1. トップ
  2. トレンド・イベント
  3. コラム
  4. もしも男性が妊娠したら?Netflix『ヒヤマケンタロウの妊娠』原作者と考えるマイノリティ

もしも男性が妊娠したら?Netflix『ヒヤマケンタロウの妊娠』原作者と考えるマイノリティ

4月21日にNetflixで配信された『ヒヤマケンタロウの妊娠』は男性も妊娠・出産するようになった世界の物語。主人公の桧山健太郎は、ある日、自分が妊娠していることに気づきます。社会の第一線で活躍していた健太郎が突然「妊婦」ならぬ「妊夫」となることで、社会を見る視点や、周囲から注がれるまなざしが変化していきます。今回は、原作者の坂井恵理さんと株式会社10X CEOの矢本真丈さんが「マイノリティ」などについて対談。コネヒト広報飯永が聞き手となってお届けします。

『ヒヤマケンタロウの妊娠』ってどんな作品?

「もしも男性が妊娠したら?」
男性が妊娠・出産するようになり、10年たったという世界を描いた物語。

エリートサラリーマン桧山健太郎が、自らの思いがけない妊娠に戸惑うなかで「男の妊娠・出産」に対する偏った考えを目の当たりに…。生むことを決め、自分の居場所を確保するために行動開始!その行動が周りを変え、自分をも変えていくお話です。

ⓒ坂井恵理/講談社

続編に「ヒヤマケンタロウの妊娠 育児編」があり、妊娠中や子育て奮闘中のママなら共感できること間違いなし。パパにもぜひ読んでみていただきたい1冊です。

Netflixにて4月21日(木)から配信開始!

©坂井恵理・講談社/©テレビ東京

ドラマ版『ヒヤマケンタロウの妊娠』は2022年4月21日(木)より、Netflix にて全世界独占配信予定。

社会の中での「妊娠」を取り巻く、無意識の先入観や固定観念、偏見に対して問題提起しつつ、主人公とパートナーの日々をリアルかつコミカルに描く作品となっています。

今回は、原作者の坂井恵理さんと株式会社10X CEOの矢本真丈さんが「マイノリティ」などについて対談した様子をお届けします。

【写真多数掲載】ドラマ『ヒヤマケンタロウの妊娠』気になるあらすじを写真付きで紹介

関連記事:

【写真多数掲載】ドラマ『ヒヤマケンタロウの妊娠』気になるあらすじを写真付…

『ヒヤマケンタロウの妊娠』は、人気漫画を実写化したドラマ。2022年4月21日…

取材に協力してくださった方々

坂井恵理(写真:左上)
1972年生まれ。埼玉県出身。1994年に漫画家デビュー。代表作『ヒヤマケンタロウの妊娠』『シジュウカラ』など。

矢本真丈(写真:右上)
2児の父。1987年青森県生まれ。丸紅にて資源投資業務、一般社団法人RCFにてGoogle とのイノベーション東北プロジェクト責任者、株式会社スマービー(現・ストライプインターナショナル)にてママ向けEC・スマービーの責任者を務める。その後株式会社メルカリを経て、2017年6月より株式会社10Xを創業、代表取締役を務める。

聞き手:飯永萌(写真:真ん中)
1991年生まれ。コネヒト株式会社では、広報・PR、ブランディングに従事し、ママリや家族に関する調査などを通じて集まった家族の声を活用した話題づくりに取り組む。

妻に「指示待ちな姿勢がイラつく」と言われたら危険信号。育児に当事者意識を持った夫が必ず抱く共通ワードとは

関連記事:

妻に「指示待ちな姿勢がイラつく」と言われたら危険信号。育児に当事者意識を…

Netflixで配信されている『ヒヤマケンタロウの妊娠』は男性も妊娠・出産する…

マイノリティから見える社会を描いた『ヒヤマケンタロウの妊娠』

──矢本さんは『ヒヤマケンタロウの妊娠』の原作漫画を読まれたそうですが、まず読後の感想をお聞かせください。

矢本真丈さん(以下、矢本):「男性が妊娠できるようになってから10年」という設定でありながら、ものすごくリアルだと感じました。主人公は男性。32歳。バリバリと働く仕事ができる人。そんな人が突然「子どもが“できちゃった”」というところから話が始まるんですけど、その設定をリアルだと思わせる細部の描写がすごいと思いました。

