出生率が上がらない日本
昨今、日本の出生率が減少傾向にあるということをニュースやインターネットの記事などで目にします。最近のことのように思われる傾向がありますが、実は昭和50年以降は減少を続けています。その後も増加と減少を繰り返しながら現在に至ります。
厚生労働省の発表によると、昭和22~24年の第1次ベビーブーム期は、最高の出生数といわれていて1年で約260万人を超える赤ちゃんが誕生しました。その第1次ベビーブーム期に生まれた女性が出産することにより、昭和46~49年には第2次ベビーブームを迎え、このときは1年で約200万人もの赤ちゃんが誕生しました。
しかし、第2次ベビーブームを境に、出生数は徐々に減少しています。
- 厚生労働省「出生数の年次推移,母の年齢」(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai14/dl/h3-4.pdf,2017年7月28日最終閲覧)
- 厚生労働省「平成23年人口動態統計月報年計(概数)の概況:結果の概要」(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai11/kekka02.html,2017年7月28日最終閲覧)
出生率が上がらない理由
出生数は急に減少したわけではありませんが、何年もかけて少しずつ少なくなってきています。理由は一つではなくさまざまなところにあると思いますが、出産年齢の上昇による体力的な問題や経済的な理由、核家族化など現代の生活スタイルが大きく影響しているように感じます。
また、共働き世帯の増加により、出産しても子供の預け先や子育て支援を利用できないことに悩む夫婦が増えています。2013年に国立社会保障・人口問題研究所が、全国の50歳未満で初婚どうしの夫婦の妻6,705人に行った「出生動向基本調査」によると、各家庭で理想とする子供の人数は2人以上という結果が出ています。
しかし、厚生労働省大臣官房統計情報部の、「21世紀出生児縦断調査及び21世紀成年者縦断調査特別報告(10年分のデータより)」のデータによると、実際に理想の人数もしくはそれ以上の人数を出産している女性は7割程度ということもわかっています。
経済的、身体的な不安
国立社会保障・人口問題研究所が2010年に行った第 14 回出生動向基本調査によると、出生率低下の理由の一つに経済的、身体的なものが挙げられます。
特に30歳未満の若い世代では、「子育てはお金がかかりすぎる」「収入が不安定」という経済的な理由が多く、30代以降の世代は「子供が欲しいけれどできない」「肉体的な負担に耐えられない」などの身体的な理由を挙げる人が多いようです。
また、中には「夫の家事育児協力が得られない」「協力してほしくてもできない」「夫がが子供を望んでいない」など夫に関する理由も。
私自身30代になってから2人の子供を出産していますが、子育てに対しての不安は尽きません。さまざまなところで想像以上にお金がかかります。
また、一人目出産後から体力の低下と度重なる体調不良に悩まされるようになり、自分はきちんと子育てをしていくことができるのか不安になったのを覚えています。とてもありがたいことに2人目を授かることができましたが、やはり体力低下や体調不良は改善されません。
十分でない子育て支援制度
現代は核家族化が進み、共働き世帯の増加によって、ママたちの子育ては厳しさを増しているように感じます。自分の子育てなのだから大変なのは当たり前と思われるかもしれませんが、昔は近くに祖父母がいたり、ご近所づきあいが盛んで、常に誰かが子供をみていてくれたりしていました。
しかし、現代はご近所づきあいが希薄になり、実家も遠くにあるため近くに頼れる人がいないという人はたくさんいると思います。私自身もそのうちの一人です。
また、前出の国立社会保障・人口問題研究所の調査では、出産後も仕事を継続したいと思うママは増えていて、産前産後休業制度(産休)、育児休業制度(育休)を利用する人が増えている一方で、パパがこれらの制度を利用する頻度は極めて少ないという結果が出ているようです。仕事をしながらの育児に不安を抱えるママたちもおり、そういった事情が出生率の伸び悩みに拍車をかけているかもしれません。
さらに雇用形態を問わず仕事をするママが増えたことにより、1990年代以降3歳未満を対象とした保育園の利用が増えており、2000年代に入っても保育施設の需要は高まる一方です。
保育園の開設はもちろんのことですが、各自治体の支援がさらに充実したものになると、子育てをしていく上での安心感につながるのではないかと私は思います。
- 厚生労働省「若者の意識を探るP95~97」(http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/13/dl/1-02-3.pdf,2017年7月28日最終閲覧)
- 国立社会保障・人口問題研究所「結婚と出産に関する全国調査P8.P14~17」(http://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou14/doukou14.pdf,2017年7月28日最終閲覧)
出生率低下に歯止めをかける改善策はある?
今出生率が下がっていると聞いてあまりピンとこないという人がいるかもしれません。しかし、出生率の低下は日本の人口減少を意味しているのと共に、超高齢社会を迎えることになります。
今の子供たちが大きくなったときの負担はどのようなものなのでしょうか?日本の出生率をあげるために、今できることはないのでしょうか?
