🔴【第1話から読む】「私はモラ夫の所有物じゃない」妻が逃げる決意をした日|夫の出張中にモラ逃げしました
直哉の出張中、楓は沙織の助けを借りて秘密裏に引っ越しを決行。直哉の所有物と自分の私物を慎重に区別し、必要な荷物だけを運び出します―――。
夫が不在の隙に…
直哉が出張で家を空けた朝。私は緊張でほとんど眠れていませんでした。心臓が今にも飛び出しそうなほど高鳴る中、午前9時に沙織がレンタカーのワンボックスを運転して、静かにアパートの前に到着しました。
「楓、落ち着いて。時間はたっぷりある。直哉さんが帰ってくるのは明日の夜でしょ? 私たちがやるのは、ゆりちゃんと楓の生活に必要な最低限の荷物を運ぶことだけ。家具は後でどうにでもなるから」
沙織の冷静な声が、凍りついた私の耳に優しく響きます。
「ありがとう、沙織。本当にごめんね、こんなことに巻き込んで」
「何言ってんの。友達でしょ。さあ、作戦開始!」
ウェディングドレスは必要ない
直哉のモラハラは「言動」が中心でしたが、時折見せる暴力的な態度のせいで、私は常に彼の目を気にしていて、何が自分のものなのかすらよくわからなくなっていました。でも、この家にある服や化粧品、ゆりのおもちゃ、私名義で購入した書籍などは、私のものです。直哉の所有物には指一本触れないように、細心の注意を払います。
私とゆりの荷物を詰めた段ボールは20箱近く。沙織と二人で、汗だくになりながら、一つ一つ運び出します。
「これ、楓のウェディングドレスでしょ? 持っていく?」
沙織が押し入れの奥から出てきたケースを指差しました。
「ううん、もういい。直哉のモノと一緒にここに置いていく。思い出はもういらないから」
その言葉を口にした瞬間、私の胸の奥から、冷たい水が流れ去っていくような感覚がありました。直哉から離れることは、彼の支配から解放されること。それは、これまでの自分との決別でもあったのです。
ここにいれば、誰も私を貶めない
最後の段ボールを車に積み込み、鍵を締めたとき、私は思わずその場に立ち尽くしました。もう、このドアを開けることはない。そう考えると、足元が震えました。
「さあ、行こう」
沙織が私の肩を抱き、私とゆりを車に乗せてくれました。新居は、沙織が手配してくれた、直哉の職場から遠く離れた場所にあるアパートの一室。内見も沙織が一人で済ませてくれていました。荷解きを少し終えて、二人で座り込んだリビングで、沙織が口を開きました。
「直哉さんってさ、私の前でも楓に冷たかったよね『豚の餌にもならないようなメシしか作れない』って。あれ、私は聞いてて本当に腹が立った」
「そう、そうだったね……」
私は遠い日の出来事のように回想しました。
「『俺が稼いだ金で食わせてもらってるんだぞ』って。毎日、そう言われてた」
沙織は静かに私の手を取りました。
「もう大丈夫。ここでは誰も、楓を責めたりしない。ゆりちゃんも安心して眠れるよ。今日から、楓の新しい人生が始まるからね」
沙織の言葉に、私は初めて心の底から安堵し、涙があふれてきました。別居という一歩を踏み出したことで、私の心は少しずつ、彼の色から解放されていくのを感じたのです。
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あとがき:支配の鎖を断ち切る荷解き
「別居」という物理的な距離だけでなく、精神的な解放がテーマの回です。特に、ウェディングドレスを「直哉のモノ」として置いていく決断は、過去と直哉の支配から完全に決別するという楓の強い意志を象徴しています。
恐怖心で自分の所有物と彼の所有物の区別さえ曖昧になっていた状態から、冷静に「私のもの」を取り戻す行動は、自己肯定感を取り戻すための大切なステップ。友人の沙織の存在は、安心と「あなたは悪くない」という確信を与えてくれます。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










