ⓒヨンチャン・竹村優作/講談社
発達障害の専門病院は、混雑傾向にある
「もしかしたら、わが子は発達障害かもしれない…」そう感じたとき、不安が押し寄せてくることがあるかもしれません。児童精神科を舞台とした物語『リエゾン―こどものこころ診療所―』(以下、『リエゾン』)の中でも、ママたちが子どもの発達障害と向き合う葛藤が描かれています。
同作品の監修を担当した児童精神科医の三木崇弘先生は、発達障害の診断について次のように語ります。
「発達障害を専門とするのは、児童精神科です。しかし、残念ながら多くの病院で混雑している現状があります。予約は数か月先…という状況も珍しくないのです」(三木先生、以下同)
まずは身近な窓口に相談を
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『リエゾン』第1巻の中で、児童精神科医の佐山は、児童精神科が混雑する現状について上記のように語っています。一方で三木先生によると、わが子の発達に不安を感じた時点で相談できる場所は、専門病院以外にもあるといいます。
「まず、自治体の保健センターや、発達相談窓口に相談するのも手です。近年は発達相談を行っている小児科医も増えているため、一度かかりつけ医に話してみるのもいいと思いますよ。
また、チャットやメールで小児科医に相談できるサービスもあります。抱え込まず、話してみることが大切だと思います」
身近な専門家に話すことで、特性との向き合い方のヒントが得られるようです。その後、必要に応じて児童精神科を予約・受診という流れで、相談先を変えていく方法もあるでしょう。「不安な思いを吐き出したい」など、漠然とした内容であっても、相談して大丈夫。とにかく身近な専門家にコンタクトを取ることが大事です。
「早期発見しなければ」と焦らなくても大丈夫
同じく第1巻の中で、医師の佐山が「子どもの10人に1人は何かしらの障害を抱えている可能性が高い」と話す場面があります。
ⓒヨンチャン・竹村優作/講談社
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発達障害にまつわる情報は巷にあふれていて「早期発見」という言葉もよく聞くようになりました。わが子が心配な方の中には「早く発見してあげないと」と焦る気持ちを抱えている方もいるでしょう。
しかし、三木先生によれば、発達障害を発見するメリットはあるものの「診断が早いほどいいと断言はできない」とつけ加えます。
早期発見は特性の理解につながる一方、発達の偏りや遅れについて本人や家族、周囲の人が困りごとを感じていなければ、診断は必須ではないといいます。家庭や保育施設でトラブルが起きていないなら、様子を見るという選択肢もあるそうです。
診断のメリットは「周囲からの理解」
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『リエゾン』では、主人公が自らの発達障害ゆえに仕事で失敗をしたり、周囲を困らせてしまったりするシーンも描かれています。
診断を焦る必要はないとした上で、三木先生は発達障害の診断を受けるメリットについて、次のように語ります。
「診断名を付けることのメリットの一つは、周囲がその子の状態を理解するヒントになることです。例えば、よくかんしゃくを起こす子がいて、聴覚の過敏性がある発達障害だとします。その子はトイレのハンドドライヤーの音などが、他の人よりもはるかに不快に聞こえている可能性があるのです。
でも、周囲の人が障害を知らなければ『この子がかんしゃくを起こす理由がわからない』と感じているかもしれません。
そこに診断がつくと、周りがその子を理解するヒントになります。『なんで泣いてるの?』という眼差しから『不快を取り除こう』という前向きな関わりに変わるケースもあるでしょう」
「周囲の人との適切な関わり方を引き出す」という点で、診断が効果的な可能性はあります。また、診断を受けることで、自治体などの療育(りょういく)を受けやすいというメリットもあるそうです。
子どもの発達障害と向き合うには、親のリフレッシュが不可欠
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『リエゾン』第1巻では、育児で手いっぱいだったがゆえに、わが子の障害に気づけなかったことについて、母親が自分を責めるシーンがあります。
子どもに発達障害の傾向があるとき、親はどうするのがよいのでしょう。近年、発達障害の疑いがある子との関わり方の本が多く出版されています。親子の接し方に焦点が当たる一方で、三木先生は以下のように指摘します。
「子どもとの接し方に関する情報は多くありますが、僕がより優先度が高いと感じているのが『親が自分のコンディションを整える』ということです。
親は自分の状態に関わらず、子育てのタスクを継続的にやり続けがちです。休むことに罪悪感が伴う方もいるかもしれませんが、心のコンディションを整えるためにも、リフレッシュを大切にして欲しいですね」
特に子育て中のママは、毎日たくさんの「~すべき」というタスクに追われているかもしれません。そこに子どもとの接し方というマニュアルが加わるのは、大きな負担になりかねません。
「大らかに」「できるだけほめて」…そんなスキルを実践できるのは、ママ自身のコンディションが整っていてこそ。自分がリフレッシュの機会を持ち、コンディションを整えましょう。
がんばりすぎず、不安は相談を
ⓒヨンチャン・竹村優作/講談社
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『リエゾン』第1巻に登場する発達障害を持つ子を育てる母親は、受診を通じてわが子の特性について知り、笑顔を取り戻すことができました。
「日本の親は、がんばりすぎです」三木先生はこう語ります。
育児には大きなエネルギーを要します。発達が心配な子に寄り添っていくのは、さらに大きなエネルギーを要することもあるでしょう。その過程で、大人のコンディションを置き去りにしないこと、リフレッシュの機会を持つことが重要なのです。
子育て世代の幼少時代に比べると発達障害の理解が進み、自治体や小児科にも、発達に関する相談先が設けられています。そんな時代だからこそ、子どもの特性を理解しつつ、親がいかに心を楽にわが子と向き合えるかという視点も大切にしてください。
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三木崇弘先生プロフィール
画像提供:三木崇弘先生
兵庫県姫路市出身。愛媛大学医学部卒、東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 博士課程修了(医学博士)。
愛媛県内の病院で初期研修・小児科後期研修を終え、国立成育医療研究センターこころの診療部で児童精神科医として7年間勤務。愛媛時代は母親との座談会や研修会などを行う。東京に転勤後は学校教員向けの研修などを通じて教育現場を覗く。子どもの暮らしを医療以外の側面からも見つめる重要性を実感し、病院を退職。
2019年4月よりフリーランス。“問題のある子”に関わる各機関(クリニック、公立小中学校スクールカウンセラー、児童相談所、児童養護施設、児童自立支援施設、保健所など)での現場体験を重視し、医療・教育・福祉・行政の各分野で臨床活動をしている。