美羽の小学校で1学期懇談会が開かれ、主人公はそこで派手な服装の保護者・鳴海さんと対面。周囲が戸惑う中、鳴海さんは「うちの子に爪を切らせないで」と強く主張し、場の空気が一変して―――。
懇談会で出会った派手な保護者
7月の午後。強い日差しを日傘で避けながら、私は小学校へ向かっていた。娘の保護者懇談会に参加するためだ。学校につくと、教室の前にはすでに数名の保護者が集まっていた。最近は働いている親が多いからか、オフィスカジュアルのような服装の親たちが目立つ。
そんな中、ひときわ派手なアロハ柄のワンピースを着たママが視界に飛び込んできた。赤、黄色、青、緑の原色の絵柄に、ギラッとしたゴールドのアクセサリー。 その人は、他の保護者に挨拶をしないどころか、腕を組んで無愛想に教室を見渡している。
(ちょっと、近寄りがたい人かも……)
そう思っていると、ママ友が近づいてきて、小声でささやいた。
「あの人、うちの組の保護者だって。鳴海さんっていう人…」
「へぇ……ちょっとユニークだよね」
「入学式でド派手な着物だった人かな…まさか同じクラスになっちゃうとは…」
派手な装いに保護者たちの視線が彼女に自然と集まる中、当の本人はまったく意に介していない様子だった。
「爪を切らないで」突然の要求
教室に案内されるとすぐに、懇談会が始まった。担任の先生は坂上先生という、若い女性の先生で、はきはきと懇談会をスタートさせてくれた。
「本日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。本日は1学期の振り返りと夏休みの過ごし方など、お話できればと思います。どうぞよろしくお願いいたします」
先生がていねいに頭を下げると、保護者たちも笑顔を返した。
「では、お手持ちの資料に、学校生活の基本的なお話が載っていますので、ここに沿ってお話をしたいと思います」
先生が作った資料には、学校生活に必要なものや、髪型や服装、爪切りの推奨など基本的な安全上のルールが書かれていた。保護者は先生の話を納得しながら聞き入っていた。でも、あの鳴海さんだけは違ったようだ。
「先生、ひとついいですか?」
鋭い声が教室に響く。坂上先生は少し驚いたように顔を上げる。
「はい、どうされましたか?」
「うちの優斗は“配慮”が必要なんです。何ていうか……繊細で、扱いが難しいんですよ」
突然の申し出に、周囲の保護者がザワっと視線を交わす。だが鳴海さんは全く気にせず、話を続けた。
「うちの子は深爪がすっごく苦手なんです。爪を切られると泣いて、イライラしたり体調を崩すこともあります。だから、優斗だけは爪が伸びていても指導しないでもらえます?」
優斗くんの爪の話は、娘の美羽から聞いたことがあった。「爪が長くて、プールの健康チェックでいつも注意されてる子がいる」と。坂上先生は戸惑いを隠せない表情で訊ねる。
「お、お母さま……あの、清潔面や安全面を考えると、学校としては適切な長さに整えていただきたいのですが……」
すると鳴海さんは、スッと立ち上がり反論を始めた。
「大して伸びてないですよ。ちょっと指から出ているくらい。こんなの『多様性』の範囲だと思うんですけど?」
娘から聞いた“危うさ”
(多様性って…爪が伸びてたら他の子にケガをさせる可能性もあるのに…)
別の保護者が遠慮がちに手を挙げた。
「でも……優斗くんが体育のときにケガしたりしたら、危ないんじゃないですか?」
途端に、空気がピリッと凍る。鳴海さんの目が細くなり、睨むような視線が飛んだ。
「余計なお世話です。私が良いって言ってるのに、なんで他人が口出すんですか?」
その瞬間、教室の温度が一気に下がった気がした。坂上先生は必死に場を整えようとする。
「お話はわかりました。しかし安全の問題もあるので、持ち帰って個別にお返事させていただきますね」
鳴海さんは満足げに腕を組んだ。懇談会はその後も進んだが、もう内容が頭に入らない。
(なんか……いつか絶対トラブルになりそう……)
―――帰り道、私はただ胸を曇らせることしかできなかった。
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あとがき:親の“こだわり”と学校との距離
懇談会での鳴海さんの言動は、学校と家庭の考え方の違いがそのまま表面化したものでした。安全を第一に考える先生と、“個性”を理由に主張を押し通そうとする保護者。どちらの感情も理解はできるものの、子どもたちの生活に支障が出るなら無視できません。
美羽の不安げな表情を見て、主人公は「このままでよいのか」と胸の奥がざわつき始めます。小さな違和感が、今後の大きな波乱の予兆になりそうな予感が漂う回でした。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています










