穏やかな主婦の美香子は、サッカー好きの長男・達也に「公式試合のあるクラブチーム」を提案。しかし、体育会系で元強豪校出身の夫・亘は「中途半端ではダメだ」と口を挟み始めて…。
わが子が始めたサッカー教室
私は美香子、34歳。どこにでもいる平凡な主婦よ。夫の亘は35歳、そしてわが家のやんちゃな長男、達也は今年小学1年生になったばかりの6歳。私の性格はどちらかというと穏やかで、争いごとを好まないタイプ。
達也は、神経質で繊細な子。ちょっとしたことで泣いたり、人の顔色をうかがったりするけれど、運動神経は悪くない。年中さんになったころから、家の近所にあるサッカースクールに通わせていたの。
そこのスクールは、外部との試合もなければ、厳しい指導もなし。ただただ、ボールを蹴る楽しさを知るための「お遊び教室」みたいな場所だった。
夫は習い事に反対
「ママ、パス!」
公園でサッカーをして遊ぶ達也の笑顔は、本当に楽しそうで。心からサッカーが好きなんだろうな、と思っていた。だから私から提案したのよ。
「ねぇ、達也。せっかくだから、公式試合のあるクラブチームに行ってみない?もっといろんなお友達と試合できるよ」
達也の目がキラキラ輝いたのを、今でもはっきり覚えている。
「行く!行ってみたい!」
その時の達也の真っ直ぐな瞳が、私たちの日常を大きく変えることになるなんて、この時は思いもしなかった。そして、この話に、達也の父親である亘が口を挟まないわけがなかった。
「クラブチームって…美香子、どういう場所か知ってんの?」
亘は昔から、良く言えば情熱的、悪く言えば体育会系を地で行く人。学生時代、彼にとってサッカーは遊びじゃなかった。高校は、全国でも名を知られた強豪校にスポーツ推薦で入学したの。彼自身、サッカーの良いところも、その世界の厳しさも知っている。
「どういう場所って…、もう少し本格的にサッカーを学べたらいいかなって」
私がそう言うと、亘はため息を一つついた。
「楽しむだけなら、公園で俺とやれば十分だよ。クラブチームに入るってことは、半端な気持ちでは無理。強くなる気持ちがないと、楽しむどころじゃないぞ」
いつも彼の言葉には有無を言わせぬ圧力がある。
「楽しむ」より「本気」に引きずられてしまった
亘は達也にこう聞いた。
「達也、本気でサッカー強くなりたいと思ってんのか?」
「うん、僕もっと強くなって選手になりたい!」
「よし、その言葉忘れるなよ、やるなら本気でやれ」
亘の迫力に押され、私はいつの間にか、達也の「楽しみたい」という純粋な気持ちを棚に上げ、亘の「本気でやらせる」という目標に引きずり込まれていくことになった。
もちろん、チーム選びは私の出る幕ではなくて、亘が何チームも問い合わせて調べあげた。「上を目指しているチーム」でないと達也を入れる価値がないというのだ。
私の心の中では、そんな厳しいチームに入って、繊細な達也は大丈夫だろうか、という不安が渦巻いていた。でも、達也自身が「パパが見つけてくれたチームで頑張る!」と目を輝かせていたから、私は口をつぐんだまま、彼の決断に委ねるしかなかった。
これが、わが家の「体育会系すぎる夫」による、達也のサッカー人生の幕開け。最初は熱心な父親がいていいかもと思っていたけれど、そんなに甘いものではなかったのです―――。
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あとがき:親の夢、子の夢
美香子の「楽しめればいい」という純粋な願いは、亘の「本気でやらせる」という目標によって、早くもかき消されてしまいました。この違いは、単なる教育方針の差ではなく、亘自身の「達成できなかった過去」が色濃く反映されています。
達也のキラキラした瞳が、親の重い期待にどう耐えていくのか。この時、達也の胸にはサッカーへの憧れしかなかったはずなのに、親の介入によって、その純粋な楽しさがプレッシャーへと変わる予兆を感じさせます。子どもを思う気持ちと、親のエゴは紙一重ですね。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










