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妻に「指示待ちな姿勢がイラつく」と言われたら危険信号。育児に当事者意識を持った夫が必ず抱く共通ワードとは

Netflixで配信されている『ヒヤマケンタロウの妊娠』は男性も妊娠・出産するようになった世界の物語。主人公の桧山健太郎は、ある日突然、自分が妊娠していることに気づきます。社会の第一線で活躍していた健太郎が突然「妊婦」ならぬ「妊夫」となった一方、パートナーの瀬戸亜季もまた思いがけず親となり、2人の関係性に大きな変化が訪れます。今回は、原作者の坂井恵理さんと株式会社10X CEOの矢本真丈さんが「産前産後のパートナーとの相互理解」などについて対談。コネヒト広報飯永が聞き手となってお届けします。

取材に協力してくださった方々

坂井恵理
1972年生まれ。埼玉県出身。1994年に漫画家デビュー。代表作『ヒヤマケンタロウの妊娠』『シジュウカラ』など。

矢本真丈
2児の父。1987年青森県生まれ。丸紅にて資源投資業務、一般社団法人RCFにてGoogle とのイノベーション東北プロジェクト責任者、株式会社スマービー(現・ストライプインターナショナル)にてママ向けEC・スマービーの責任者を務める。その後株式会社メルカリを経て、2017年6月より株式会社10Xを創業、代表取締役を務める。

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夫婦が「育児の仲間」になるまでは、ある程度時間がかかる

──『ヒヤマケンタロウ』の妊娠は、未婚の桧山健太郎が予期せぬ妊娠をするところから物語がスタートします。作中では、主人公の男性を妊娠“させてしまった”パートナーの女性と少しずつ関係性が変化していく描写がありました。「子ども」という存在によって、夫婦関係は劇的に変わると思いますが、坂井さんと矢本さんは夫婦がチームとしてうまく回るまでに苦労された経験はありますか?

坂井恵理さん(以下、坂井):夫はもともと家事能力は高く、料理も上手。育児にも“協力的”だったと思います。でも、あくまでも私の“サポート”というスタンスでした。

それが不満だったので、私がことあるごとに不満なポイントを伝えて、 徐々に改善されていった感じです。「指示待ちな姿勢がイラつく」とか「ここまで言ってまだわからないの?」とか。

矢本真丈さん(以下、矢本):しみじみと坂井さんの旦那さんの気持ちになって聞いていました(笑)。

僕も子どもが生まれたばかりのころはどこまで自分主導で育児をしたらいいかわかりませんでした。おっぱいは出ない。寝かしつけようとすると泣かれる。というように、最初は母親と比べて自分主導でできないことが多くて、どうしても「サポート」というスタンスになってしまう。

振り返れば、そんな態度が妻をイライラさせていました。

妻には「自分は察する能力がないので、なんでも言ってほしい」と伝えていたのですが、いちいち口に出す側もすごく疲れることなので、それで衝突することもありました。

毎日を過ごしていると、だんだんと「できることと」と「苦手なこと」がわかってきて仕分けができてくるので、朝と晩のルーティンができてきて、まわるようになってきました。時間をかけてお互いのフィードバックを受け取ることが大事だったと思います。

──お2人の夫婦関係の軌跡を感じるエピソードでした。やっぱり子どもが生まれてから「日常がまわる」ようになるまでには、ある程度時間がかかるんですね。

ⓒ坂井恵理/講談社

矢本:うまく関係を作っていくには、長い目で見てお互いと向き合っていく一定の時間が必要だと思います。

坂井:カップルや夫婦だと、距離感が近い分、特にお互いが「察してほしい」という気持ちが強くなってしまいますが、口に出さないと伝わらないこともたくさんありますよね。あと、関係性構築のためには、我慢しすぎないことも大事です。疲れていたら「やっぱり無理」、体がしんどかったら「今日はお風呂に入れて」とお願いしたほうがいいと思います。

「サポーター」だった夫が「当事者」になったターニングポイント

──産前・産後を振り返ってみて、夫婦関係が良い方向に変わったターニングポイントはありましたか?

