メディア視聴「2時間まで」は、動画が発達に悪いから?
2歳以降のメディア視聴時間の目安について、日本小児科医会は「1日2時間以内に」と提言しています。
2時間以内にと言われると、動画が発達に悪影響だからだと思う方もいるかもしれません。しかし、動画の発達への影響について、今ははっきりとした研究データがありません。提言の根拠は、2歳以降の子どもに必要な時間(食事・睡眠・遊びなど)を確保した上で残る時間が、1日2時間程度だろう、というものです。
臨床発達心理士の新井範子(あらい のりこ)さんは、動画を子育てに取り入れる際の考え方について、以下のように語ります。
「子どものコミュニケーションの基盤が作られるのは、0~2歳までの時期です。そのため、2歳未満の動画視聴は小児科医会も『控えましょう』としていて、私もその通りだと思います。
2歳以降になってから動画を子育てに取り入れ始めるときには、動画を悪と考えるのではなく、長時間の視聴にならないようにうまく使って、動画以外の時間も充実させることが、子どもの発達にとって大切です」
- 日本小児科医会「子どもとメディア委員会」(https://www.jpa-web.org/about/organization_chart/cm_committee.html,2021年7月7日最終閲覧)
動画は「見せる」ではなく「使う」
新井さんは「動画を『見せる』ではなく、目的を持って『使う』と考えれば、育児の味方になります」と話します。動画を使う目的とは、例えば以下の3つのことです。
1. 親が家事や休息の時間を確保する
「2歳ごろの子どもは甘えたがったり、いたずらをしたり、目が離せませんよね。親は気が休まらないと思います。そんなとき、動画を使って子どもが大人しくしてくれると、親が安心して家事をしたり、少し休んだりできます」(新井さん)
親が家事をうまく進められたり休んだりできることは、結果として余裕を持った育児につながり、子どもにとってもプラスになることがあると、新井さんは語ります。
2. 子どもの興味を広げる
「例えば、遠くに行かないと見られない乗り物、あるいは日本には生息していない動物なども、動画を使えば簡単に観察できます。親子で一緒に見ながら『こんなところがいいね』『面白いね』と話して興味を広げられるのは素晴らしいことです」(新井さん)
動画だからこそ見られる世界はたくさんあります。親子でさまざまな動画を見ることで、わが子が何が好きなのか見つけるきっかけになるでしょう。
3. 親子遊びの参考にする
「家で過ごす時間が長くなると、親子での遊び方がマンネリ化しますよね。そんなとき、新しい手あそびや折り紙の折り方など、遊び方を見つけるのにも動画が役立つと思います」(新井さん)
新井さん自身も子どもと一緒に過ごす時間には、動画で手あそびや折り紙の折り方を見て、まねをしているそうです。
動画以外の時間に、発達をサポートする方法
動画は目的を持って使いつつ、それ以外の時間を充実させることで、より発達への不安を和らげられると新井さんはいいます。ここからはその例を3つお伝えします。できるものから取り入れてみましょう。
1. 笑い声が出たり、体を動かしたりする遊びをする
「声を出して笑うような遊びを取り入れると言葉の発達につながります。『キャキャキャ!』と思わず声が出て笑い合えるようなものが良いですね。例えば、くすぐり遊びや追いかけっこなど。また、散歩などの全身運動や、お絵かきなど手先の運動も、この時期に取り入れたい遊びです」(新井さん)
動画を見ていない時間に「心を動かす(笑う)・体を動かす・手先を動かす」の3つを動かす時間を取り入れると良いでしょう。
2. 親子でやり取りをする
「食事のときに会話をしたり、お手伝いを頼んだりするとよいと思います。両親が忙しいと、遊ぶ時間をきっちり取るのは難しいと思うので、日々の生活の中で少しでも多くやり取りをすることを心がけてみましょう」(新井さん)
日常生活の中でのやり取りを意識することなら、忙しい方でも取り入れやすいかもしれませんね。
3. 十分な睡眠を取る
「十分に寝ることは子どもの発育上大切なので、睡眠時間は削らないようにしましょう。特に注意したいのは、寝る前にメディア画面からの光を浴びること。子どもが見ていなくても、部屋のテレビがついている状態でも目が冴えてしまうことがあります」(新井さん)
子どもが質の良い睡眠を十分にとれるように、眠る前のメディア視聴は親子で控えましょう。
目的を持って、動画をうまく使おう
新井さんが話すように、子どもが一人で動画を見ているだけではコミュニケーションが生まれなくても、親子で一緒に見て会話の種にしたり、遊びのネタを見つけたりできれば、立派なコミュニケーションのきっかけになります。
動画を使って育児の味方にすることと同時に、動画を見ている以外の時間の過ごし方にも目を向け、子どもとの時間を充実させましょう。