妊娠・出産を機に仕事を辞めざるを得ない場合も
ここ数年で、女性が働きやすい環境に変化しつつあるものの、妊娠・出産時期に当たる20代前半から30代後半で一度下がっており、育児が落ち着いたであろう40代から再び上がっているという現象が内閣府の調査で分かっています。
厚生労働省が調査した「出産時の母親の年齢」でも、20代前半から30代後半に集中していることが分かっており、これは昭和60年から約30年間変わっていません。
再就職に関しても、昭和50年代から40代以降に労働率が上がっています。
就業者こそ増えたものの、妊娠・出産を機に一度職場を離れて、子育てが落ち着いたころに再就職したいというママの気持ちは、昭和の頃から変わっていないのかもしれません。
仕事を続けたくても続けられない主な理由
明治安田生命が2016年3月11日~16日に20歳~49歳の男女3,595人に、「妊娠・出産を機に仕事を辞めた理由」を調査したところ、22.6%が「職場の子育て環境や制度が不十分だったから」23.3%が、「育児をしながらの仕事が大変」という回答がありました。
その他にも「職場が仕事の継続を受け入れてくれなかった」が16.5%あり、全体的に「職場の子育てに関する理解、制度が充実していたら辞めていない」という回答が目立ちます。
女性向けアプリ「ママリQ」でも妊娠・出産を機に退職を考えた、また実際に退職したママの声が複数ありました。
子育てしながら働ける環境ではなかった
早出、残業、持ち帰り、土日出勤も当たり前だったので無理だなと(^^;;
職場には言わなかったけど、2人目が早く欲しかったのに、復帰したらまた1〜2年あけなきゃいけないのも理由です。
核家族の家庭では、旦那さんも一緒に子供を育てられる環境でないと、なかなか仕事復帰が難しい場合もありますよね。
自分自身の職場環境も出産したからといって変わることのない場合は、退職を考えてしまう方が少なからずいます。また、2人目の子供を考えていると働き方は更に考えないといけなくなるでしょう。
家族の介護のため
家族の介護が必要になると、子育てとの両立も考えて仕事復帰するのは難しいのでしょう。介護と子育てを両立することを「ダブルケア」と言い、近年社会問題にもなっています。
通勤に時間がかかる
こちらは先ほどの調査結果にもあった、職場の環境が出産と同時に辛くなった理由の1つでもあるのではないでしょうか。
通勤に時間がかかってしまう、特に朝は戦いです。1日中とにかく走っている状況になってしまいます。これは正社員という契約でも、乗り越えられない壁なのかもしれません。
待機児童問題…
待機児童は大勢のママが頭を抱えている問題ではないでしょうか。私の友人で妊活をしながら保活をしている人がいます。
保育園の有無で、子供を産むかどうかを考えてしまう現実があります。ただ、純粋に子供を欲しいと思えるように早く解消して欲しい社会問題です。
- 内閣府「女性の労働力率(M字カーブ)の形状の背景」(http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h25/zentai/html/honpen/b1_s00_02.html,2017年6月23日最終閲覧)
- 明治安田生活福祉研究所「20~40代の出産と子育て」(http://www.myilw.co.jp/research/report/pdf/myilw_report_2016_03.pdf,2017年6月23日最終閲覧)
- 厚生労働省「平成27年人口動態統計月報年系(概数)の概況」(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai15/dl/gaikyou27.pdf,2017年6月23日最終閲覧)
妊娠・出産で退職するか否かで約2億円の差が
労働政策研究・研修機構によると、女性が大学卒22歳から60歳の定年になるまで、同一事業主で働き続けると生涯賃金が約2億円になるようです。
単純に考えて、妊娠・出産を機に退職をしてしまうと生涯賃金に約2億円もの差がうまれてしまうのです。勤続年数や雇用形態によっても変動はありますが、働き続けたいと思う女性は多いのではないでしょうか。
- 労働政策研究・研修機構「うーすふる労働統計2016」(http://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/kako/2016/documents/useful2016.pdf,2017年6月16日最終閲覧)
ライフスタイルが変わっても仕事を続ける権利がある
女性は、ライフスタイルによって働き方が変わってくることがあります。妊娠・出産、人によっては家族の介護で働き方を変える、もしくは働かないという選択をせざるを得ない場合があります。
