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自分が子どもを見つめる目って見たことある?「今ある幸せ」の大切さと現代に求められるSNSの使い方とは

Netflixで配信されている『ヒヤマケンタロウの妊娠』は男性も妊娠・出産するようになった世界の物語。社会の第一線で活躍する主人公の桧山健太郎は、ある日突然、自分が妊娠していることに気づきます。ストーリーの中では、複数の「妊夫」と「妊婦」の人生が交差し、妊娠・出産をめぐるさまざまな価値観が描かれています。今回は、出張撮影サービスなどを提供する、株式会社ラブグラフのCCO(最高クリエイティブ責任者)の村田あつみさんと、原作者の坂井恵理さんの対談をお届けします。

『ヒヤマケンタロウの妊娠』ってどんな作品?

「もしも男性が妊娠したら?」
男性が妊娠・出産するようになり、10年たったという世界を描いた物語。

エリートサラリーマン桧山健太郎が、自らの思いがけない妊娠に戸惑うなかで「男の妊娠・出産」に対する偏った考えを目の当たりに…。生むことを決め、自分の居場所を確保するために行動開始!その行動が周りを変え、自分をも変えていくお話です。

ⓒ坂井恵理/講談社

続編に「ヒヤマケンタロウの妊娠 育児編」があり、妊娠中や子育て奮闘中のママなら共感できること間違いなし。パパにもぜひ読んでみていただきたい1冊です。

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取材に協力してくださった方々

坂井恵理(写真:真ん中)
1972年生まれ。埼玉県出身。1994年に漫画家デビュー。代表作『ヒヤマケンタロウの妊娠』『シジュウカラ』など。

村田あつみ(写真:右)
株式会社ラブグラフ共同創業者CCO。1991年生まれ。同志社大学在学中からWebデザイナーとして活動し、新卒ではリクルートホールディングスに入社。その後、2015年に学生起業した出張撮影サービス「Lovegraph」を運営する株式会社ラブグラフのCCOを務める。2022年3月ミクシィにグループイン。経営戦略、ブランディング、デザイン開発、マーケティングに至るまでマルチにこなす女性Webクリエイター。

聞き手:飯永萌(写真:左)
1991年生まれ。コネヒト株式会社では、広報・PR、ブランディングに従事し、ママリや家族に関する調査などを通じて集まった家族の声を活用した話題づくりに取り組む。

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決して紋切り型ではない「幸せ」の形

坂井恵理さん(以下、坂井):本日、村田さんにお会いする前にラブグラフのホームページを拝見しました。ファミリーとかカップルだけじゃなくて、「おひとり」「フレンズ」のようなコースもあって「すごくいい!」と思いました。

(写真:『ラブグラフ』トップページより)

村田あつみさん(以下、村田):坂井さんがおっしゃる通り、初めはカップルの撮影から始めました。でも「カップルだけが愛なのかな?」と自分に問う機会が増えてきて、徐々に家族のカテゴリが広がってきました。

次は「パートナーがいる人だけが幸せなのか?」と突き詰めて考えるようになって。1人でも幸せを感じられるし自分を愛することができるから「1人も愛だ」という思いに至りました。そんなふうにしてカテゴリを広げていった感じです。

坂井:トップページのあのコースがパッと目に入ってくるので、いろんな属性のいろんな幸せが肯定されているようなメッセージ性を感じました。

―「多様な幸せの形」という点では、『ヒヤマケンタロウの妊娠』でも複数の「妊婦」「妊夫」を取り巻く人間関係を通じて、それぞれの選択が描かれていました。

坂井:いろんなキャラクターが登場する「オムニバス」という形式で描きました。
後から「あれも描きたかった、これも描きたかった」ということが出てきたんですけどね。ページが許せば、もっともっといろんな要素を入れたかったです。

いろんな幸せが発信されることで、いろんな幸せに共鳴できる

―近年では「いろんな幸せがある」という価値観が認知されつつあるものの、まだ自分の幸せを発信しにくい空気も残っているような気がします。

村田:確かに。そういえば、7年くらい前は「リア充爆発しろ」という言葉がよく聞かれたように思います。

当時は特に、一部では他人の幸せは肯定されずに「自分の幸せはつつましく、隠すこと」みたいな価値観があって、それに違和感を覚えたのが今のビジネスのきっかけになっています。

