すみれ(30歳)は、夫・新平と愛娘・美鈴に囲まれ、しあわせの中にいた。しかし、宗教に心酔する母からの連絡が、平穏な日々に影を落とす。幼少期から信仰を強要されてきた すみれは、夫に真実を言えないまま、孤独な葛藤を抱えていて…。
しあわせなのに…消えない影
「すみれ、美鈴ちゃんは元気に泣いてる? 信仰の功徳で、きっと健やかに育つわよ」
スマートフォンの画面にうかぶ、母からのメッセージ。私はそれを指で弾くようにして閉じ、小さく息を吐きました。
私の名前は すみれ、30歳。
今は、一か月前まで、おなかの中にいた長女・美鈴の寝顔をながめるのが、何よりのしあわせです。
となりには、優しく、たよりがいのある夫の新平。まさに、絵に描いたようなしあわせな家庭……のはずなのですが、私の心には、常に、消えない「影」がありました。
母が信仰している宗教
「すみれ、またお義母さんから? 最近よく連絡くるね」
キッチンでコーヒーをいれていた新平が、不思議そうにこちらを見ます。
「あ、うん。美鈴の様子が気になるみたいで…」
「そっか。孫がかわいいのはいいことだけど、すみれがつかれてるなら、無理に応えなくていいんだからな」
新平の優しさが、今は少しだけ痛い。
彼にはまだ、私の実家が抱える「本当の問題」をくわしく話せていません。
私の母が、ある宗教団体に熱心に入信したのは、私が2、3歳のころでした。
きっかけは、当時、私が患っていた大病が奇跡的に完治したこと…。母にとって、それは「神さまのおかげ」であり、それ以来、母の人生の軸は、すべてその宗教になりました。
もの心ついた時から、私の日常には「お経」や「先生」のお話がありました。
「すみれ、このお経を唱えれば、学校でいじめられないわよ」
「先生が仰る通りにすれば、将来は安泰なの」
子どものころは、母のよろこぶ顔が見たくて、何もうたがわずに付いていきました。
成長とともに違和感を覚える
でも、成長するにつれて、私は強烈な違和感を抱くようになったのです。
「お母さん、それって本当? 科学的には別の理由があるんじゃないの?」
高校生のころ、勇気を出してそう言った私に、母は悲しそうな、それでいて、どこか軽蔑を含んだような目で言いました。
「すみれ、あなたはまだ何も分かっていないのね。信仰心がないと、いつか不幸になるわよ」
その言葉が、呪いのように、私の胸に深く突き刺さりました。
私は母を愛していましたが、母が愛しているのは「私」ではなく、「同じ信仰を持つ娘」なのではないか…。そんな疑念が、30歳になった今も、私を苦しめているのです。
新平には、「母は少し信心深いところがある」とだけ伝えていますが、実態は、そんな生やさしいものではありませんでした。
「すみれ、聞いてる?」
新平が私の顔をのぞき込みます。
「……あ、ごめん。ちょっと寝不足かな」
「ムリするなよ。今日は俺が美鈴をみるから、少し横になりな」
新平に甘えて寝室へ向かう途中、また、スマートフォンがふるえました。
母からの着信。いやな予感がして、私はふるえる指で、通話ボタンを押しました。
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あとがき:愛という名の呪縛
「あなたのため」という言葉ほど、逃げ場のない重みを持つものはありません。
すみれさんが感じていたのは、母への愛ゆえに、断ち切れない苦しみです。家族だからこそ、価値観のズレはするどいナイフのように心を抉ります。
新平さんの優しさが救いである一方で、秘密を抱える罪悪感に胸がしめ付けられる第1話。彼女が抱える「違和感」の正体は、多くの女性がどこかで共感してしまう、切実な痛みなのではないでしょうか。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










