給食や劇の配役、作品展の選出にまで不満をぶつけ続ける鳴海さん。その強い主張は先生や保護者だけでなく、子どもたちの間にも不安と困惑を生んでいた。周囲が動けないまま迎えた学年末懇談会で、事態はさらに深刻さを増していく。
張りつめた空気の中で始まる懇談会
学年末の懇談会。教室には保護者たちが静かに集まり、子どもたちの作品が掲示された壁をなんとなく眺めながら、開始の合図を待っていた。私もその1人として席についたが、どこか落ち着かない空気が漂っている。親たちの視線が交わる度、小さな会釈だけが行き交う。
担任の坂上先生が前に立ち、いつも通り穏やかな声で話し始めた。
「今日は1年を振り返って、全体で共有しておきたいことをお伝えしますね。
まず、給食や健康チェックについてですが、安全のために全員同じ基準で行っています。たとえば、周りのお子さんがケガをしてしまうような長い爪は切っていただくことや、体調の記録は正確に記入していただくこと……」
坂上先生は淡々と穏やかな空気感で説明を進めているけれど、多くの保護者がゆっくりと、ある一方向へと静かに視線を向ける。私もつられて、視線を動かした。そこには、鳴海さんが腕を組んで座っている。まだ何も言っていないのに、顔には「不満」と書いてあるようだった。
続けて担任が「席替えについても、公平にくじ引きで決めています。先日は保護者の方の一部から席を変えてほしいとご要望があったのでが…」と説明を進めた瞬間だった。
イスがガタッと動く音がして、保護者の1人が立ち上がった。やっぱり、鳴海さんだった。
突然の怒声、揺らぐ教室
「あの席、公平なんかじゃないわよ。うちの子の周りに、仲良しの子が1人もいないって…!」
突然の怒声に、教室が震えたように感じた。周囲の保護者は一斉に固まり、息をのむ音だけが響いた。
「このお話は、特定のお子さんに関することではなくて、全体のお話で…」
坂上先生が落ち着いた声で返す。しかし、鳴海さんは前のめりになり、感情のままに続けた。
「爪のことだって、席のことだって……! これじゃうちの子が目の敵にされてるみたいで…!」
担任は決して声を荒らげず「いいえ、全体にお願いしたいことです」「優斗くんのことだけじゃないですよ」と伝え続ける。それでも母親は納得せず、肩を震わせながら主張していた。いつもとは少し違う、切羽詰まったというか、叫びにも似た主張だった。
やがて、廊下から騒ぎを見かけた職員に呼ばれて教頭先生がやって来て、鳴海さんをそっと別室へ誘導した。鳴海さんは興奮状態だったけれど、何とかその場から離れていった。
静寂だけが残った教室と保護者たち
扉が閉まった瞬間、教室には静寂だけが残った。坂上先生は小さく「……申し訳ございません。では、続きを」と言ったが、さっきまでの柔らかい声の力はほとんど失われ、少し震えているようにも聞こえた。保護者たちは最後までほとんど言葉を発せず、懇談会は淡々と、そして重く進み、静かなまま終わった。
懇談会終了後、離席から校門までの道のり、うちのクラスの保護者は誰も話そうとしなかった。同じ方向へ歩く保護者が二、三人いたのに、歩幅が自然とずれていく。まるで「触れないでおこう」という暗黙の了解が、その日の校門のあたりに漂っていた。
胸の奥に残ったのは、言いようのない疲れと、居心地の悪い沈黙だった――――。
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あとがき:誰も声を上げられない現実
学年末の懇談会は、本来なら1年の成長を振り返る温かな時間のはずでした。しかし、誰か一人の強い声が場を支配してしまうと、周囲は萎縮し、何も言えなくなってしまう。今回描かれた沈黙は、その象徴のように感じられます。
保護者、先生、そして子どもたち──誰もが疲弊しながらも、事態を変えられないまま日常が続いていく。その重さが静かに胸に残る回となりました。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