──坂井さん、このような設定にした意図は何かあったのでしょうか。

坂井恵理さん(以下、坂井):最初は、もし自然妊娠率が男女半々になったら……と想像したのがきっかけです。半々だったらもっと国が支援してくれるはずだ、とか。

原作では、男性にも妊婦の疑似体験をしてもらえるように「男性が妊娠するようになって10年。男性の自然妊娠率は女性の10%」という設定にしました。まだ10年しかたっていないので、医療もしっかりと確立されていない状態です。

日本の会社組織でバリバリ働いて、社会の「マジョリティ」としてやってきた男性がいきなり妊娠をして、「マイノリティ」になるところにおもしろさが出ると思ったんですよ。

ⓒ坂井恵理/講談社

──矢本さんは、2014年と2017年に育児休業を取得されています。当時の日本の男性育休取得率は2.3%とまさに「マイノリティ」だったわけですが、主人公の心境に想いを馳せるポイントがありましたか?

矢本:今でこそ社会が変わってきましたが、2014年には「男性が育休取得なんてけしからん、あり得ないでしょ」という風潮がありました。1人目のときには、僕が男性社員の育休制度利用の最初の例をつくったという感じでした。また、新卒で働いていた大企業でも、社内では家庭のことを話しづらい雰囲気があったので、相当勇気のある人でないと声をあげないのではないかと思ったほどです。

この漫画のテーマでもあると思いますが、「マイノリティ」という立場に置かれて一番つらいのは共感が得られない、対話する相手を見つけにくい、ということです。その立場になってみて初めていろんなことに気づくこともあります。

──まさに、桧山健太郎も「バリバリと働く男性」から「妊夫」になったことがきっかけで、ガラリと視点が変化していました。

もし「自分と合わない場所」で苦しくなったら…

──桧山健太郎が生きる世界では、バリバリ働く人が評価される企業でした。矢本さんは大手企業の社員から起業という道を選んだのには理由があったのでしょうか。

矢本:10Xという会社を起業する前には、転職を繰り返し、5年間のうちに4社で働きました。結局、人が作った会社の中では自分の居場所を見出すことができなかったんです。社会不適合者だと自分を追い詰めたこともありました。

自分が何をしたいか考えたときに、「自分らしく働きたい」「社会に良い影響を与えたい」という2つが大事なことだと気づきました。会社を作って自分がオーナーシップを持ち、会社の方向性に共感すると働きたい、そういう仕事の仕方を見つけたい、というのが起業の背景です。「合わないなら逃げるしかない」が自分の中の成功体験だったので。

(写真:矢本さんの創業風景。まだ椅子が届かない最初のオフィス。)

もちろん「合わない場所での闘い方を身に着ける」というのも選択肢としてあります。でも、正直な話、例えば世代が全く異なる人の価値観を変えるのは難しいので、僕の場合は自分が自分らしくいられる場所を作るほうが早いし、お互いにとってヘルシーだと感じて、この選択をしました。

©坂井恵理

(写真:坂井さんの仕事風景)

──マジョリティの中に身を置いているときには、そこから外れたときの選択肢がなかなか見えにくいと思いますが矢本さんは「自分に合う場所を作る」という選択をされたんですね。

坂井:私はもともと会社員に向いていないからフリーランスで漫画を描いていて、自分に合わないところから逃げてきた、という感じで結果的にうまくいっている形です。勤めている友人からは「1人で家で仕事するなんて無理」と言われることもあるんですけど、私にはこのスタイルのほうが合っているんですよ。

「自分が何に向いていて、何ができて、何ならがんばれるのか」というのを自分で見極めるのが大事だと思います。

子育て中の男性同士は、なぜつながりにくい?

