🔴【第1話から読む】義父と死別した義母と同居開始→しおらしい態度に“異変”感じた日|義母と喧嘩して同居解消した話
義母の嫌味が原因で口論になり、子どもたちを泣かせてしまった麻衣。夫の協力で冷静に話し合おうとするも、義母の理不尽な態度に限界を感じる。そして夫婦は、“同居解消”という決断を下すことに──。
歩み寄りの糸が切れた日
「……というわけで、俺ら、引っ越すから」
義母の屁理屈や当てつけに、話し合いが平行線に終わった日からしばらく経ったある日。夫は義母に引っ越しすることを伝えた。初めは冗談だと思っていたのか、呆れたような笑みを浮かべていた義母も、それ以上何も言わない様子に次第に顔をしかめ始めた。
「……直哉、どういうこと?あなたたちから同居を持ちかけてきたんじゃない!」
「そうだよ。でも、麻衣から聞く話とか、少し前の電気代の話し合いの時のおふくろの態度を見て、このままじゃ続けられないと思ったんだよ」
取り乱し始める義母をよそに、夫は毅然と思いを伝えていく。
「あの時は、電気代が高かったから、その分あなたたちからも出してもらう必要がある。必要なことだと説明したのに、当てつけてきたのはそっちじゃない!」
「だから、追加で出す金額が妥当か納得したいから、電気代がいくらか見せてほしいって頼んだでしょ?確認したいだけなのに、見せてくれないんじゃ納得もできないよ」
すると義母は、感情的な振る舞いを一転させて、あたかも自分が悲劇のヒロインのようにいじけ出した。
「あぁ、そう。じゃあ、私に信用がないのね。こっちも好きで嫌われ役やってるんじゃないのに……」
しかし、夫は表情を変えず毅然と答えた。
「あぁ、そうだね。あんな様子を見たら信用もなくなるよ。それじゃ、今週末には出てくから」
夫からの予想外の反応に、義母は一瞬動揺を見せた。しかし、気にする素振りも見せずに夫は離席した。嫌味な義母に毅然と話す夫にスカッとしつつも、義母がわずかに見せた動揺の表情に私の心は痛んだ。揺れる気持ちの中、表情を曇らせたまま夫から遅れて離席しようとすると、去り際の背中に義母が捨て台詞のように一言、言い放った。
「姑を孤立させて、家族を独り占めして、さぞいい気持ちでしょうね……」
同居のきっかけである義父との死別がチラつく嫌味に、痛んだ心が疼いた。
それからの1週間、家の中はこれまで以上の無言と緊張に包まれていた。義母とは家庭内別居状態になり、顔を合わせることもなくなった。家には荷造りの音や生活音だけが響いていて、異様な雰囲気に子どもたちは不安そうにしていた。子どもたちを大人の事情に巻き込んでしまったことを、私は悔やんだ。
また、この1週間の間にも義母からの当てつけのような行動は度々あった。水回りがびしょびしょになったままだったり、掃除や調理の道具を使いっぱなしにしていたりと、子どものやり返しのようで呆れてしまった。
それに、深夜に誰かと大声で通話する声が漏れ聞こえてくることもあった。内容は私たち夫婦への愚痴だった。そんなこともあって、一瞬芽生えた義母への負い目や同情の気持ちは、1週間のうちに薄れていった。
引っ越しの朝
引っ越し当日。引っ越し業者に家具などを積み込んでもらい、私たちも自分たちの車に荷物を積み込む。荷物の積み込みのために出入りする業者や私たちを、義母は黙ってじーっと見つめていた。
荷物を積み込み終え、新居への搬入時間を打ち合わせると先に業者が家を離れた。すると、タイミングを見計らっていたのか、義母が私たちの前に現れた。その表情からは、怒りが滲んでいた。
「おふくろ、短い間だったけどお世話になりました」
何か言いたげな義母に触れることもなく、夫は淡々と感謝を述べた。しかし、その様子が義母を逆撫でたのか、義母が不満をぶちまけた。
「家に上がり込んできたのはそっちだったのに、ちょっと気に食わないからって勝手に出てくなんて、どういうつもり?信じられない!」
一度泣かせて以降、子どもたちの前では罵声を浴びせてこなかった義母だったが、感情をむき出しにして、怒声を上げた。
「直哉、あなた長男でしょ?家を継いで、最後に面倒見るのが当たり前でしょ!それに麻衣さん、それを支えるのがあなたの務めでしょ!」
義母はしきりに“家族としての義務”を訴えてきた。間髪入れずにぶつけられる言葉に、反論する間もなかった。
しかし突然、義母の勢いが止まり怒りに歪んだ表情が一転、困り顔へと変わっていった。義母の怒声が消えた直後、私の隣から嗚咽と鼻を啜る音が聞こえた。あの日と同じように、子どもたちが泣いていた。
「ばぁば、なんで、いつも、ママにひどいこと、言うの?」
過呼吸になりながら、娘が義母に言った。義母は動揺して、返す言葉が見つからないようだった。
「そう、だよ。パパにも、なんで、そんな強く、言うの?」
娘に続いて、息子も声を上げる。拙い言葉ながら、精一杯の思いを伝える子どもたちに、義母は呆然としていた。
「ばぁば、怖い……」
ポツリと娘がこぼした一言。これが決め手になったのか、義母はそれ以降俯いた。
「……莉子、蓮、ごめんね。ありがとね」
義母はそれだけ言うと、静かにリビングへと向かっていった。
離れて見えた家族のかたち
──窓を開けて深呼吸する。吹き込んでくる風が心地良い。昨晩はよく眠れた。朝食の準備をしているうちに、夫と子どもたちが起きてくる。新しい環境に不安もあったけれど、子どもたちの表情は晴れやかだった。こんな表情を見るのは久しぶりだ。
義母の元から引っ越してひと月が経つ。最後の義母の姿が今も心に引っかかっている。けれど、目の前の子どもたちの表情に、あの判断は間違っていなかったと思う。
「いってきまーす!」
「いってらっしゃーい!気をつけてね!」
夫と子どもたちを見送る私の表情には、笑顔が戻っていた。
あとがき:離れても、家族でいるために
家族だからこそ、距離を置くことが“悪”ではないのかもしれません。義母への怒りも悲しみも、すべては「家族でいたい」という気持ちの裏返しでした。同居解消という決断は、逃げではなく、家族が再び穏やかに過ごすための一歩。
“離れても家族”という関係のあり方を見つめ直すきっかけになればと思います。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










