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希による妊娠・流産の報告から数か月。今度は藍子も妊娠したことが判明します。夫婦で待ち望んでいたこととはいえ、妊娠の事実を希に伝えるか、藍子は悩みを抱えるのでした。
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流産したばかりの親友に、妊娠したことを伝える?
季節はめぐり、希の報告から数か月がたった。
希とは、深くお互いの状況に触れるような会話は避けていた。
そんなある日のこと、私の体に変化が現れた。
妊娠検査薬の陽性反応。
「おめでとうございます、妊娠されていますね」
医師の言葉に、胸がいっぱいになった。
隣にいた祐樹は、私の手を強く握りしめ
2人で喜びを分かち合った。
その後、妊娠は安定期に差し掛かりつつあったが
私の心には大きな悩みも生まれてしまう。
希からワインバーに行こうと誘いを受けたのだ。
希に、妊娠を伝えていいだろうか…?
流産という辛い経験をしたばかりの彼女に、私の妊娠を報告するのは酷ではないか。
でも、いつまでも隠しておくわけにもいかない。
夫に相談し、背中を押される
悩んだ末、祐樹に相談した。祐樹には希の流産のことも話していた。
「藍子が言いにくい気持ちはわかる。でも俺は、正直に話すのが一番だと思う。隠さず誠実に話せば、気持ちは伝わるよ」
「…誠実に、か」
「うん。希さんだって、藍子の幸せを願ってないわけじゃないと思うよ」
祐樹の言葉に背中を押され、私は希に伝える決心をした。
妊娠を報告するも、ぎこちない空気に
その夜、深呼吸をしてから、希に電話をかけた。呼び出し音が数回鳴った後、彼女が出た。
「もしもし?藍子?」
「あ、うん。今ちょっといいかな?」
「いいけど、どうしたの?」
相変わらず、少し距離を感じる声色。
「あのね、すごく、話しにくいんだけど…」
言葉を選びながら、慎重に切り出す。
「実は……私も、赤ちゃんを授かったんだ」
一瞬の沈黙。電話の向こうで、希が息を呑んだのが分かった。
「…………へぇー。そうなんだ」
やっと返ってきたのは、感情の色が全く感じられない、平坦な声だった。
「……おめでとう」
「あ、ありがとう…。希が辛い思いをしたばかりだから…報告するかすごく迷ったんだ。でもお酒は飲めないし…隠し事したくなくて。嫌な気持ちにさせてしまったら、ごめん」
私の精一杯の言葉にも、希の反応は薄かった。
「ふーん…」
希は低い声のままこう続けた。
「まあ、おめでたいことだし気にしないで。よかったね」
まるで突き放すような口調。その言葉に、私の胸は痛んだ。
「…うん。ごめん」
ぎこちない空気のまま電話を切った。その後、私はソファに崩れ落ちた。やっぱり、希との関係にはヒビが入っている。私たちの間にある溝は、深まるばかりだ。
「藍子、大丈夫か…?」
心配そうにそばにきてくれた祐樹の前で、私は涙を流した。祐樹は何も言わず、ただ私の背中を優しくさすってくれた。
「希さんもつらいことがあったからね。時間が解決してくれるかもしれないよ」
その言葉に頷きながらも、私の心の中では希との関係に決定的なヒビが入ったと感じる。お腹の中の小さな命の温かさを感じながら、私は言いようのない寂しさを抱えていた。
あとがき:お互いに難しい、妊娠や流産の報告
自身の妊娠を親友である希に報告したところ、反応が暗かったことにショックを受けている藍子。自身がつらい経験をしたあとでの藍子の報告は、希にとってとてもつらいものだったのかもしれません。
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嫉妬心で相手を攻撃する人との決別を描く作品
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本作では主人公・藍子と高校時代の親友・希の関係性が描かれます。高校時代は同じバレーボール部に所属し、信頼し合える親友として距離を縮めていた2人。しかし、その関係性は結婚・出産とライフステージを進めていくごとに変化していきます。
藍子は大人になっても希と昔のような付き合いができることを望んでいましたが、希は密かに藍子に対し嫉妬心をつのらせていました。藍子の暮らしに対して「自分よりも優れている」と劣等感をいだいた希は、徐々に藍子に対して意地悪な言動をするようになっていきます。
藍子は関係性を続けられるように付き合い方を工夫しますが、最後は決別を選ぶことに。大切な友人の1人を失う結果となった藍子ですが、作品内でさまざまな思いを巡らせた結果、納得して選ぶことができたようです。
藍子と希のストーリーから、大人になってからの人間関係・人付き合いについて改めて考えさせられる作品です。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