──同じ価値観や悩みを持った人が交流できるというのは、育児でも大事なポイントだと思います。『ヒヤマケンタロウの妊娠』では、孤立しがちな男性の妊娠経験者が集う居場所が描かれていました。

ⓒ坂井恵理/講談社

坂井:リアルの社会では、男性同士が育児の話を共有できる場があまりないですよね。保育園の送り迎えは担当するけど、他の親とおしゃべりしづらいという人もいるだろうな、と思います。

男同士で集まってみても、弱音を吐いたり、受け止めたり、共感ベースの会話は少ないと聞いたことがあるので、そういう場所があったほうがいいんじゃないか、というメッセージを込めたつもりです。

矢本:確かに、父親同士ってそういうところがあるかもしれません。僕はコロナ禍前には、子どもが通う保育園の保護者の方と集う機会に顔を出していたんですけど、そこで気づいたのが男性の育児への関わり方って人によってムラがあるんだということ。

自分だとスタンダードだと思っていても、家事育児をどこまでやるのかという線の引き方は人それぞれ。家族構成が同じでも、父親同士は同じ育児体験をしていない可能性もあるんですよ。だからたとえ父親同士が集まっても話が合わないと感じるときは、不動産や日本経済の話になります(笑)。

男性の育児についての話題は、そもそも会話のタネにしづらいんです。父親の育児参加は「ダイバーシティがありすぎる」んですよ。

©矢本真丈

(写真:矢本さんとお子さんの日常)

坂井:そうですよね。仮に「父親が育休をとった」という同じ経験をしていても、家事・育児を主に妻がやっている、というケースも聞かれますしね。

矢本:その点、お母さんたちは予防接種のスケジュール管理の煩雑さや、定期検診の面倒さとか、近い地域で同じ苦労をしていることが多く、共有できる経験が多いから共通の話題につながるように感じました。

──矢本さんのお話を聞いていたら経験が互いの共感の幅を広げているのかもしれない、と感じました。

自分の価値観の中に誰しもマイノリティ的な要素がある

──『ヒヤマケンタロウの妊娠』では、近未来の世界が描かれていました。現在はまだ育児でも仕事でも「マジョリティ」向けの型に適応していくことが求められる場面が多いと思いますが、今後はどうなっていくと思いますか?

ⓒ坂井恵理/講談社

坂井:私より10歳以上年下の矢本さんもそうですけど、若い男性の意識は確実に変わってきているし、日本社会も少しずつ変わっていると私は思います。政治家にはいろいろ言いたいことはありますが、私は希望を持って見守っていきたいと思っています。

自分1人では変わらないことのほうが多いし、男性だから、女性だから変えられるというものでもない。ひとりひとりの意識で社会は変わっていくと思います。

矢本:今回はマイノリティの話をしましたが、ほとんど誰しもが、自分の価値観を細分化していくと1つくらいはマイノリティ的な要素ってあると思うんですよ。人には言えないけれど「自分はこうだ」という要素が。

僕たちよりも、若い世代はそういうことに自覚的ですし「自分らしく生きる」ことの感度が高いと感じることがあります。SNSが普及したことで、昔と比べて「自分たちが生きる世界を自分たちで生きやすくしていく」「苦しまなくていい」と声をあげやすいという状態に近づいています。妊娠や育児みたいな領域に関わらず、それが社会全体に波及していけばいいな、とあらためて思いました。

──たとえ「マジョリティ」側にいたとしても、何かのきっかけや見方の角度を変えると「マイノリティ」となる可能性に満ちていることに自覚的でありたいし、マイノリティであることに苦しまないやさしい社会へより近づきたいですね。『ヒヤマケンタロウの妊娠』は、そうしたことに気づかせてくれる物語だと思いました。

原作はこちらから

ヒヤマケンタロウの妊娠

男性が妊娠・出産するようになり、10年。
エリートサラリーマン桧山健太郎が、思いがけない妊娠に戸惑うなかで「男の妊娠・出産」に対する偏った考えを目の当たりにしながら、自分の居場所を確保するために奮闘する物語です。

「まさか俺が妊娠するなんて」普通のサラリーマンが妊夫に|ヒヤマケンタロウの妊娠 第1話#1

関連記事:

「まさか俺が妊娠するなんて」普通のサラリーマンが妊夫に|ヒヤマケンタロウ…

男が妊娠・出産するようになった世界を描く『ヒヤマケンタロウの妊娠』。202…

おすすめ記事

「インタビュー」「妊娠」「漫画」 についてもっと詳しく知る

本記事は必ずしも各読者の状況にあてはまるとは限りません。必要に応じて、医師その他の専門家に相談するなどご自身の責任と判断により適切に対応くださいますようお願いいたします。なお、記事内の写真・動画は編集部にて撮影したもの、または掲載許可をいただいたものです。

カテゴリー一覧