーティング協会「なぜ、姿勢保持のための道具などを使うの?」日本車椅子シーティング協会(http://www.j-aws.jp/?page_id=111#top,2017年5月23日最終閲覧)
- 日本車椅子シーティング協会「くるまいすなはなし」日本車椅子シーティング協会(http://www.j-aws.jp/?page_id=135#top,2017年5月23日最終閲覧)
ベビーカーではないのに…間違えられてしまう現実
障がいのある子供たちにとって大切な子供用車いすですが、見た目がベビーカーに近いことから、周囲に間違えられてしまうこともあるようです。障がいを持つ子供たちのママからはこのような声があがっています。
- 狭い場所ではベビーカーと間違われて「畳んでください」と言われてしまう
- 大きな子は歩かせなさいと言われる
本当は歩かせたい、歩いてほしい。それが叶わないため車いすを使っているにも関わらず、このような声をかけられてしまうことでママたちは深く傷ついているといいます。
年齢の高い子供なら、自分に対してどのような声をかけられているのか気づいている子もいるかもしれません。その時、その子がどのような気持ちになっているのか、考えただけで心が痛みます。
- NHK「知ってほしい“子ども用車いす”」クローズアップ現代(http://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2016/06/0611.html,2017年5月24日最終閲覧)
- 読売新聞「子供用車いす理解を」読売オンライン2017年04月23日(http://www.yomiuri.co.jp/osaka/feature/CO023571/20170423-OYTAT50000.html,2017年5月24日最終閲覧)
子供用車いすのマーク
障がいを抱える子供を育てるママが、子供用車いすの啓発を目的に立ち上げた一般社団法人mina familyでは、子供用車いすの存在を知らせるポスターを各自治体の役所などに掲示する、あるいは子供用車いすにマークを制作するなどの活動をしています。
その他の団体でも、車いすに掲示するための子供用車いすを示すマークが作られ始めました。こうしたマークを見やすい場所に表示することで、ベビーカーではなく車いすを利用していることを周囲に知らせることができます。
「あんなに大きな子がベビーカーに乗っている」と好奇の目で見られることや、公共の場所で「邪魔だ」と声をかけられることを減らすきっかけになるかもしれません。本来はマークがなくても、お互いが気持ちよく利用できるように思いやりで解決できることが理想ではありますが、辛い思いをしているママたちがいるという背景がある以上は、こうしたマークの利用が、障がいを抱えた子供を育てるママたちの安心につながるのでしょう。
- mina family「子ども車いす啓発活動 進捗(2017年3月末)」mina family代表理事本田のブログ(http://mina-family.jp/comm/2017/03/31/post-243/,2017年5月24日最終閲覧)
- mina family「子ども用車いす啓発プロジェクト」mina family(http://www.mina-family.jp/activity/project.html,2017年5月24日最終閲覧)
障がい児が夢をもって生きるために必要なもの
子供用車いすは、障がいを抱えて生まれてきた子供や、何らかのきっかけで歩くことが難しくなってしまった子供たちにとって、夢や希望をもって生きていくために必要なものです。
日本車椅子シーティング協会のホームページでは、子供用車いすを使って生活するある女の子の「夢」が公開されていました。
誰とでも仲良くなれる活発な女の子のIちゃんは、養護学校に通う小学校3年生。いつもコミュニケーションボードを使ってお母さんとのおしゃべりを楽しんでいます。愛犬のシュテファーニエⅡ世は介助犬で、Iちゃんの電動車いすを怖がることなくぴったりと寄り添って一緒に通学しています。
Iちゃんは脳性麻痺(のうせいまひ)で自分で身体のバランスをうまく取ることができないのですが、ティルト機能のついた車いすにモールドタイプのクッションを使って身体の足らない機能をうまく補っています。
(中略)
Iちゃんの今年の目標。
卓球バレーをがんばる——。
文字通り卓球台を使ってバレーのように3打以内で相手のコートにラケットで転がして打ち返す競技です。1チーム6人編成で、障がいの程度にかかわらず、色んなひとが楽しめます。京都の養護学校が発祥(はっしょう)の地で、地元の車いすバスケットチームが挑戦して負けたとか…。
海水浴に行ってクラゲをつかまえる——。
砂浜でもタイヤの埋まらないビーチ用の車いすをレンタルしてくれる海水浴場があります。水辺にも近づけるので、そのまま海にぼちゃんと入ります。 出典: www.j-aws.jp
もしもこの子が車いすを使えなかったとしたら、これだけの夢をもって生きていくことはできなかったかもしれません。寝たきりではなく「座れる」「移動できる」ということは、物理的に視界が広がるだけでなく、心の面での視野も大きく広げてくれているのでしょう。
たとえ歩くことができなくても、車いすを使ってどこにでもお出かけができること。ママたちも不安を感じることなく、わが子にいろいろな世界を見せに行くことができること。それが車いすを使う子供たちにとって本当に必要なことだと思います。
相手にとってどれだけ必要なものか、想像してみよう
子供用車いすがベビーカーと似ていることに、驚く人は多いのではないでしょうか。パッと見ただけではベビーカーだと勘違いしてしまうかもしれません。狭い場所や混雑している場所では、ベビーカーを畳んでほしいと感じる人がいることも事実ですし、普通に歩行できるはずの年齢の子がベビーカーに乗っていると思い、つい注目して見てしまうこともあるでしょう。
しかし、子供用車いすの場合は特に、ママ自身も周囲の目に悩まされています。子供のことをジロジロ見られることが辛かったり、心無い言葉に傷ついたりしたこともあると思います。それでも「わが子を外に連れていきたい」という思いで車いすを使っているのです。決して軽くはない車いすに、子供や荷物をのせて移動するのは、本当に大変でしょう。それでも、ママや子供にとって車いすは、必要なのです。
健常者に囲まれて生活している人にとって、障がい者と共に生活することや、障がいを抱える人自身の思いは想像しにくい部分がありますよね。それでも一人一人ができる範囲で、相手の生活を想像していくことが、社会の温かみを作っていくのではないかと思うのです。