幸せを見せてはいけないような価値観もある中で、ラブグラフは「幸せは、幸せでいいんですよ」と肯定をする立場であり、その手段の1つが写真を撮ることでした。

また、単純に肯定するのではなく「今ある幸せに気づいてほしい」という思いも込めています。ラブグラフの事業を通じて感じるのが、今ある幸せに気づいていない人もいるということです。

©LOVEGRAPH by minase

例えば、パートナーに対して愚痴ばかり言っていた人でも、写真を撮って見てみると「私たち、なんかいいかも」と言う人がいます。

親子の写真撮影を終えて「私が子どもを見るときの目って、こんなに優しいんですね」と言いながらぽろぽろと涙を流す人もいます。自分が子どもを愛している姿は自分で見たことがないので。幸せは意外と身近にあって、写真を撮ることで、自分がすでに持っているものを認識できる機会になることもあるんだと思います。

外から見て幸せそうに見えても、当の自分は幸せが目に見えにくいのかもしれない。でも、今ある幸せを認識してほしい、というのは私と会社の願いでもあります。

―情報があふれている今、「自分が持っているもの」よりも「持っていないもの」にスポットが当たりやすく、ネガティブな情報が目に入りやすくなっているのかもしれません。

坂井:確かにSNSでは、幸せより夫婦や育児のネガティブな話がすごくシェアされやすいですよね。

でも、決して大変なことばかりじゃないので、『ヒヤマケンタロウの妊娠』でも、ただ「妊娠と育児って大変」というふうにならないように意識して、子どもを持ったときの喜びや幸せも盛り込みました。

さらに、出産をすることだけが幸せではないので、原作では妊娠をして中絶を選ぶ男性キャラクターも登場させて、彼の選択を責めないように描きました。

―さまざまなことが「正か否か」でジャッジされがちですが、原作の中でそれぞれの登場人物が個々の選択に至るまでの背景に心が揺さぶられました。

ⓒ坂井恵理/講談社

坂井:1人の人間にもいろんな面があって、矛盾した感情が存在しているのは当たり前のことだと思います。私はキャラクターをつくるときには、自分のいろんな部分をキャラクターに割り振っている感じです。

物語の中には、気が弱い人もいれば、気が強い人もいて、いい人もいればイヤなやつもいて、それぞれに自分が入っているという感じです。

多様な発信が多様性を加速させていく

―ヒトも物も一面的ではなくて、相反するものを内包しているのかもしれません。

村田:そうですね。先ほどお話したような「今ある幸せを認識してほしい」という気持ちはもちろんあります。

でも、その奥にある人のつらいことや悲しいことがあるという多面性に想像力を働かせていくこと、それを言葉でも絵でも歌でもいいから周りに伝えていくことは、大切なことだと思います。

坂井:世の中にはまだ自分で言語化できていない感情を持つ人が多いと思うんです。私も含めて物事を発信する側の人間が代弁することで「こういうのを見たかった」「わかるわかる」と共感してくれたら嬉しいです。

―誰かが発信した「これも幸せ」という情報に触れることで、別の誰かが小さな幸せを自覚する瞬間もあるかもしれないですよね。いろんな幸せがもっとシェアされるといいですね。

坂井:それぞれの幸せなことをシェアするのはすごくいいな、と思います。

SNSを見ていると、暗い気持ちになることもあるので。嫌なことから目をそらすというわけじゃなくて、自分の楽しいこと、好きなことをちゃんとわかっていてシェアするというのはいいことだと思います。

―多様な「幸せ」「楽しい」「好き」が発信されることで、自覚しにくい身近な幸せに気づくきっかけになるかもしれませんね。今日はどうもありがとうございました!

『ヒヤマケンタロウの妊娠』ってどんな作品?

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ヒヤマケンタロウの妊娠 [ 坂井恵理 ]

男性が妊娠・出産するようになり、10年。
エリートサラリーマン桧山健太郎が、思いがけない妊娠に戸惑うなかで「男の妊娠・出産」に対する偏った考えを目の当たりにしながら、自分の居場所を確保するために奮闘する物語です。

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写真:大島万由子

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