出生率の低下、少子化というと日本の社会問題と捉えられ、ママたちやその家族ができることなどないと思われるかもしれませんが、働きながら子育てをして決められた税金を払っている、それも大きな貢献といえるでしょう。
子育て世代が、子供を持つか持たないかで悩むことが少なくなるような解決策を実現できるよう、いくつかの改善案をご紹介します。
学費や医療費を無償化する
出生率の低下に悩んでいるのは日本だけではありません。経済同友の「出生率向上を実現させたフランスの子育て政策」では、フランスも一時期出生率が1.65まで下がったことがあるものの、現在は2.00にまで回復しているという内容が紹介されています。
フランスの少子化政策の例を挙げてみると、まず子供の人数が多いほど税率が低くなる税の軽減策があるといいます。子育て中の女性の約9割が仕事に就いており、また、育児休業や託児所の整備を積極的に行い安心して子育てできる環境を確保しているようです。
さらに、フランスでは子供の医療費や教育費にいたっても国が負担してくれるという政策も。日本においては高校の授業料無償化というニュースがありましたが、フランスでは大学の授業料も無料というから驚きです。子育てにおいて教育費を考えるのは悩ましいこと。
同じような制度が日本にあったとしたら、本当にありがたいことですし、経済的な余裕があれば、もう一人子供が欲しいと思っている人もいるでしょう。諸外国にならうとまではいかなくても、日本でも早急に学費や医療費の無償化を実現して欲しいと思います。
妊活〜妊娠のサポートを充実させる
今の日本は、諸外国に比べて妊活中や妊娠中のサポートに対してはまだ後進的といえます。働きながらでも、妊娠出産をより身近に感じることが出生率アップの鍵ともなりそうですが、子供が欲しくても仕事が忙しくてタイミングがつかめない、妊活がうまく進まないという女性もいるはず。
妊活は費用が高いし、場合によっては精神的にも体力的にも大変なものです。ずっとは続けられないという声を聞いたことがあります。補助金も十分なものではないため途中であきらめてしまう人も少なくありません。あと少しでいいから、経済的、身体的なサポートがあるといいのにと思う人もいるでしょう。
また、妊娠中の妊婦健診では15回分の補助券が発行されますが、それでも助成以上の費用を多く払っているひとが多いと思います。都市部では、出産費用も高い設定で、実際に支払う金額が高くなる傾向にあるため、妊婦健診だけでも無償化となれば嬉しい限りです。
出産適齢期を迎えている多くの女性たちが安心して子供を生みたい、と思えるような環境づくりや法整備が今急務といえるではないでしょうか。
時短でも預けられる保育施設を
保育園に子供を預けて仕事をするには勤務日数や時間などさまざまな制限があります。待機児童が多い地域での保育園入園はさらにハードルが上がるでしょう。
しかし、フィンランド外務省が出している「フィンランドの子育て支援」によると、フィンランドのでは母親の就労の有無にかかわらず誰でも保育園に入れるという保育制度があり、夜間保育や特別支援が必要な子供にも低価格で良質な保育を提供することが義務付けられているようです。
利用者の90%が自治体の公的な保育を利用しているようですが、仕事が決まった、就学や資格取得するなど急を要する保育利用の場合は、入園の申込み後2週間以内に保育サービスの提供を受けることができます。
1日の利用は最長10時間までですが、希望があれば朝食を保育園内で食べることが可能というから驚きです。今の日本の保育サービスでは想像がつきませんよね。
細かなサービスは難しくても、時短勤務でも仕事をしていなくても、保育園に入園できるシステムがあるだけでだいぶ気持ちが楽になりますし、充実の子育て支援といえるのではないでしょうか?
子育て世代の気持ちのゆとりが、出生率の低下をおさえる力となると私は考えています。
- 経済同友「出生率向上を実現させたフランスの子育て政策」(https://www.doyukai.or.jp/publish/2012/pdf/2012_09_05.pdf,2017年7月27日最終閲覧)
- フィンランド外務省「フィンランドの子育て支援」(http://www.finland.or.jp/public/default.aspx?contentid=332415,2017年7月27日最終閲覧)
日本を支える力を失わないために
日本の出生率は下がる傾向にあります。子供が欲しいという夫婦はいるはずなのに、なかなか出生率が上がらないというのが現実です。
子供が欲しいけれど躊躇している、出産育児は大変、お金がかかる、だから仕事をしなければならないけれど預け先が見つからないなど、現時点で不安や問題は山積みかもしれません。
子供を育てたいと考えているのになかなか踏み切れないというのは悲しいですよね。他国では少子化をふせぐための政策や子育て支援がたくさんあります羨ましく感じることがあります。しかし私たちが住んでいるのは日本。
子供を生み、のびのびと育てることや、生まれた子供たちがたくましく成長できるような社会を目指して、今私たちにできることを皆で少しずつ進めていけるとよいなと私は思います。
一人の力ではなかなか前に進まないことも、皆でやることで大きな成果につながるかもしれません。今子供が欲しいけれど不安を持っている人たちが、今よりも希望を持てる世の中になることを願うばかりです。