しかし、先ほどのデータ通りライフスタイルや家庭の状況で仕事を諦めてしまうと、生涯賃金に大きな差が出てきてしまいます。家族のために働かなければならない、また自分自身が働きたい、そう望む場合には仕事を続けることをおすすめします。
女性も男性と同様、どのような状況下にいようと仕事を続ける権利があります。
妊娠出産を理由としたハラスメント
男女雇用機会均等法では、「妊娠・出産・子育てを機に不利益扱いすること」は立派なハラスメント行為であり、法律違反としています。
当人に心身に苦痛があれば、行為をした側からすると大したことないと思っていても、ハラスメントになってしまうので、お互いに気を付けなければなりません。特に、妊娠中はそれだけで精神的にナイーブな時期になります。
法律として主に不利益な扱いと考えられている例は「解雇、契約更新しない、契約内容の変更を強要、降格、減給…」等になります。これらが、妊娠・出産・子育て関係なく他の従業員と同等の立場で行われているのであれば問題なく、事業主はその旨を証明する義務があります。
思い当たる節のある方は、会社の人事労務や労働組合、社外であれば各自治体が設けている労働局に相談することをおすすめします。
雇用形態に限らず産休・育休は取得できる
正社員だけの権利と思いがちですが、パートやアルバイト、派遣社員などの雇用条件に限らず、働く全ての女性が産休を取得することができ、一定の条件を満たすことができれば、育休を取得することもできます。
有期契約労働者が育休を取得する場合は、同じ職場で1年以上の雇用、子供が1歳の誕生日以降も雇用されることが見込まれている、などの条件があります。
妊娠・出産を望む正社員以外の方は、1年以上同一の事業主に勤めることをおすすめします。妊活のため正社員からパートなどの有期契約労働者として働くことを考えている方は、転職して3~4か月後に妊娠を確認することができると、産休に入るまでに1年以上勤務することになりますよ。
条件を満たしさえすれば、誰でも取得する事のできる当たり前の権利なので、「前例がない、雇用形態を満たしていない」などは理由になりません。社内外の相談窓口をうまく利用してみて下さいね。
会社でトラブルが起きそうな時の相談窓口
会社内に相談窓口がある場合は、会社のことを良く知っている場所になりますので、おすすめします。社内にない、また社内での相談は気が引ける場合は、厚労省が各都道府県に設置している相談窓口がありますので、調べてみて下さいね。
- 厚生労働省「職場でつらい思いしていませんか?」(http://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/danjokintou/dl/turai_omoi.pdf,2017年6月16日最終閲覧)
- 女性労働協会「妊娠・出産等を理由とする不利益取り扱いの禁止」(http://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/gimu/w_kitei.html,2017年6月16日最終閲覧)
- 厚生労働省「あなたも取れる!産休&育休」(http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/dl/31.pdf,2017年6月16日最終閲覧)
- 厚生労働省「有期契約労働者を対象とした配布書式」(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ikuji_handbook/dl/03-02.pdf,2017年6月16日最終閲覧)
当然の権利を利用して欲しい
内閣府は、冒頭で述べた妊娠・出産を機に退職してしまい就業率が下がっていることを受け、2020年までに女性就業率を73%、第一子出産前後の継続就業率を55%まで引き上げることを、新成長戦略の目標として掲げています。
ただ、継続して就業するということが、子供を育てるママにとって難しい場合もあるかと思います。マタハラを受けた職場に復帰するのこと自体が苦痛である、1人目は付きっ切りで育児をしたい、小さい頃の成長を見届けたい、と思うママもいるのではないでしょうか。
そのような女性のためにも、一度離れた働きたい女性が、なんの足かせもなく復職できる社会づくりになっていると良いな、と思います。
そして今、職場で退職を考えている方は、職場環境や産休・育休で困っているのであれば、辞める前にまずは、職場の担当部署に相談してみることをおすすめします。
女性として当然ある権利を捨てずに、堂々と利用してほしいと私は思います。
- 内閣府「「新成長戦略」について」(http://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/pdf/seityou-senryaku.pdf,2017年6月16日最終閲覧)