坂井:生後6か月くらいのころです。仕事で出掛けなければならなくなり、初めて夫に半日間子どもを託すことになりました。帰ってくると夫はヘトヘトになっていました。夫は「1人で子どもを見るのがこんなに大変だと思わなかった」と言っていましたが、こちらとしては「その言葉、待ってた!」という感じでした。

大変さに気づいたそのころから夫は変わっていきました。

「お母さんじゃないと育児はできない」と思っている夫もいると思うんですけど、一度思い切って夫にまかせる機会があったほうがいいのかな、と思います。ある程度協力しようという人なら、子どもの命に関わることようなことはないでしょうし、子どもと父親も仲良しになっていくと思います。

ⓒ坂井恵理/講談社

矢本:自分も生後半年くらいのころに長時間子どもを1人で見た経験を通じて、やっぱりそこからガラッと変わりましたね。1人でやってみると、初めて気づくことがあるんですよ。育休を取得してずっと妻と同じ家で過ごして一緒に子育てをしていたはずなのに、自分主導でやってみるとわからないことがあって。

ずっと一緒にいる夫婦でもこうなんだから、これを赤の他人に理解させるなんてまず無理だと思ったほどです。

©矢本真丈

(写真:矢本さんのご家族との日常風景)

──夫婦が同じ経験を共有することが、相互理解のきっかけになるのかもしれませんね。

坂井:『ヒヤマケンタロウの妊娠』の構想段階では妊娠経験がなく、なかなかストーリーができなかったんですけど、自分の妊娠がわかってから、とんとん拍子でストーリーができあがりました。

そのとき、妊娠中のつらさを理解することの難しさを自分でも体験しました。漫画を読んだだけでわかってもらえるとは思っていないんですけど、Netflixで配信されるドラマ版や漫画の「疑似体験」を通じて、少しでも想像するということの助けになればいいな、と思います。

一方、「男性が育児参加をしにくい」という声も…

──最近では、男性の育児参加が推奨されながらも、社会側が男性を育児に関わりにくくしているのではないか、という声も聞かれます。男性側から「おむつ替えスペースがない」「母親の出番が期待される」という声がちらほらと聞かれるようになりました。

ⓒ坂井恵理/講談社

矢本:おむつ替えシートが男性トイレにはなくて、女性トイレにしかないというケース、ありますよね。僕自身、外出先で子どものおむつがうんちでビチャビチャになっているのに「おむつ替えの場所がどこにもねぇ!」という経験が何度もありますし、そうした不便さは解消されたらいいなとは思います。でも、育児全体として振り返るとそれ自体はけっこうさまつなことだった、とも思うんですよ。

不測の事態が起こるとその時々でひどくあわてたりするんですけど、子どもを向いて即やらなければならないことが無限に出てくるので、「おむつ替えスペースがない」とか、そういう細かいことに気を払う余裕がなかった、というほうが近いかもしれません。

「男性が育児をするために社会がフィットできていない」という声もありますが、そう言う前に、もう少しこちら側でできる部分もあります。

そして、男性も1人で何だかんだなんとかなる、というのは間違いないファクトです。母親に負担が偏りやすい現在の日本の育児環境の中では、男性のできないこと、やらないことについてハードの不備を言い訳にしすぎないほうがいいと思います。

パートナーとの関係づくりに大切な「想像」「傾聴」「共感」

──ここまでお話をうかがって、夫婦間の関係性構築のためには「相手と経験を共有すること」「相手の立場を想像して動くこと」が大切なのもしれない、と思えてきました。

ⓒ坂井恵理/講談社

矢本:生物学的に男性は子どもが産むことができないので、自分の経験できないことに思いをはせて、理解を深めていく、ということに尽きるのかもしれません。

坂井:そうですね。そして、もし想像できないのなら、とりあえずパートナーの話は聞いてあげてほしい。アドバイスとかせずに「ただ話を聞く」という時間があれば、ずいぶん関係性は変わってくると思います。

──たとえ夫婦でも互いに全てをわかり合うことは難しいので、相手の立場を想像できるように耳と心を傾け話を聞き、時には漫画やドラマの物語力を借りて想像の解像度を上げていくことが大切だと感じました。ありがとうございました!

『ヒヤマケンタロウの妊娠』ってどんな作品?

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ヒヤマケンタロウの妊娠

男性が妊娠・出産するようになり、10年たったという世界を描いた物語。

エリートサラリーマン桧山健太郎が、自らの思いがけない妊娠に戸惑うなかで「男の妊娠・出産」に対する偏った考えを目の当たりに…。生むことを決め、自分の居場所を確保するために行動開始!その行動が周りを変え、自分をも変えていくお話です。

続編に「ヒヤマケンタロウの妊娠 育児編」があり、妊娠中や子育て奮闘中のママなら共感できること間違いなし。パパにもぜひ読んでみていただきたい1冊です。

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