産後クライシスとは何か
「産後クライシス」とは、子どもの出産後に起きるパパママの不仲のことです。出産してから、慣れない育児に心身ともに精一杯な母親に対し、父親が手を差し伸べることなくそれまでと変わらない生活を続けているなど、夫婦間での考え方にズレが生じることを指します。
そのような状態だと、イライラしたり夫への愛情がなくなったと感じたりするのです。
- 独立行政法人労働者健康安全機構山陰労災病院「いまどきの子育て」(https://www.saninh.johas.go.jp/sas/kowa/201801.pdf,2021年6月12日最終閲覧)
- 男女共同参画局「「共同参画」2012年 10月号」(https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2012/201210/201210_06.html,2021年6月12日最終閲覧)
- 塩野悦子「産後クライシスのからくりと予防方法」助産雑誌71巻10号,pp.748-755(2017年10月)
産後クライシスになる原因とは
かわいい子どもが生まれたのに離婚の危機…パパママをまさに危機的状況に陥れる産後クライシスは何が原因で起きるのでしょうか?
対策を練るためには原因を知ることが欠かせません。原因を知って、協力しあえる夫婦を目指しましょう。
出産・育児で盛んに分泌されるホルモンの影響
女性は、妊娠中から産後にかけてホルモンバランスが大きく変動します。産後、涙もろくなったなどの自覚がある方も少なくないでしょう。
ホルモンの名は「オキシトシン」。出産時や産後の授乳時、わが子と触れあっている時などに多く分泌され、脳に作用して、わが子やパートナーへの愛情を強める働きをしています。ところが最近、愛情だけでなく、同時に「他者への攻撃性」を強める作用もあることが明らかになりました。 ※1
このように、子どもと触れ合うことで分泌されるホルモンがイライラにつながってしまうのです。
- NHK「NHKスペシャル ママたちが非常事態!?2」(https://www.nhk.or.jp/special/mama/qa.html,2021年6月24日最終閲覧)
- 川野 亜津子 , 江守 陽子「出産後3ヵ月までの母親における心理状態の縦断的調査」 母性衛生 = Maternal health52(4),464-471(2012-01-01)
育児へのパパの協力体制が不十分だから
結婚直後夫に向いていた愛情は出産直後から子どもに向けられ,「ふたりで子育てした」妻の夫への愛情は回復していくが,「ひとりで子育てした」と考える妻のそれは低迷,今話題になっている「産後クライシス」であり,やがて熟年離婚につながる可能性があるという. ※2
産後クライシスは出産・育児によるホルモン分泌が原因でもありますが、育児に対するパパの協力体制が不十分であると、さらに悪化しがちになります。
パパとママが協力しあって子育てをした場合、出産後しばらくするとママのパパへの愛情は戻るそうです。しかしママが「1人で子育てをした」と思った場合、出産後から時間を経てもパパへの愛情は戻らず、下手をするとさらに低下してしまうことも…。
日本ではまだまだ「育児は女性の仕事」と考える人が多く、日本特有の考え方がママの産後クライシスを助長していると考えられます。産後クライシスを軽くするためには、パパが育児を主体的に行うことが欠かせませんね。
- 内閣府「高齢者の育児参加で未来を切り開く」(https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/kokufuku/k_3/pdf/s3.pdf,2021年6月24日最終閲覧)
- 女性心身医学「女と男の関係性からみた心身医学 —女性漢方外来からみた女性心身医学—」(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspog/23/3/23_208/_pdf/-char/ja,2021年6月24日最終閲覧)
産後クライシスの乗り越え方
さまざまな原因が絡んで起きる産後クライシス。生まれてきたかわいい子どもとともに、今後も家族で仲良く暮らしていくため、産後クライシスの乗り越え方について確認していきましょう。
産後クライシスはパパとママの両方に原因があるので、それぞれができることを分けて、乗り越え方をお話していきます。
【ママができること】パパに対して寛容になること
まずは産後クライシスの乗り越え方として、ママができることから見ていきましょう。
ホルモンバランスの影響などもあるとは言え、ママがパパに対してイライラしてしまうと産後クライシスが悪化してしまいます。そこでママは、パパに対してなるべく寛容になることが大切です。
家事・育児を少しでも協力してくれることがあれば、思い切り喜んで甘えてあげてください。他の家のパパと比べて「あそこのパパはこれだけしているのに…」と考えることも避けてくださいね。
ママがパパに対して寛容な姿勢を見せれば、ご自身のイライラも減るでしょうし、パパも喜んで家事・育児に協力してくれるようになるかもしれません。
- 独立行政法人労働者健康安全機構山陰労災病院「いまどきの子育て」(https://www.saninh.johas.go.jp/sas/kowa/201801.pdf,2021年6月24日最終閲覧)
【ママができること】子どもと離れる時間を作ること
子育てに終始不安を抱えているタイプのママは、定期的に子どもと離れる時間を作ることも大切です。育児は24時間、毎日、何年も続く大変なお仕事です。育児のことばかりを考えていると息をつく暇もなくなり、ママの心はいっぱいいっぱいになるでしょう。
そこで、1週間に1回、1か月に1回などタイミングを決めて、子どもと離れるための時間を作ってみてください。そしてご自身の好きなことを思い切り楽しみ、羽を伸ばす時間を作りましょう。
ご両親やパパの協力や民間サービスの利用が必要となりますが、ママが育児から離れることは、パパに育児を協力してもらうきっかけにもなりますね。
【パパができること】ママの身体の変化について知ること
ここからは産後クライシスの乗り越え方として、パパができることをお話していきます。まずは、産後のママの身体の変化についてよく知ることが基本のポイントです。
妊娠・出産・育児を経験した女性の身体は、妊娠前の身体とは全く違います。妊娠中はつわりやホルモンバランスの変化による自律神経の乱れを経験し、出産時は自律神経のバランスが崩れることで悲しくなったり、落ち込んだりします。
そのような不安定な状態で、言葉が通じない子どもの面倒を24時間見なければならないのですから、心身ともに疲れ果ててしまうのが産後のママです。産後クライシスを防ぐためには、まずパパが、心身ともに疲れ切っているママの身体を理解することから始めましょう。
- 独立行政法人国立病院機構大阪南医療センター「心理士」(https://osakaminami.hosp.go.jp/section/cnt1_000107.html,2021年6月24日最終閲覧)
【パパができること】家事・育児にできるだけ協力すること
大事なポイントは「育児で常にストレスを抱えがちな妻の状況に、“寄り添い”の気持ちを示すこと」。物理的に子育てを分担することももちろん大切ですが、一人で頑張る母親たちのつらさを理解し、共感し、「よくがんばってるね」と認めてあげることが、オキシトシンの作用でイライラを感じやすいママたちの心を安らがせ、円満な夫婦関係にもつながると考えられるのです。 ※3
パパができる限り家事・育児に協力し、ママの心を支えてあげることがママの大きな助けとなります。
パパも仕事で疲れていると思いますが、物理的になにかができない場合でも、気持ちに寄り添ったり話を聞くことを大事にしてほしいです。
【パパママが協力すること】出産後の家事・育児の分担について決めておくこと
産後クライシスの乗り越え方として、パパママそれぞれに心がけるべきことがありますが、やはりパパとママが協力し合うことがいちばんのポイントです。
協力しあって子育てをしていくためには、出産前から産後クライシスについての知識を得て、出産後の家事・育児の分担について決めておくことがおすすめ。パパが行うルールになっている部分があれば、ママは安心して身体を休められますよね。
熟年離婚は主に産後クライシスが原因だという考えがありますが、熟年離婚につながる産後クライシスは「役割期待のズレ」から生じるそうです。つまり、ママがパパに期待していた役割を、パパが果たしてくれなかったということ。
数十年後離婚の危機に陥らないためにも、役割分担をはっきりとさせて、「役割分担のズレ」をなくしていくことは欠かせません。
- 女性心身医学「女と男の関係性からみた心身医学 —女性漢方外来からみた女性心身医学—」(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspog/23/3/23_208/_pdf/-char/ja,2021年6月24日最終閲覧)
【パパママが協力すること】お互いの気持ちや不満を伝えること
パパとママがお互いの気持ちや不満をしっかりと伝えることも、産後クライシスの乗り越え方。産後クライシスはお互いの考えや思いのすれ違いが原因でもあるので、お互いの気持ちをその都度伝え合えば、すれ違いが起きることは少なくなります。
パパとママは夫婦ではあっても、考えていること、思っていることが全く違い、わかりあえていないこともあると思います。言葉にして伝え、冷静に話し合い解決策を探ることで産後クライシスを乗り越えるための糸口が見つかるのではないでしょうか。
- 日本助産学会誌「育児期にある夫婦ペアレンティング―互いの育児の批判をめぐって―」(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjam/advpub/0/advpub_JJAM-2019-0009/_pdf,2021年6月24日最終閲覧)
先輩ママの産後クライシス体験談
産後クライシスは誰しもが陥る可能性がある症状。先輩ママたちはどのような産後クライシスを経験したのでしょうか?ママリに寄せられたコメントを参考にして、対策を考えていきましょう。
私たちは母親になって、神経質になったり気が張ってるので、本当に少しのことでイライラしてしまったりしますが、お母さんも上手くイライラを発散できる方法を探したり、気分転換になることをする時間を作って、旦那さまとも仲よくできるといいですね。
我が家は旦那が冷静なので、ケンカしてても私の話をよく聞いてくれてました。どうしたいのー?俺はどうしたらいいのー?って。
それと、育児に自信持って。お腹の中で大切に育ててきて、もう立派な母親だよ( ^ω^ )一緒に少しずつ親になろう。って言ってもらえて、ケンカも減りました。
お互い協力して乗り越えようと思うか、が大事と思います。
先輩ママたちも、さまざまな形で産後クライシスを経験されたようです。やはり乗り越え方としては、パパと話し合うこと、パパにママの気持ちややってほしいことを理解してもらうことが効果的なようですね。
パパママが険悪な雰囲気になると、子どもにもその感情が伝わってしまいかねません。子どものためにも、パパママがお互いを理解して、協力しあえる体制を築くのが一番の対策でしょう。
産後クライシスの乗り越え方は夫婦でわかりあうこと
産後クライシスの症状や原因をチェックしてきましたが、最も有効な乗り越え方は、パパママがお互いのことをわかりあうことでしょう。
また、ママが育児から少し離れて母ではなく「私」の時間を持つことも大切かもしれません。子どもが小さいうちはなかなか自分の時間が持てないこともありますが、意識的にリラックスできる状態を作れるとよいですね。